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スーパーのレジに並び、前が進まずイライラした経験はないだろうか。小銭を取り出すのに手こずって、急かされる思いをした人もいるかもしれない。速さや効率が重視される世の中で、そんな価値観とは真逆にあるような、ゆっくり会計できる「スローレジ」がじわりと注目を集めているという。一体、どんなサービスなのか。
「レジで精算する際に、財布を探したり、小銭を出したりするのが遅くて不安を抱えている利用客の声を多く聞きました。焦らずゆっくり精算できるレジがあればと考えサービスを始めました」
こう話すのは、西日本で総合スーパー「ゆめタウン」を運営するイズミ(広島市)の広報担当者だ。同社は2020年7月、福岡県行橋市の「ゆめタウン南行橋店」にスローレジ1台を設置した。
●ニーズ高く常設に
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同店では高齢の利用客が多く、身体にハンディキャップを背負う利用客もいた。市内でデイサービスなどを運営するNPO法人の提案を受け、スローレジの取り組みを始めた。
当初は高齢の利用客が多い午後の約2時間に限定してスローレジを設置していたが、次第にスローレジに長い列ができるようになった。ニーズの高まりを受け、22年1月から常設に切り替えた。
「スローレジに並べば、急かされることなく会計できるといった安心感を持った利用客が多かったようです」(担当者)
また、それまではヘルパーの付き添いで来店していた利用客が、1人で買い物にくる姿も見られるようになった。他のレジが空いていても、あえてスローレジに並ぶ利用客もいるといい、「従業員との会話を楽しみにしてスローレジを利用する人もいるかもしれません」と担当者は話す。
同店ではスローレジのほか、利用客が自身で清算する「セルフレジ」、清算のみ従業員がする「セミセルフレジ」、従業員がいる「通常レジ」の4パターンのレジを設置している。実際、スローレジでは他のレジに比べ、従業員と利用客の会話が多いという。
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「よく知る利用客であれば、従業員が『今日のごはんは〇〇ですか?』などと話しかける姿も見かけます」(担当者)
●思いがけない効果も
スローレジ導入のメリットは、利用客だけでなく、従業員にもあったと担当者は話す。「レジに長い列ができると、従業員も『速く会計しなければ』と焦ります。スローレジはそうした心配が起りません」
もう1つ、スローレジを導入後、思いがけない効果もあった。それは、認知症とみられる利用客の「未払い行動」の件数が減ったことだ。
未払い行動は、認知症の患者が意図せず会計を忘れて店を後にしてしまうことで、万引きだと疑われ警察を呼ばれるケースなど、全国でトラブルが起きているという。
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スローレジを導入後、同社は認知症の疑いがある利用客に積極的に声かけをし、お釣りを手渡しするなどきめ細やかな対応を続けた。「声かけの大切さを痛感しました」と担当者は振り返る。
●従業員の教育も実施
スローレジの導入に際しては、従業員らが「認知症サポーター養成講座」を事前に受講し、認知症の人への接し方を学んだ。「ハード面を整えても、接客というソフト面が変わらなければ効果はありません。認知症を理解した上で接客することが、利用客の安心につながると考えました」と担当者は話す。
同社は南行橋店でのニーズの高まりを受け、21年4月から全国のゆめタウン全64店舗にスローレジを導入した。一方で店によっては街中に位置し、高齢の利用客が少なくニーズが低い店舗もあるといい、対応は店によって異なるという。
スローレジはなぜ支持されたのか。担当者は「利用客のニーズがすごく多様化していると感じます」と話す。
「スローレジがいいかどうかというよりも、多様化するニーズに対応できたのがよかったのではないかと思います。私は急いでいるからセルフレジ、ゆっくり会計したいからスローレジ、と利用客がそれぞれのニーズによって選択できる形が今の時代に求められているのだと感じています」
「コストパフォーマンス」(コスパ、費用対効果)や「タイムパフォーマンス」(タイパ、時間効率)が重視され、何事も速さと効率が求められる昨今。当然、全ての人が一様に速さや効率を求めているわけではなく、中にはそうした価値観で苦労する人もいるかもしれない。
見落とされがちなニーズを丁寧に拾い上げることで、新たな価値の創出につながるケースは、スローレジに限らずまだまだ多くありそうだ。
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