長野県松本市の住宅街に置かれた実際の食品自販機。3000円と高価な肉が販売 コロナ補助金の一部で’20年には1兆円の予算が組まれた事業再構築補助金。新たな試みを支援するのが主たる目的だったはずが、どうにもおかしな使われ方が目立っている。いったい何が起きているのか?
◆急増する無人販売店。背景にあるのはコロナ補助金の影
「1〜2年のうちに肉や餃子といった食品を販売する自販機が増えました。観光地にスイーツ自販機を置くのはわかるのですが、住宅地にもポツポツと置かれ始めています。この通りは人がいつもいるわけではなく、いったい誰が買うのか……」
長野県松本市在住の渡辺拓人さん(仮名・20代)は首をかしげて言った。
自販機や無人販売店をよく見るようになったのは、長野県だけの話ではない。今全国各地で、冷凍餃子や肉、中華料理などの自販機や無人販売店が増加しているのだ。
◆中小企業を対象に最大1億円を補助する「事業再構築補助金」
背景を経済記者が解説する。
「コロナ禍ということで非接触型店舗の需要が高まった面は確かにある。ただ、最近街中で増えている無人販売店などは事情が異なっています。国の事業再構築補助金を利用して、無人販売を始める業者が一斉に増えているのです」
事業再構築補助金とは、コロナ禍で売り上げが減った中小企業などを対象に、最大1億円を補助する制度。
中小企業庁によれば、実際に割り当てられる金額は、1501万〜3000万円が約4割と最も多く、次に501万〜1000万円が約2割と続いた。この補助金の予算規模は約1.7兆円で、業態転換や新規事業に意欲がある企業が対象となる。
◆本当に困っている中小企業も活用する一方…
「中小企業などの思い切った事業を支援をするために設けられた補助金です。独自性の高い製品で新たな市場に進出したり、既存の業態を転換することが求められ、認められればそこに補助金がつく仕組み。いわば、新たに稼げる仕組みを応援するための制度と言えます。
ところが、採択結果を実際に見てみると、本当に困っている中小企業が活用しているケースはもちろんありますが、一方で制度の理念通りに運用されているとは思えない事例も散見される。過去に持続化給付金でもあった構図です」(前出・経済記者)
◆同じ申請内容で4社採択。非公認の民間コンサルが暗躍
東京都千代田区の会議室。事業再構築補助金のブローカーをしている宮本孝志氏(仮名・40代)に話を聞くことができた。
「こじつけでもいいので、コロナで売り上げが減少して、新しいことにチャレンジする姿勢をアピールできれば、採択される傾向が強い。我々のように、申請業務を代行する業者も増えてます」
宮本氏は事業者とある特定の税理士を結びつけて、これまで数十社の申請に携わってきた。補助金を得るためには、金融機関や税理士、民間コンサルといった国が指定した経営相談ができる支援機関と事業計画を策定する必要があるからだ。中小企業庁がこれまで認定した支援機関は3万以上に上る。
「問題は、国から認定されていない非公認の民間コンサルなどが暗躍していること。事業計画書を代筆して、儲けている」
◆資料には使い回しの文言も…補助金の杜撰な現状
これまでに採択された事例は中小企業庁の公式サイトで見ることができる。資料を閲覧していると、使い回しの文言もあった。
例えば、1回目の採択事例では、「フルーツサンド製造販売事業の新規展開による事業再構築計画」といった同じ申請内容が4社から提出されており、それらはすべて同じ税理士法人が支援機関だった。
「自販機や無人販売店などの採択例が多いのは、補助金の申請が通りやすいから。コワーキングスペースやコインランドリーもその傾向が強い」(宮本氏)
手付金は10万円。実際に採択された場合、補助金の5〜10%をもらっているという。
◆本来救うべき事業者は大金をポンと立て替えられない
「私らなんてまだマシですよ。補助金の金額は新規事業にかかる経費計算で決められるのですが、なかには業者とグルになって過大な見積もりを出して、余剰分を懐に入れる輩もいますから」
採択された補助金は、新規事業にかかる経費分に充てなければならない。そのため、申請時には原則、見積書の提出が義務となる。その見積書で過大な金額を業者に書いてもらうケースがあるという。
「この補助金には欠陥があって、先立つものがない企業には不向きなんです。経費分を使ってから、後払いとしてもらえる仕組みだから。本来救うべき『コロナ禍で売り上げが厳しい中小の事業者』なんて、何千万といった金額をポンと立て替えられないでしょ」
◆落ちた事業者の悲痛な声。非公認コンサルを追う!
