春に飛散するスギ花粉は雄花の花粉生産量によるが、環境省の今年度調査では、東京、神奈川などで過去10年の最大量を上回っている(写真:gettyimages) 過去10年で最多ともいわれる今年の花粉飛散量。花粉症デビューしてつらい症状に悩まされている人へ、花粉症とうまく付き合う方法を紹介する。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。
【図】花粉を体内に取り込まないためにはどうしたらいい?* * *
東京都世田谷区在住の女性(48)は2月27日、外出した途端くしゃみが止まらなくなった。その日は夜までくしゃみが続いたが、翌日以降、家から出ずに過ごしたら、症状は少し和らいだ。週末は北海道旅行ですこぶる快調。しかし東京に戻った途端、くしゃみ連発。目がかゆく、夜は鼻がつまって眠れなくなった。とうとう観念し、耳鼻咽喉科を受診、花粉症と診断された。
「過去10年で最多」の指摘もあるほど、今年は各地で花粉の飛散量が多いと報じられている。花粉の飛散量が増えれば、花粉症の発症リスクも高くなる。今年、花粉症デビューしたという人も少なくないだろう。
「花粉症対策の基本は、花粉をできる限り体内に取り込まないこと」と話すのは日本医科大学耳鼻咽喉科学の大久保公裕教授。
マスクは必須。都心部では一般的に花粉の飛散量のピークは午前中から昼すぎ、そして夕方なので、この時間帯は不要不急の外出を避ける。「晴れ・強風・乾燥」の日は花粉が多い。「雨が降った翌日の晴れた暖かい日も危険」と覚えよう。
■かたくなに認めない
これまで花粉症でなかった人にありがちなのが、かたくなに花粉症だと認めないパターン。冒頭の女性もそうだった。
「目のかゆみは、風邪では出ません。花粉の飛散量の増加に伴い症状が強く出るなら、明らかに花粉症です」(大久保教授)
病気ごとの生産損失額を見た海外の調査では、片頭痛、うつ、不安障害、冠動脈疾患など11の病気のうち、アレルギー性鼻炎が最も生産損失額が大きかった。仕事や勉強のパフォーマンスを落とさないために、花粉症を疑ったら速やかに耳鼻咽喉科を受診すべきだ。
花粉症治療には薬物療法、花粉成分を少しずつ体に入れて慣らしていくアレルゲン免疫療法、鼻粘膜の表面をレーザー照射するレーザー治療などがある。アレルゲン免疫療法とレーザー治療は花粉の大量飛散中には開始できないので、いま受けられる治療としては薬物療法になる。
東京都立荏原病院耳鼻咽喉科の木村百合香医長はこう話す。
「初めての花粉症なら、薬にもいろいろ種類がありますから、一度に大量処方してもらわず、服用し、効き目が弱い、または副作用が強いと感じたら、薬を変えてもらうようにしてください。Aさんには眠気が少なくよく効く薬でも、Bさんには眠気が強く出るケースもあります」
市販薬ではダメなのか。
「いま耳鼻咽喉科は混んでいますからね。時間がなければ“つなぎ”として市販薬を利用するのも手でしょう。しかしやはり、耳鼻咽喉科の受診をお勧めします」(木村医長)
■症状ごとに効く薬違う
その理由としてまずは本当に花粉症なのか確認できること。花粉症の疑いが濃厚でも、それは素人判断。また、花粉症の薬はシーズン中毎日飲むことが症状コントロールの上で望ましいが、市販薬を月単位で購入すると高くつく。さらに処方薬でしか手に入らない薬もある。
「最初の発症時に耳鼻咽喉科で検査を受け、どの花粉にアレルギー反応が出るのか、どの薬が自分の症状に合っているのかを知っておけば、来シーズンからの対策を立てやすくなります」(同)
スギかヒノキか両方か。ほかの花粉にも反応するのか。同じ花粉症でも、人によって薬を飲み始める時期、飲み続ける期間が異なる。対策を立てるには耳鼻咽喉科での検査が必要なのだ。
「薬を飲んでも効かない」「眠くなって仕方ない」──。こんな話を聞いた花粉症デビューの人もいるのでは? 前出の大久保教授によれば、薬が効かないのは、選び方に問題があるという。
「最もつらい症状は人それぞれ違う。薬は種類ごとに得意とする症状があり、患者さんに応じたものを選ばなくてはなりません」(大久保教授)
一例を挙げよう。「くしゃみや鼻水がひどい」といった場合で、症状が軽症なら第2世代抗ヒスタミン薬。「第1世代」よりも眠気が少ない。「軽症とはいえない」ようなら、「鼻噴霧用ステロイド薬」を追加。
「鼻づまりがひどい」という人には「第2世代抗ヒスタミン薬+鼻噴霧用ステロイド薬+抗ロイコトリエン拮抗(きっこう)薬」、もしくは「第2世代抗ヒスタミン薬・血管収縮薬配合剤+鼻噴霧用ステロイド薬」。「鼻づまりがひどすぎて眠れない」という訴えには、必要に応じて点鼻用血管収縮薬を1〜2週間に限って処方する。
目のかゆみには、点眼薬を使用する。
「薬によっては、効果が表れるまで数日から数週間かかるものもあります。患者さんの症状、来院のタイミングを見て、何からいくか、どう組み合わせるかなど、探っていきます」(大久保教授)
(ライター・羽根田真智)
※AERA 2023年3月27日号より抜粋