“ゆっくり”戻るから子どもも安心して使える! ありそうでなかった「怖くない金属製メジャー」開発記

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2023年02月09日 20:31  All About

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ミドリ「スローコンベックスメジャー」は、メジャー部分の戻る速度をゆっくりにした製品。ありそうでなかったこの画期的な製品について、開発者にお話を聞いてきました。

子どもも安心して使えるコンベックスメジャー

金属製メジャーの「コンベックスメジャー」は、家具などの長さを測るのに便利なので、引っ越しや模様替えには欠かせない道具です。それだけでなく、布製のメジャーに比べて、直線の長さが測りやすいので、手元に置いておきたい道具のひとつでしょう。

しかも、長く伸ばしたメジャー部分がボタンひとつであっという間に巻き取られるのも良くできています。ただ、あの戻ってくるスピードが速くて、結構怖いのです。相手は金属テープなので、指が切れたり、顔に当たりそうになったりと、油断できません。
ミドリ「スローコンベックスメジャー 2m」1518円(税込)。色は白と黒の2色。本体のサイズは、H44×W44×D23mm。

ミドリの「スローコンベックスメジャー」は、その、コンベックスメジャーの戻ってくる速度を遅くした製品です。初めて触った時には驚き、「これだ!」と思いました。戻ってくるのが怖いのは分かっていたのに、この発想はありませんでした。実際、こういう製品はこれまで見たことがありません。

道具には慣れてしまうので「怖い」を忘れていた

ボタンなどの無い、子どもの手にも収まるコロンとしたデザイン。中央の凹んでいる部分がストップボタン代わりになっています。

この「スローコンベックスメジャー」のような、誰もが問題点を分かっていて、でも放置されていた部分を解決した製品こそ、イノベーティブな製品と呼ぶのだと思うのです。同時に、よく思いついたなあと感心したので、デザインフィルに開発の経緯を聞きに行ってきました。

話してくれたのは、開発を担当したデザインフィルのクリエイティブセンター プロダクトグループの中村真介さんです。

――そもそも、コンベックスメジャーの戻る速度を遅くするというアイデアは、どこから生まれたのでしょう。

中村さん(以下、中村):コンベックスメジャーや大型のカッターナイフとか、そういうプロが使う工具だけど、日常生活でも便利なものっていろいろあるんですが、そういうものって、職人さん向けに開発されているので、効率優先なんですよね。

だから、カッターナイフは刃を折って使うと知っていても、怖くて折らないという人もいるし、コンベックスメジャーをそーっと手で押さえながら戻している人もいます。

でも、やっぱり長いものを測ったりするのにコンベックスメジャーは便利なんですよ。ほとんどの人は長い定規は持ってないし、1m以上のまっすぐなものを測ろうとしたらコンベックスメジャーが最適です。

ウチは文房具メーカーなので、こういう工具を文房具的に、誰でも安心して使えるといいなと思ったんです。文房具は、子どもから大人まで、年齢性別関係なくみんなが使えるものだから、こんな危ないものは文房具としては出せないんです。それで、「ゆっくり戻す」というアイデアが生まれました。
スローコンベックスメジャーは、まっすぐに測るのが簡単で、端の固定も楽だから、家庭でも重宝する道具です。

――これまで、ゆっくり戻るコンベックスメジャーが無かったのはなぜでしょう。

中村:道具って、使っている間に順応しちゃうんですよね。怖いとは思っても、まあこういうものと思ってしまう。だから、今回、改めて「怖い」ということに気が付けたのが良かったと思っています。

この製品のデザインを担当してくれたデザイナーの神瀬泰二さんも、「自分の子どもが小さいから、コンベックスメジャーは手が届かないところに置いておく、ということはやっていたのに、遅くするというアイデアは、その時には出てこなかった」と言ってました。

今回、開発チームのスタッフみんなであれやこれやと話し合っているうちに生まれたアイデアが、こういう形になりました。

カセットデッキをイメージした“ゆっくり”の感覚

これが、キーアイテムのオイルダンパー。このようなパーツを回転軸に仕込むことで、“ゆっくり戻る”を実現しています。

――ゆっくり戻すためのメカニズムについて教えてください。

中村:ゆっくり戻す方法は、いろいろあるなと思ったんですが、私たちがイメージしたのは、昔のカセットデッキの扉でした。あれ、ボタンを押すとゆっくり出てきますよね。あのスーッと出てくる仕掛けは、ダンパーという部品を使ってるんですけど、そのダンパーを回転軸に仕込もうということになりました。

内部の回転する部品に抵抗を付けるなど、他の方法も検討しましたが、誤差が出て品質が安定しないと判断して最終的にダンパーに決めました。

――ダンパーのパーツは既製品があるのですか?