東京都港区。宿泊事業を営む30代の男性は、事業再構築補助金に2回落ちた。バーや飲食店の新規業態にチャレンジしたという。ところが……。
「問い合わせ先に理由を聞いてみると、『リスクが高い投資とは言えないから』とよくわからない理由でした。無人販売店などが多く採択をされているのを見ると、真面目にやっている人がバカを見るというか……。事業計画書などの提出資料を作るにはとんでもない労力がいるのに」
事業再構築補助金に申請を出すためには、計23点の書類が必要となる。その上、事業計画書は簡単なスライド資料ではなく、みっちり書き込む必要がある。中小企業庁が公表している事業計画書作成ガイドブックによれば、事業計画書の作成に90〜120時間かけた場合の採択率が最も高い。前出の男性が続ける。
「申請し直すのをやめてしまいました。疲れてしまって。借金も何千万円とありますが、最悪自己破産すればいいかな」
◆事業者を装い「非公認コンサル」に相談すると…
取材を進めていくと、非公認のコンサルにたどり着いた。着手金10%、成功報酬10%がかかるという。事業者を装って、無料相談の電話をしてみることにした。
——新事業を考えたくて、どうすれば通りますか?
「私たちの考えるストーリーに沿って、事業計画書を作成すれば8割通ります。ウチで事業計画書を作りますよ」
――例えばどういう内容?
「これまで餃子とか、お肉とかの自販機や無人販売をやったことがありますね。実際に採択されています。人件費がかからないことから事業者側からも人気ですよ。一緒にストーリーや、自社の強みを生かして、といったこじつけを用意しますから」
――他に通りやすい理由があったりするのか?
「中小企業診断士が一緒に作成します。もともと審査員とかやっていた人もいますし、その辺り熟知しているので、大丈夫ですよ。あと認定機関は紹介します」
1度目の電話はそこで終了した。別日に記者と明かしたうえで、再度連絡を取ってみると、電話はすぐに切られて、応じることはなかった。
ありきたりな事例がなぜ審査に通りやすくなっているのか。認定機関の某地方銀行で本部長の佐藤勇氏(仮名・40代)が打ち明ける。
「現在9回目が募集中ですが、予算が余っていて一部が通りやすくもなっている。非公認のコンサルらが採択事例の多い無人販売などを、どんどん指示しているのが実情です」
◆「実態把握なし」行き届かない行政の目
独力で作り上げるのが難しい申請書類の数と内容から、一部の中小企業の事業者からは「コンサルに頼まないと無理」という声も聞こえてくる。
中小企業庁はどう受け止めているのだろうか。技術・経営革新課の担当者はこう話す。
「審査などの運用を任せている実施機関の中小機構からは、経費の過大見積りなどの不正事例は上がってきています。無人販売店などが採択事例に多いことは把握してますが、具体的な不正事例は現在ありません」
非公認のコンサルについての実態はどうだろうか。
「基本は事業者本人が計画書を書くというのが大原則で、第三者の指示通りに書くことは好ましくありません。不正になることもあります」
◆我々の血税が正しく使われる日は来るのか
ところが、審査要項を見ると、計画書を本人が書くという文言は一切ない。
「大原則として認識していたため、書いてはいません。ご指摘を受けて、次回からは明記するほうがいいですよね」
理念と実態が乖離してしまうのはなぜか。元衆議院議員の安藤裕氏はこう語る。
「中小企業の現状は想像以上にきついもの。減少補償をしないと最初に決めたのが大失策。額が大きいから補助金としたのはわかるが、膨大で綿密な事業計画書が必要となり、事業計画を書くのがうまい業者が入り込んで、お金ばら撒き状態になっている。
計画書を書けず、日々生きていくことで精いっぱいの人たちがいることを認識すべきだ」
私たちの血税が正しく使われる日は来るのだろうか。
【元衆議院議員・安藤 裕氏】
’65年生まれ。慶應大卒業後、相模鉄道に入社。’12年に衆議院議員に初当選し、内閣府大臣政務官など務めてきた
【地方銀行本部長・佐藤 勇氏(仮名)】
北関東にある第一地銀に勤めている。コロナ融資も責任者として手がけるなど、コロナとカネの現状を目の当たりにしてきた
【ブローカー・宮本孝志氏(仮名)】
関西出身。これまで持続化給付金や事業資金など、多くのコロナ補助金の案内をしてきた。手数料の売り上げは1億円に上る
取材・文/週刊SPA!編集部 写真/時事通信社
―[[コロナ補助金]の呆れすぎる実態]―