名言ななめ斬り! 第45回 水木しげる「好きなだけ眠らずして、何が人間か!」-自分の“楽しい”を追求した遅咲きレジェンドの哲学

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2023年03月21日 08:51  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
世の成功者には、2パターンあると言えるのではないでしょうか。



ひとつめは若くして世に出て、王道を歩み続ける人。もうひとつは紆余曲折を経て有名となる人。どちらの名言が好きかは人それぞれでしょうが、混とんとした今の時代、後者を好む人も多いと思われます。


○水木しげるセンセイが漫画で食べられるようになったのは40歳過ぎ



遅咲きのレジェンドと言えば、漫画家・水木しげるセンセイが思い浮かびます。「ゲゲゲの鬼太郎」が代表作ですが、漫画家としてのデビューは35歳、食べられるようになったのは40歳過ぎとザ・遅咲きです。子どもの頃から少々変わっていたようで、心配したご両親は小学校への入学を一年遅らせたほど。ご飯をよく食べよく眠り、体は丈夫。けれど、学校にはいつも遅刻。勉強は苦手だけれども、絵を描くことが得意で、大人を驚かせた少年の運命は、太平洋戦争によって大きく変わってしまいます。



招集され、軍隊生活を始めた水木センセイですが、生来の「空気が読めない」性質により、上官に目をつけられてしまいます。出征先は北と南、どちらがいいかと尋ねられた水木センセイは、寒いのは嫌だからと「南であります」とノリで答えてしまい、その結果、激戦地であるニューブリテン島に派遣されます。しかし、ここはすでに敵の支配下で、食べ物も武器もない状態。敵の爆撃を受け、腕を負傷した水木先生は腕を切断するはめになってしまったのでした。

○食べることに苦労しても「自分の楽しさを追求すべし」と考えていた



日本に帰国してからも戦後の混乱で、なかなか絵の勉強はできませんでしたが、水木センセイはあきらめなかった。「水木サンの幸福論」(角川文庫)には、センセイが食べることにも苦労しながら、売れっ子漫画家となるまでの日々がつづられています。「成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはいけない」「他人との比較ではない、あくまでも自分の楽しさを追求すべし」「才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ」などの名言がつづられています。



同書を読んで思ったのは、幸せには“流派”があるのではないかということ。何を幸せと感じるかは人それぞれでしょうが、世の幸せを無理やり二つに分けたら“嬉しい派”と“楽しい派”に別れるのではないでしょうか。

“嬉しい派”は「仕事で認められて、嬉しい」といった具合に、“証拠”があって幸せになります。それに対して、“楽しい派”は証拠を必要とせず、「好きな仕事ができて嬉しい、幸せだ」と自分の感覚を重んじるのでしょう。一日に八時間労働するとならば、“楽しい派”はそれだけの時間幸せを感じられるわけですから、非常におトクと言えるでしょう。

○「好きなだけ眠らずして、何が人間か」多忙過ぎる日々にセンセイが出した結論


条件を重んじる“嬉しい派”と感じることを重視する“楽しい派”は、物事の見方が明らかに違う。たとえば、水木センセイは晴れて売れっ子となり、お金も入ってくるようになりましたが、多忙すぎてゆっくり食事をすることも眠ることもできなくなってしまいます。そこで、「好きなだけ眠らずして、何が人間か」と結論づけた水木センセイは仕事を断り、妖怪の研究のため、世界各国への旅を始めたのです。一方、“嬉しい派”の人にとっては「眠る時間がないのは、それだけ売れている証拠だ」ということになりますから、喜んで寝ない、もしくは寝ない自慢をすることになるでしょう。手塚治虫センセイら、当時の売れっ子漫画家は非常に短い睡眠で描き続けたとも言われています。



水木センセイのように「楽しむことが幸せだ」と考える人は、実は日本では少数なのではないでしょうか。なぜなら、私たちは子どもの頃から、成果を求められて成長していますし、機能不全家庭で育った人は、親の顔色を伺うことで生き延びてきたので、親を喜ばせるために生きることはあっても、自分のために楽しむことに罪悪感すら持っています。水木センセイの場合、子どもの頃からちょっと変わり者だったセンセイをご両親が否定せず、個性を活かす方向を探そうとしてくれたのがよかったのかもしれません。

○代表作「ゲゲゲの鬼太郎」は当初、非常に暗い作品だった



しかし、水木センセイとて「楽しむこと」だけでは、足りなかった時期があったそうです。センセイの代表作のひとつは「ゲゲゲの鬼太郎」ですが、センセイが最初に世に送り出したのは、私たちが思い浮かべる鬼太郎と人間が協力して、悪い妖怪をやっつけるというアレではなく、非常に救いのない、暗い作品だったそうです。暗いものが売れないとは言い切れませんが、少年少女向けの作品向きではないでしょう。実際、数字がとれず、打ち切りとなってしまいます。作品が認められないと、経済的な余裕もなくなります。そうすると、どうしても気持ちが落ち込んでしまいますから、作品が厭世的になってしまい売れないという悪循環に陥ってしまうでしょう。やはり「楽しい(自分が楽しければ、証拠はいらない)」だけでは幸せになれず、「嬉しい(証拠があって、幸せを感じる)」要素は必要で、なかでも金銭的な余裕は必要でしょう。



水木センセイが「楽しさ」を追求したクリエイターであることに疑う余地はありませんが、人を幸せにする要素は一つではない、より多くの要素を備え持っていることが大事なのかもしれないと思ったのでした。



仁科友里 にしなゆり 会社員を経てフリーライターに。OL生活を綴ったブログが注目を集め『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。「間違いだらけの婚活にサヨナラ」(主婦と生活社) が異例の婚活本として話題に。「週刊女性PRIME」にて「ヤバ女列伝」、「現代ビジネス」にて「カサンドラな妻たち」連載中。Twitterアカウント @_nishinayuri この著者の記事一覧はこちら(仁科友里)

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