“歌い手の真髄”見せた石川さゆり(右) (C)ORICON NewS inc. 歌手の石川さゆりが22日、都内にてデビュー50周年アルバム第2弾『Transcend』のメディア向け先行試聴会を開催。イベント後には報道陣の取材にも応じ、同作の制作過程などについて語った。
【写真】ミキサーズラボ会長・内沼映二氏と語り合う石川さゆり 今作は、昨年5月にリリースされたアルバム『X -Cross IV-』に続く、デビュー50周年記念作品の第2弾。制作コンセプトとして「音質の良さ」が掲げられ、レコーディングエンジニア界の巨匠・内沼映二氏の手により、“音楽的に”高品位なサウンドを目指した1枚となる。
プロデューサーを務める佐藤尚氏(テイチクエンタテイメント)は、昨今の音楽シーンにおけるストリーミング配信の存在について「現代のリスニング環境に適っている」と評価する一方で、「ファイルの情報量…特に音質面では、制作者たちが現場でこだわって完成させたものとは隔たりがある」といい、今回のコンセプトを掲げたと報告。そして「技術的に高いところを盲信してしまうと、音楽的な良さを置き去りにしてしまうことがある。今回は両者の良いところ取りを目指した」と言い添えた。
トラックダウンでは、PCM384kHz/32bitという通常の8倍となるサンプリングレート、2倍のビットレートでマスターを生成(一般的なCDは、PCM48kHz/16bit)。試聴会に出席した内沼氏は、DAWソフト・ProTools HDXから、Solid State Logic社の最高峰アナログコンソール・SSL-9072Jを介し、DAWソフト・Pyramixを用いてPCM384kHz/32bitの高レートを実現したと技術的な面を説明した。
さらに内沼氏は、高品位なマスター生成技術に定評のあるワーナーミュージックマスタリングがカッティングを手がけ、マスタリング工程には同社独自の手法である「ラッカーマスターサウンド」が採用されたことも伝え、結果、今回のアルバムはラッカーマスターサウンド仕様のCD、33回転のアナログ盤、そしてオーディオマニア向けのSACD(スーパーオーディオCD)形態でのリリースとなったと報告した。
アルバムは、新たにリアレンジされた石川の代表曲が全6曲収録される。音楽プロデュースに斎藤ネコ氏を起用し、角田健一氏率いるビッグバンドのジャズサウンドで「津軽海峡・冬景色」「天城越え」「ウイスキーが、お好きでしょ」の3曲が、そして豪華なストリングス編成で「風の盆恋歌」「朝花」「人間模様」の3曲がリアレンジされた。
演奏はもちろん、石川のボーカルもワンテイクで収録されており、パンチインなどのエディットを加えないからこその緊張感やグルーヴ感も含んだ仕上がりに。
さらに石川の口からは、「今は別々に録るのが一般的ですが、私は昔からずっとオケと一緒に歌って録るというやり方を続けていて…」と、今作のボーカルが楽器との同時録音であることも明かされた。「録るのは仮歌なんですが、『一緒に録ったときのテイクが一番いい』と言われてOKテイクになることが多いんです。なので、「仮歌のさゆり」と呼ばれています(笑)」と続け、会場の笑いを誘った。
石川は「『本当にスタジオがお好きですよね』とよく言われる」と笑いながら、「お客様との空気も重なって作られていくコンサートは、言うならば爆発的で。でも、こういう作品作りの現場は、『どっちに行く?』という探りから始まるので、違うワクワクがある。行った先で『キター!』という感覚があるとすごくうれしいんですよ」と持論を展開。
続けて、「私が『この音を待っていた』と思う音がパッと出てきたり、そこに対してまた私が歌で反応したりして。そういったやりとりが本当に面白い。これだからやめられないんだ(笑)」とうれしそうに語った。
そして今回のように音質を追求した作品について、「“生産”の側面ばかりを考えるスタッフではなくてよかった」と誇り、最後に「音楽にも、人間のアドレナリンや高揚感を高めるものがあると信じていますし、それは人と人の思いやこだわりが重なり合うことで生まれていくと思っていて。このアルバムのそういった部分が、聞いてくださる人に感動として伝わったらうれしいです」とアピールした。