限定公開( 2 )
去る3月12日、第一回AIアートグランプリの最終審査会と表彰式が秋葉原UDXシアターで執り行われた。
筆者も事務局の末席として参加させていただいた。駆け足で企画・実行されたイベントだったため、慌ただしくもあったが、急遽招聘(しょうへい)された審査員の先生方の奮闘や、共催のドスパラ(サードウェーブ社)のご協力もあり、最終的には素晴らしい作品が集まり、非常に注目を集めるイベントとなった。
当日は、NHKニュースを始め、各媒体にAIアートグランプリの記事が掲載され、テック系インフルエンサーたちの動画として取り上げられるなど、「プチバズ」った状態にまで持っていけてひとまずは胸を撫で下ろしている。
優勝した松尾公也(松尾p)さんが、亡き妻の遺言に基づき、生前の音声と写真をAIに学習させ、歌い上げた「Desperado」に胸を打たれた参加者は多かった。
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当日のプレゼンではその話は出なかったが、後日聞いたところによると、もともと奥様が18歳の頃、バンド内交際から結婚に発展し、歌うことは彼らカップルにとっては日常だった。松尾さんの奥様が余命宣告をされたとき、IT関係の仕事をしていた夫の松尾公也さんに「自分の生前のデータを使って、いつか貴方も亡くなる時に、二人のデータをデュエットとして使うことをライセンス条件に、そんなソフトを配布できれば、二人はずっと一緒に歌っていられる」というようなことを言われたそうだ。以来10年間、松尾公也さんは亡き奥様の生前のデータをもとに100曲を超える曲を手掛けてきた。
この作品のインパクトは大きく、当日取材に来れなかった民放や雑誌、そのほかさまざまなメディアからの取材が松尾さんのもとに殺到しているという。
松尾さん以外の準グランプリ4作品のいずれも白眉だが、特筆すべきは最終審査会におけるプレゼンの質の高さだったと思う。進行の都合上、5枚のスライドか5分間の動画で作品の制作過程を参加者が説明するのだが、そのどれもがひとつの作品と呼べるほどに素晴らしいものだった。
最終審査会の様子はプレゼンテーションも含めYouTubeで公開されている。どのプレゼンも必見なのでぜひご覧いただきたい。
なかでも、圧倒的なクオリティで審査員を唸らせたのが機能美pさんで、機能美pさんの作品「そんな話を彁は喰った。」という作品をめぐって、審査会は最後まで紛糾した。この作品の完成度の高さはもちろん、内容の面白さ、充実ぶりにこれぞグランプリと推す声がある一方、プレゼンの中でみずからが語った、「AIを2%しか使わず、ほぼ全て人力」によって作られた作品をグランプリにしてしまうことで大会の方向性がぶれてしまうのではないか、という論点で激論が交わされた。
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審査委員長は河口洋一郎東大名誉教授。メディアアーティストの先駆者であり、CGを使った芸術表現に世界でいち早く取り組んだ人物だ。審査員に名を連ねるのは、「のぼうの城」「シン・ゴジラ」などの監督で知られる樋口真嗣、「灰羽連盟」や「serial experiments lain」といったアニメ作品のキャラクターデザインを手掛け、その画風が広く影響を与えたことで知られるイラストレーターで漫画家でもある安倍吉俊、テレビアニメ「シティハンター」や「名探偵コナン」のプロデューサーとして知られる諏訪道彦、そしてAI関連の法務に詳しい柿沼太一弁護士といった歴々である。
彼らが実に真剣に「AIを使ったアートとはどうあるべきか」「日本が大切にすべき芸術表現とはなにか」「新世代を拓くAIアートのありかたとはなにか」を真正面から捉え、真剣に議論を重ねるなかで、「生成AIの否定」というべき機能美pさんの作品と、まさに「究極の自己表現としてのAIの活用」を見事に見せてくれた松尾pさんの作品のどちらがよりグランプリにふさわしいかということが時間ギリギリまで議論された。
最終的に、「審査員特別賞」という賞を急遽新設し、作品として頭ひとつ抜けていたことを記録に残すことでなんとか審査会の合意が得られた。現場は大混乱に陥ったが、それは博士号を持つ大女優、司会のいとうまい子さんの見事な機転と演出で乗り切った。
●GPT-4の最大の特徴は?
