限定公開( 6 )
今、SNSで話題を席巻している『K2』(真船一雄/「コミックDAYS」)という医療漫画をご存じだろうか。5月31日まで全話が無料公開されていることもあって、ハマる人が続出しているのである。
『K2』は1988年から連載されている『スーパードクターK』および『Doctor K』の続編。だが、基本的には『ブラックジャック』的に1話完結型(数話に跨ぐ時もある)の医療ドラマが展開する内容なので、前作を読んでいなくても、なんならこの『K2』の途中から読んでも問題なく楽しめる。
ネットでの盛り上がりにはいくつか要因があるが、まず、SNS映えする場面が多い。例えば何かを確信したときなどに発せられる謎の「ギュッ」という擬音の他、慰安旅旅行先でのんびりしていた医者たちが崩落事故に遭遇してすぐにプロとして覚醒する26話や、入ったら死ぬ風呂が出てくる219話、「なんだそのふざけた髪型は……!」の渾身のボケからの冷静なツッコミが炸裂する274話など、「シリアスな笑い」が人気の理由にもなっている。
だが、ここでは何よりもメインヒロインこと「宮坂詩織」というキャラクターを推したい。
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●ウソみたいだろ。付き合っていないんだぜ。それで。
宮坂さんが初登場する169話。SNS上では宮坂さんと主人公の1人である「黒須一也」との関係に悶絶するほど萌え倒れる人が続出。というか「なんだこいつら、はよ付き合えや」とじれったく思う人が跡を絶たず、そうした宮坂さんの愛らしさを訴えるファンアートも多数投稿されている。
高校生とは思えないほどにガタイの良い男の子の一也と、刺しゅうが趣味の小さな女の子である宮坂さん。一見ギャップのある二人だが、一也からやたらとグイグイと話しかけていく距離感からして存分にニヤニヤできる。
その後、176話で一也のデリカシーのなさに宮坂さんがキレたり、183話で宮坂さんに刺しゅうを教わって上達した一也がちょっと調子に乗ったりもするが、その時点で「付き合ってないんだよね?」「そうよ。バカみたいでしょ」と思ってしまういちゃつき方をしているようにも見える。
さらに2人は同じく医者の道を進むもさまざまなトラブルに遭遇するのだが、そのつど患者に真摯に向き合い解決していき、ついには395話で「まるで阿吽の呼吸」と思われるほどの抜群のコンビネーションを見せていくことになる。
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そして、2人の関係の転機になる(はずだった)のが、一也が出生の秘密を打ち明ける200話である。アイデンティティーに苦悩する彼に対しての、宮坂さんの言葉はあまりに尊い。ていうか、この200話のラストで宮坂さんがここまで言っている、ほぼほぼプロポーズしているのに、付き合っていないとはどういうことなんだよ!
ここで、半ばネタバレかもしれないが、恐ろしいことを言ってしまおう。この『K2』は現実の時間とシンクロするように劇中の時間も経過していき、今では話数は440話を超えて一也と宮坂さんは出会ってから10年あまりが経っている。つまりは、2人はもう20代後半にもなっているのだが、それでもまだ付き合っていないのである。
な……なんでだよ! 171話の時点でキスを超えて血管吻合をしていたり、262話では宮坂さんは一也のその後の一人称を変える言葉もかけてあげたのに! 果ては380話で一也が「ふ……不純異性交遊などしない……!」と顔を赤らめながら言うとかお前は本当に何時代の人間だよ(劇中のツッコミ)! 完全に親公認の仲にもなるどころか385話ではお義父さんとあんな約束までしているのに!
そもそも、宮坂さんに「(医者という)こんなに怖い仕事は他にないわよ」と言わせるほどの道を歩ませたきっかけは、他でもない一也である。一也はその意味でも、宮坂さんに対してなんらかの責任を取らなければいけないはずだ。具体的には今すぐ結婚しろ。
●雑巾のようにぺちゃんこになる宮坂さんも愛おしい
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そんな風に一也と宮坂さんの関係は、もどかしすぎて悶絶してしまう勢いなのだが、宮坂さんの人柄自体がとてもかわいいし、応援したくなるのも重要だ。
例えば、170話で「一度でいいからショートケーキを口っぱいにほおぼってみたい」と言った時は「グモモモモ」と謎の擬音が出たり、226話では受験のヤマが外れたことを嘆いた時は汽笛のような「ボオオオオ」と謎の擬音が出たりするのがひょうきんでキュート。それがまた、大真面目で誠実だが天然でもある一也と正反対のようでお似合いにも見える理由である。
さらに愛おしくて仕方がなかったのは、400話で宮坂さんが患者の命に関わる重大な判断ミスをしてしまい、続く401話で一也に雑巾だと見間違われるほどにぺちゃんこになってしまうことである。いつもは明るく元気なのに、本気で落ち込み反省し、立ち上がる宮坂さんも実に応援したくなるではないか!
そんな風に宮坂さんのかわいさと一也との関係だけでどんぶりで飯が何杯でも食える『K2』だが、それ以外でもやはり漫画として面白いし、医療を扱う作品としての志も高い。
207話からの「和久井譲介」という謎の転校生が登場してからの学園サスペンスはハラハラさせるし、378話からは現実の世界がコロナ禍に突入したことが反映され、さらに413話からはコロナ治療の最前線を描くなど、現実の医療現場に合わせたアップデートも行われている。398話では過換気症候群に対する「ペーパーバッグ法」が今は推奨されていないことを示すなど、医者でなくても知っておきたい知識も描かれる。
『スーパードクターK』シリーズは初めこそ『北斗の拳』をほうふつとさせる濃い絵柄かつハードボイルドな話も多かったが、この『K2』ではほのぼのとする場面も多くなり、医者を目指す若者たちの成長のドラマも一貫して続いていたりと、親しみやすさが格段に増しているのだ。
そして、今もっとも結婚が待ち望まれている、大真面目で人懐っこい大型犬のような一也と、ちっちゃいけどしっかりした飼い主のような宮坂さんという身長差カップル(※出会って10年以上経つのにまだ付き合っていない)を追いかけていると、あらゆる方面からさらに楽しめる内容になっているのだ。
今すぐ読んで、ぜひ「なんだこいつら、はよ結婚しろや」になってほしい。また、宮坂さんと並んでダブルヒロインと呼ばれる「ドクターTETSU」もツンデレでかわいいので(それが極に達するのが第237話からのとある関係に終わりを告げるエピソード)、合わせてチェックしてほしい。
(ヒナタカ)
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