納豆・小松菜・豚肉…“ちょっと”マイナーな「ビタミン」のすごい健康効果【薬学博士の豆知識】

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2023年03月22日 20:21  All About

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ビタミンBやビタミンCはよく知られていますが、「ビタミンK」は少し耳慣れないかもしれません。ビタミンKの役割について、わかりやすく解説します。

ビタミンKとは…多く含む食品はほうれん草、小松菜、豚肉、納豆など

ビタミンと聞くと、「ビタミンA」「ビタミンB」「ビタミンC」などを思い浮かべる人が多いと思いますが、「ビタミンK」を思いつく人は少し珍しいかもしれません。ビタミンKは少しマイナーなイメージがあるかもしれませんね。

ビタミンKは植物の葉緑体で作られるため、ほうれん草、小松菜、春菊など緑色の濃い野菜や海草類に多く含まれます。青汁などの健康食品にも含まれています。また、野菜に比べると含有量は少なめですが、肉の中では豚肉に比較的多くのビタミンKが含まれています。さらに、納豆に含まれる納豆菌はビタミンKを産生してくれるので、納豆を食べることで多くのビタミンKを摂取することができます。

ビタミンKは、脂溶性で体内に蓄積しやすく、健康で通常の食事をしていればビタミンKが不足することはほとんどありません。1日の摂取目安量は成人で150μgとされていますが、日本の国民健康・栄養調査でも、男女とも平均して1日200μg以上摂取しており、目安を満たしています。逆にサプリメントなどの利用でビタミンKを多めに摂取したとしても、毒性による健康被害はほとんど報告されていません。

もちろん、必要以上に摂取することは好ましくありませんが、過剰摂取を心配する必要も少ないでしょう。こうした側面から、健康と栄養に関してビタミンKが話題になることが少ないのかもしれません。

しかし、ビタミンKは、私たちの健康を保つのに非常に重要な役割を果しています。とくに、止血と骨形成には欠かせません。今回は、ビタミンKが発見された歴史を紹介するとともに、止血のメカニズムにどのように関わっているかを詳しく解説します。

ビタミンKが発見された歴史

ビタミンKは、ヒヨコの飼育実験中にその存在が分かりました。1929年、デンマークのCarl Peter Henrik Damが、脂質を除去した飼料でヒヨコを飼育する実験を行っていたところ、ヒヨコの皮下や筋肉などの組織に出血が見られ、採血した血液が凝固しにくくなっていることに気づきました。

当時すでに、脂溶性のビタミンA、D、 Eや壊血病(血管がもろくなって全身の臓器で出血が起こる病気)を治癒できるビタミンCの存在が知られていましたので、これらのビタミンを補うことで回復できるか試したのですが、効果はありませんでした。そこで、「血液凝固に必要な未知の脂溶性ビタミン」が欠けてしまったのではないかと考えられ、その仮想の栄養素を Koagulations Vitamin(ドイツ語で「凝固ビタミン」という意味)と呼び、これが後に略号Kをあてはめて「ビタミンK」と呼ばれることになりました。

そして、我々が現在「ビタミンK」と呼んでいる物質が実際に見つかったのは1939年のこと。まずスイスの化学者Paul Karrer(1937年にノーベル化学賞を受賞済み)らが、牧草のムラサキウマゴヤシ(アルファルファの一種)から単離しました。また、アメリカの生化学者Edward Adelbert Doisyがほぼ同時期に単離し、さらにその構造や性質を明らかにしました。DamとDoisyは、これらの業績が評価され、1943年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

なお、この後、化学構造の違う別のビタミンKが発見されることになったので、最初に見つかったビタミンKは「ビタミンK1」と名付けられました。

ビタミンK1を単離したDoisyの研究室(St.Louis大学医学校)では、D.W. MacCorquodaleらが、ビタミンK1とは少し違う「ビタミンK2」を魚粉から精製し、化学構造を明らかにしました。また、1958年にスイスのC. Martiusが哺乳類およびヒト組織中からビタミンK2を発見するとともに、動物にビタミンK1を投与するとビタミンK2に変換されて働くことを明らかにしました。さらに、イソプレノイド側鎖の長さや修飾が異なる多数の化合物が次々と発見されたことから、「ビタミンK2群」として分類されることになりました。