このような第一回AIアートグランプリの興奮もさめやらぬなか、GPT-4は予想以上にあっさりと公開された。これまでのOpenAIのやり方からすると、異様なほどにあっさりとしている。
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GPT-4は、ChatGPT Plus(月額20ドル)に入会しさえすれば、すぐにでも試すことができる。
しかし、それまでのChatGPT(GPT3.5-turboと呼ばれる)と、GPT4の違いを体感するのは簡単ではない。GPT-4のほうがGP-T3.5よりも明らかに「良い」答えを返すようになっているが、普通の質問をするだけではその真価が分かりにくい。そのうえAPIを経由した利用料金はGPT3.5-Turboが1000トークン(文章の区切り)あたり0.0002ドルなのに対し、GPT4が0.03ドルから高いものになると0.12ドルまで跳ね上がるのだから注意が必要だ。
GPT-4の特徴は、それまでのGPT-3.5が4000トークンまでしか扱えなかったのに対し、最大3万2000トークンまで扱えるようになったこと。この「最大トークン数」は、入力としてあたえる文字列(プロンプト)と、回答としてもらえる文字列の合計数であるため、入力が多ければ多いほど回答は短くなってしまうという性質を意識しなければならない。
無料版ChatGPT(GPT-3.5-Turbo)を使っていると、会話が長くなればなるほど、どんどん以前の話を忘れてしまい整合性が取れなくなっているように見えることがあるが、あれが最大トークン数の規制である。
そのため、GPTの出力を組み合わせて新しい出力を作るLangChainなどの手法を使う場合は、定期的にそれまでの会話の要約文をGPTに作らせて、それをプロンプトに入れることでさらに大きなテーマを扱わせるようなテクニックがある。
●第一回AIアートグランプリの報告書をGPT4にまとめてもらってみる
ところで、事務局としては表彰式が終わればそれで終わり、ではない。むしろそこからが大変で、各種取材対応、賞金や商品、賞状、トロフィーの送付、報告書の作成などなど、やることはたくさんある。
これはGPT4を実用的に使ってみるチャンスと捉え、まずは第一回AIアートグランプリの報告書をGPT4にまとめてもらってみる。
さすがGPT4は回答文に読み応えがある。ちなみに出力が長すぎると途中で止まってしまうのだが、こういうときは「続けて」と打つと続きを書いてくれる。
なかなかいいまとめのようだ。
そもそもAIアートグランプリとはどのようなもので、どんな意図をもって開催されるのかについてももう少し掘り下げてみたい。
こうすると、図も書いてくれる。
図を可視化するには、筆者が以前開発したWeb上で手軽にGraphvizを扱えるGraphviz-boardがあるのでそれを使ってみた。
digraph G{と}の間の部分をコピーしてGraphviz-boardに貼り付けるとこんな図が出てきた。
すこし奇妙な図にも見えるが、創造性(Creativity)が技術革新(Technology Innovation)に影響を与え、協働(Collaboration)は創造性と技術革新の影響を受けた上でアクセシビリティ(Accessibility)に影響を与え、最終的には全てがひとつの社会的影響(Social Impact)につながっているというものだ。
相互に影響しているといいながら一方通行になっているところが面白い。
●第二回AIアートグランプリの企画案も考えさせてみた
さて、報告書には第一回を踏まえて次回のことにも言及しなければならない。もしも第二回AIアートグランプリをやるとすればどんなかたちになるのかを聞いてみた。
なるほど。応募総数はどう変わるだろうか。
細かいところだが、応募総数400に対して、それぞれのジャンルを合計するとちゃんと400になるところは地味にすごい。また、前回が279に対して増加率にリアリティがある。
事務局として次回をもっと盛り上げるためにはどうすればいいのか聞いてみた。
なるほど。月並みな答えだ。GPT3.5だったら、この答えで満足しなければならないだろうが、GPT4はもう一段階先へ行ける。
こう聞いてみた。
学生や若手クリエイターむけの特別部門の新設と海外への展開という2つの新基軸が出てきた。参考になりそうだ。
●Chain of Thoughtでキャッチフレーズを考えさせる
さらに、大会にふさわしいキャッチフレーズを考えてもらった。まず20案挙げた上で、最後に組み合わせて一つの最適なフレーズを考えてもらうことにする。これはChain of Thought promptingという手法で、大規模言語モデル(LLM)に一段深い思考をさせるテクニックだ。
結果的に「AIと共創する新たな世界:未来のアート、ここに誕生」というキャッチフレーズが得られた。これは相当にそのまま使えそうだ。なかなかいい案ではないかと思う。
このように、GPT4になると本格的なビジネスのレポートを効率的に作ることができる。
他にもいろいろな使い方があるが、結局は使う人間の想像力の差が出てくることになると思う。
これから我々は、「どう書くか、どう考えるか」ではなく、「どう書いてもらうか、どう考えてもらうか」そして「自分はそれをどう評価するか」ということを考えることにむしろ多くの時間を割かなくてはならなくなるだろう。
(清水 亮)
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