中村:小さいギアがついた部品で、ギアが回転する時の内部の抵抗と、それを調整するシリコンオイルによってゆっくり回るんですね。いわゆる小型ダンパーです。ただ、これ、ものすごく種類があるんですよ。同じ形でも抵抗が全然違うんです。そこから試行錯誤が始まりました。

バネの調整とかダンパーの選別、バネの強さとダンパーの組み合わせはどれが一番良いのかとか、本当に大変で……結局、アイデアが出てから製品化まで3年以上かかっています。

バネも弱いと戻す力が弱い分、メジャーを巻き取った時の形が大きくなってしまって、筐体も大きく作る必要がでてくるんです。でも、子どもでも使えるサイズにしたかったので、ある程度の強さが必要になります。ところが、バネが強すぎると戻る速度も速くなってしまう……。

――戻ってくる速さは、どのように決められたのですか?

中村:スタッフの感覚を大事にして決めました。何cmが何秒で戻るのが最適かと設定するよりも、まず人間の感覚で「このくらいがいいよ」というところから入らないと、変な感じになるような気がするんです。遅すぎるのも嫌だし、怖くない速さはどういうものかとか、感覚的に「これだな」というところを探っていきました。

いろいろやっているうちに、最後の30cmくらいが1番危ないから、そこでゆっくりになればいいんじゃないかということになっていったんです。不思議なもので、みんなで試行錯誤していると、「これくらいじゃないか」っていうコンセンサスができてくるんですよ。

それで、長く伸ばしたら、最初は速く、だんだん手元に近づくとゆっくりになっていく、ということに落ち着きました。

ただ、バネもダンパーも個体ごとの誤差があって、同じパーツで作っても、全く同じスピードにはならないんですよ。それで、合格範囲を決めて、私たちスタッフが手作業で全品検品しています。ずっとこれをやってきたから、感覚で分かるんですよ。それで、範囲外の速度のものは工場に戻して直してもらってます。

文房具としてのスローコンベックスメジャーは機能も十分

このように、中央部分を押さえるとメジャーが止まり、離すと戻ります。10cmごとに白黒に塗り分けられた目盛りも見やすいです。

――速度以外の、コンベックスメジャーとしてのアピールポイントを教えてください。

中村:まず、なるべく小さくしつつも、コンベックスメジャーとして使えるように、1m引っ張り出しても折れ曲がらず、空中で保持できるサイズにしました。工具用だと2mくらい空中保持できるのですが、そこまでのスペックは要らないかなと。

あとは、目盛りが10cmごとに色分けされています。見やすいブロック体の数字と合わせて、目盛りが読み取りやすいようにしたのです。裏側の目盛りは縦書きになっているので、高さを測る時は裏側を見ると便利です。

それと、コンパクトさを重視してストップボタンをなくし、本体を押さえるとメジャーが止まって、離すと戻ってくるようにしています。これは、使ってみると結構直感的に使えるし、便利なので気に入っています。押さえるところには滑り止めのテクスチャーを付けたり、かなり細かい操作性にも気を配ってます。

何度も繰り返してしまう「戻る速度」の心地よさ

スローコンベックスメジャーは裏側の目盛りが縦書きなので、高さを測るのもラクラク

実際に使ってみて思うのですが、この戻ってくる速度がなんとも気持ち良いのです。つい、意味もなく引っ張り出しては、戻ってくるのを眺めてしまうほどです。ボールペンのノックボタンなどもそうですが、良い文房具は、ずっと触ったり動かしたりしたくなるものです。その意味でも、良くできた製品だと思います。

それと、意外に便利なのが、最近のミドリ製品によく装備されているマグネットです。本体にマグネットが仕込まれていて、スチール棚や玄関ドアに貼り付けておくことができます。

こういう道具の場合、使いたい時にサッと手に取れることが重要なので、マグネットが付いているのはとても助かります。定位置管理にも役立ちますね。この絶妙な速度をぜひ体験してみてください。

納富 廉邦プロフィール

文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。
(文:納富 廉邦(ライター))

このニュースに関するつぶやき

  • メジャーで指切る…か。すっかり忘れてたよその感覚。耐震診断の仕事でムチャぶりとかやらされてたからなぁ…。5.5mで二階分の天井高測ってこいとかさ。なぁ立川の貢献設計の江成よぉ?
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