ただし、動物体内に多く存在するのは4つのイソプレノイドで構成されるメナキノン-4(メナテトレノン)であり、食餌から得たビタミンK1が体内の動脈壁や膵臓、精巣などで変換・生成されて、機能を発揮することが分かりました。

ちなみに、ビタミンKにはK1〜K5の5種類が知られていますが、K1とK2が天然に存在するもので、それ以外はその化学構造を少し変えた合成品です。また、ビタミンK1とK2は、化学構造や性質も似ていますし、上で説明したように、K1の形で摂取しても体内でK2に変換されて作用を発揮します。したがって、以下の説明で「ビタミンK」と記すのは、K1またはK2であるとお考え下さい。

ビタミンKが血液凝固を起こすメカニズム

その発見の経緯ならびにその名前の由来からも明らかなように、ビタミンKは「血液の凝固」に必要不可欠な役割を果しています。

何らかの原因で血管が破れてしまうと、当然出血が起こります。そのままでは致命的になりますから、それを食い止めるため、私たちの体には「止血」の仕組みが備わっています。止血の第一段階は、反射的な血管収縮反応です。血管がギュッと収縮すれば、出血は少なくて済みますが、それだけでは収まりません。

そこで、次いで起こる止血の第二段階は、血液中にある血小板が傷口に集まってきて、血栓(けっせん)を作ります。たとえるなら、大雨で河川が決壊したときに、応急処置として土嚢を積み上げて被害を少なくしようとするのに似ています。このとき、血小板が傷口に集まってくることを「血小板凝集」といい、それによって形成された血栓を「血小板血栓」または「一次血栓」と呼びます。

ただし、血小板で傷口が塞がれただけでは、もろくて不安定です。そこで、止血の第三段階として起こるのが「血液凝固反応」です。血液中に存在する凝固因子と呼ばれる一群のタンパク質が働き、最終的にはフィブリンという繊維状のタンパク質が血小板血栓の全体を覆い固めて、止血を完了させます。これを「凝固血栓」または「二次止血」と呼びます。ビタミンKは、この血液凝固反応に関わるのです。

血液凝固反応に関わる凝固因子は、10種類以上あり、そのほとんどは肝臓で産生されます。それぞれ独立して働くのではなく、すべての凝固因子が関連した連鎖反応を生じることで、血液凝固が成立します。そして、血液凝固因子のうち、供↓察↓宗↓召4種類については、肝臓で作られるときにビタミンKが必要なのです。

より具体的には、これら4種類の血液凝固因子は、すべてタンパク質で、含まれるアミノ酸のうち特定のグルタミン酸が「カルボキシグルタミン酸」(グルタミン酸に-COOHが付加されたもの)という形になることで、カルシウムイオン(Ca2+)と結合することができるようになり機能しますが、この「グルタミン酸→カルボキシグルタミン酸」という修飾が起こるために、ビタミンKが必須なのです。

つまり、ビタミンKがなければ、カルボキシグルタミン酸を含む凝固因子供↓察↓宗↓召できなくなってしまうので、自ずと血液凝固反応全体が機能しなくなり、止血が不完全になってしまうというわけです。

ビタミンK依存性血液凝固因子の覚え方

記事の締めくくりに、一つ耳寄りなお話をしましょう。

上で説明したように、血液凝固因子のうちビタミンKを必要とするのは、供↓察↓宗↓召4種類です。一般の方には関係ないかもしれませんが、医学生や薬学生はこれを覚えることを求められます。そのときにお勧めなのが「肉・納豆」という語呂合わせです。

大学教員である筆者は、学生に対して意味のない語呂合わせは勧めません。しかし、この場合の語呂合わせは実によくできています。この記事の冒頭で紹介したように、ビタミンKは、緑黄色野菜、豚肉、納豆などに多く含まれています。つまり、「肉・納豆」はビタミンKを含む食品にあたり、そこから想起される「2(供法9(宗法7(察法10(勝法廚ビタミンK依存性の血液凝固因子を表しているのです。これで、みなさんの頭の中にも、しっかりビタミンKを含む食品と血液凝固の関係がしっかり刻み込まれたことでしょう。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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