GPTが話題になる前の2016年頃からAIで専門家を身近な存在にしたいと奮闘してきた市橋さん(左から3人目)。「GPTはやりたいことを一緒にやってくれるドラえもんみたいな存在です」(写真/編集部・福井しほ) 人工知能による対話型の自動応答ソフト「ChatGPT」の登場で、ますますAIに注目が集まっている。そうした中、「AI弁護士」の登場も現実味を帯びてきている。法律相談の形はどう変わるのか。
AERA 2023年3月20日号の記事を紹介する。
【「将来なくなる仕事」をChatGPTに聞いてみた結果はこうなった!】* * *
「2割司法」という言葉がある。
トラブルに巻き込まれたとき、弁護士を訪ね、裁判所にたどり着く人は2割にすぎない、という意味だ。泣き寝入りをしたり、相談するという発想にすら至らなかったり。とかく、法律相談のハードルは高い。
その壁を取り払おうと、「弁護士ドットコム」は2007年から、インターネット上で弁護士が相談に応じる「みんなの法律相談」を運営。これまでに100万件を超える相談が寄せられ、法律トラブルの解決をサポートしている。
だが、利用者が増えるにつれて「難しい」相談も増えてきた。
「弁護士と利用者の知識の非対称性がネックでした」
そう吐露するのは、同社技術戦略室長の市橋立(いちはしりつ)さんだ。ほとんどのユーザーにとって、法律相談は一生に一度するかどうか。関係のない相談を書き連ね、肝心な部分が抜けてしまうことも多い。
そこで、注目したのがChatGPTだった。
「蓄積した法律相談をAIに学習させ、利用者と対話形式でナビゲートすることで、相談をわかりやすくまとめられるようになります」(市橋さん)
■AIだから相談できる
弁護士に相談すべきか、するならばどの弁護士が適切か、なども提案。いわば、オンライン上のパラリーガルの位置付けだ。
では、近い将来、AI弁護士が登場すれば、人間はいらなくなるのだろうか?
「想像しちゃいますよね。でも、その可能性は限りなく低いと見ています」
と同社広報室長の後藤顕治さんは、否定する。
裁判では原告と被告の双方の人生がかかっている。
仮に離婚相談をしたとして、AIが言うことをすべて受け入れられるのか。新しい事例が出たときに、AIが対応できるのか。「人」にしかできない領域は必ず残るという。
「ただ、弁護士の先生方も24時間365日働けるわけではありません。チャットで相談の『前さばき』のようなことができれば」(後藤さん)
AIが相手だと思えば相談のハードルも下がるのではないかとの期待もある。同社は今年4〜6月にChatGPTを使った「法律相談チャット」のスタートを目指す。弁護士や弁護士法人以外が報酬目的で法律事務を扱うことは法律で禁じられているため、しばらくは無償で提供予定だ。前出の市橋さんは言う。
「弁護士だけでなく、税理士や医師といった専門性の高い職業には、体系化されたデータが残りやすい。今後はそれらを活用することで業務を効率化して、顧客に向き合ったり、付加価値を上げる時間を増やしていくことができればと思っています」
(編集部・福井しほ)
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AERA 2023年3月20日号より抜粋