iPhone返却時は携帯会社に申し込めば所定の用紙と返送用キットが送付される。返さず支払いを続け、自分のモノにもできるが総支払額はApple本家のほうが安い(photo 編集部・中島晶子) 毎月の支払いが通常の分割払いより安くなり、所定の時期に返却すれば「それ以降の支払いがタダ」。いいことだらけに見える携帯会社の機種購入プランだが、裏にカラクリがある。AERA 2023年2月13日号より紹介する。
【シュミレーション】本当に得?本家Apple vs 4大キャリア「iPhone14 Pro分割払い」徹底比較! * * *
海外ではAndroid端末のシェア72%、iPhone27%。国内では前者が33%、後者が67%(2022年12月末)。日本で圧倒的シェアを誇るiPhoneだが、昨年秋の最新機種発表の際、価格にため息をついた人も多いのではないか。機種と容量により異なるが、最高23万9800円(iPhone14 Pro Max/1TB)。ハイスペック化に加えて円安も進み、パソコンと変わらない高額商品になった。
こうした情勢を踏まえ、主要キャリア(携帯電話会社)4社が強くアピールするプランがある。ドコモ「いつでもカエドキプログラム」、au「スマホトクするプログラム」、ソフトバンク「新トクするサポート」、楽天モバイル「iPhoneアップグレードプログラム」。いずれも通常の分割払いより安い月額負担で最新機種を使用できる点は同じだ。約2年後に購入したスマホをキャリアに返却すれば、それ以降の分割金を払わなくてすむ。「自社の回線を利用していなくてもOK」という激推しっぷりだ。
■自動車の残価設定型
なぜここまで推すのか。企業は一方的に自社が損になるプランは組まない。罠……いや、カラクリがある。ファイナンシャルプランナーの藤川太さんは、「自動車の販売で使われてきた“残価設定型”の分割払いと基本の仕組みは同じ」と説明する。
「新車を一括払いで買うには、たいてい数百万円が必要。分割払いにした場合、仮に300万円の自動車を60回払いの5年で買うと、月々の返済は金利を考慮しなければ5万円。ガソリン代や保険料、税金などまで含めると出費はかさむので、購入のハードルは高い。そこで自動車業界が考えたのが残価設定型の分割払いというスキームです」
90年代に高級外車のディーラーが導入し、00年代には国内の自動車メーカーも追随。当時は車検のタイミングで新車に乗り換えるケースが多かったため、月々の支払額が減る残価設定型プランが作られた。
「数年後に乗り換えるタイミングでの残価──つまり下取り価格を査定し、販売価格からそれを差し引いたうえで月々の分割額を計算します。だから通常の分割払いよりも毎月の負担が抑えられるわけです」
「販売価格−残価」の分割払いを終えた後は、(1)自動車を返却する、(2)残価分を支払う=自動車を買い上げる、の2択。キャリアが推す“スマホお返し”プランも、この残価設定型の分割払いとそっくりである。
最新のiPhone14 Pro(128GB。Appleでの価格14万9800円)を例に“本家Appleの分割払い”と、キャリア4社の“残価設定型の分割払い”“通常の分割払い”を比較した。
■Apple本家が最安
Appleの分割払いは手数料ゼロで、一括払いと総支払額は同じ。主要キャリアにおける“通常の”分割払いは4社ともAppleより割高。分割支払い時の総支払額は本家より最大2万6060円高い。
肝心の“残価設定型(スマホお返し)の分割払い”を見てみよう。4社とも毎月の支払いは3千円台。約2年で返却するならAppleより安い。2年目以降の返却も可能で、やはりその後の支払いは不要に。返却せず自分のモノにしたいなら支払いを4年続けるか、残りを一括で払う。要は借金している状態と同じ。4年払った場合の総支払額はAppleより高くなる。
スマホを“お返し”する際、画面割れや故障などで査定基準を満たしていなければ別途2万2千円を払うことになる点も知っておきたい。破損しないように気をつけながら、2年後に本体を返却──本誌の感想だが、返却強制ではない月3千〜4千円弱のレンタル……今風にいえばサブスクのようでは?
キャリア側から見たメリットを事実ベースで書くとこうなる。
・2年後に、スマホ本体が返却される可能性が高め
・返却された際、大きな破損があれば2万2千円の手数料
・返却されなかったら最長4年の分割払いが続く。その総額はスマホのメーカー価格より高い
■新機種好きには向く
このプランが向く人も、もちろんいる。ITジャーナリストの石川温さんに聞いた。
「必ず2年間隔で乗り換えて常に新機種を使いたい人にはマッチするプランです」
そう、いつも新しいスマホを使いたい人にはぴったりだ。
もう少し長く使いたいが一括払いがつらい人は、Appleの分割払いにしたほうが総支払額は安い。また、2年間隔で買い替える人も、携帯会社に返すのではなく下取り、または売却したほうが有利な場合もある。
「機種変更の際にAppleで下取りするより、中古買い取り業者に売却すると、より高い値段がつく場合が多いです」
一つ前の機種、iPhone13 Pro(128GB)の中古品相場を調べると、最高10万円以上の値をつける業者が存在した。ただ中古買い取り業者は査定が厳しく、微小なキズでも減額対象に。きれいに使っている人は中古買い取り業者、ラフな使い方ならAppleかキャリアの下取りが無難か。
その点、“スマホお返し”は約2年後の残価(下取り価格)が確定しているし、自分で売却先を探し出す手間も不要。金銭面で損なことを除けば、ラクに新機種を使えるのも確かだ。
ここで気になるのは、返却したiPhoneの行方。石川さんが答えてくれた。
「修理中スマホの代替機として貸す場合もありますが、圧倒的に多いのは中古市場への売却と思われます。中古iPhoneは世界的に流通しています。日本で使用された製品は状態がよいものが多く、高値で売れます」
あなたが“お返し”したiPhoneは、海の向こうで誰かが使っているかもしれない。(金融ジャーナリスト・大西洋平)(編集部・中島晶子)
※AERA 2023年2月13日号