前年に比べ10代〜20代の新規加入者が10倍弱となったという 先月、Z世代が選ぶ次世代SNSにmixiが5位にランクイン。Twitterトレンドにものぼるなど、再注目されてたmixi。「何故、今頃?」といった声が上がったほか、当時mixiを利用していたユーザーからは“若気の至り”が詰まっている思い出深いSNSでもあったため、「黒歴史でしかない」「アラフォー世代にとっては開けてはいけないパンドラの箱でしかない」との反応も。一時期「mixi離れ」という言葉もあったが、今回の再注目について運営側はどのように感じているのか。mixi事業部部長・渡部喜正氏に話を聞いた。
【写真】Z世代トレンド1位となった、なかやまきんに君 全力の『ヤー!パワー!』で大喜び■Twitter日本参入は一つのターニングポイント…「急にmixiの人気がなくなったかと言えば、まったく逆の状態だった」
mixiのサービスがスタートしたのは2004年。当時は招待制であり、登録のハードルが高いSNSサービスだった。だが2010年に招待が無くても登録可能に。そのプレミア感の牙城が崩れることに賛否両論が起こり、「これまでの居心地のいい空間がなくなる」「あまり変な人や業者に入ってきてほしくない」のほか、「やっとmixiができる」といった声もあった。
ちなみに遡ること2008年、Twitterの日本語版がスタートし、Facebook、そしてInstagramなどSNSは戦国時代に入った。その頃からだったろうか。「mixi離れ」という言葉が使われ始めたのは。これに関して、同社事業部部長の渡部氏は「運営側としては、そういった言葉があったことは知っていたが、それほど危機を感じていなかった」と語る。
「確かにTwitterの日本参入は一つターニングポイントではあったのですが、そこで急にmixiの人気がなくなったかと言えば、まったく逆で引き続きユーザーは増えている状態でした。Facebookが始まった時も数字で見るとユーザー数は変わっていない。ゲーム『モンスターストライク』でmixiは持っているなんて声もありましたが、当時は『モンスト』=mixiと認識している方も少なかったです。mixiはつぶやき・日記・コミュニティ・ゲーム・レビューなど様々なコミュニケーション機能がある総合SNSとして、ユーザーそれぞれのニーズに合わせて活用していただいております」(渡部氏/以下同)
とは言え、ユーザー視点で見れば、ユーザー自体は存在しても、アクティブユーザーが減少しているという印象は拭えない。これが元で「mixi離れ」という言葉が生まれた。また巷でも他SNSの普及によって、「mixi」というワードは聞かれなくなった。ネット掲示板では「オワコン」という心無い言葉もあった。ところがここに来ての再注目だ。mixi側としてはどのように捉えているのだろう。
■競合SNSの普及により「親が使っているものは使いたくない」 若者世代からの反発心が再注目の要因に
「純粋に、注目をいただくというのはサービスとしてうれしいことですし、それをきっかけに新しく登録していただいたり、逆に久しぶりにログインしてくださるユーザーもいらっしゃいました。数字に関しては細かいデータはお出ししていないですけれど、先日報道された通り、話題になった時は前年と比べると、10代〜20代の新規加入者が10倍弱、全年齢ですと8倍超にものぼりました。またテレビなどメディアで取り上げられたタイミングですと、それを上回る新規登録者数となり、弊社としてはポジティブに受け止めています」
渡部氏はこの現象をmixiの特性を踏まえてこう分析する。「パブリックなソーシャルメディアの場合、それを活かした楽しさがあるが、突然、意図しない注目を浴びてバズったり、炎上したり、そうした怖さがあったのではないでしょうか。一方でmixiは基本的に相互承認でマイミクになり、仲のいい人たちと情報交換をする場。拡散機能もないですし、つぶやきや日記の公開範囲と制限をかけられる。故にある種の“ゆるさ”があり、このゆるい感じが、Z世代にとっては新しいSNSとして、もしくはこんなサービスがあるのを知らなかった、逆に他の若い人があまり使ってないのでその優越感、ということで注目を受けたのではないかと思われます」
また去年の夏、今年の冬と、Twitterでは「凍結祭り」と呼ばれる現象が起こり、多くの人がアカウントを凍結される事件があった。それがTwitterトレンドに昇るほど話題になり、Twitterユーザー間でも「怖い」「凍結されたのかフォロワーが大幅に減った」といったツイートが多く見られた。国産であるため、窓口も日本語対応という安心感も注目が集まった可能性がある。
「あとは若い方特有の発想で、“親が使っているものは使いたくない”という反発心もあったかもしれません。親世代がFacebookやTwitterを主に使っていた場合、mixiという選択肢が上がった可能性もあります。また新社会人になり、これまでのSNS以外でコミュニケーションをとる際、会社の人とつながるのはここ、プライベートはここといった多様化の1つにmixiが選ばれることもあるように感じます。」
とはいえ、ゼロ年代に栄華を誇っていたかに見えたmixiだが、TwitterやFacebook、Instagramなど多くのSNSが海外から入ってきた時に危機は感じなかったのか。
「複数のSNSを使い分ける人が非常に増えていることもあり、利用時間も分割され、そういった形でログイン頻度が減ったのは事実。しかしヘビーユーザーもいらっしゃるのは事実ですし、単に時代が変わったと弊社では捉えています」
■足あと機能廃止の賛否両論 「当時相当に難しい判断でした」
またmixiの機能の1つとして自分の日記やプロフィールページなどを、いつ誰が見たかを確認できる「足あと」機能があった。これによって、足あとが人へのページ訪問をする“足あと返し”や、自分への足あとへのアクセス数(ペタ)を見て、キリの良い数字のペタを踏んだ人を日記やプロフィールに書くなどのカルチャーもあった。これはその前のテキストサイトブームからの流れで受け入れられていたが、2011年にこれを直近7日間自分のページにアクセスした人数と、訪問者の名前をまとめて見ることができる「訪問者」に改変。これに対して「足あと機能廃止」の反対署名運動も起こるなど、大きな注目を浴びた。
「これは賛否両論ありまして、逆に足あとがつくのが気持ち悪いとか、自分が見に行くのに足あとをつけたくない、そういう方もいらっしゃったんです。でも今で言うと日記単体には利用の表示数が出るようになっていたり、足あとはキリ番が今も残って通知が来るようになっています。この機能変更は当時相当に難しい判断でした」
様々な意見がある中、mixiも暗中模索で改善を続けているのだ。
競合SNSは、ここ島国・日本に住んでいてもWEBを通して世界につながれるというグローバルさが特徴の一つだが、mixiは、“半クローズド”。図らずも自分の言葉が世界に拡散されるというのはメリットにもデメリットにもなりうる。mixiの場合は周囲に知人が多い。これは日本ならではの社会とうまくマッチしているように感じる。知人が見ているからあまり変なことができない。知人に恥ずかしいところを見られたくない。
日本の道徳は「神に恥じる行為ができない」というキリスト教圏と違い、「社会で迷惑をかけるのが恥ずかしい」という特性があると語ったのは三島由紀夫だ。そんな日本の治安が良いのとmixiの平和、穏やかさはリンクしているようにも感じられる。mixiも来年で20周年。今年は自分のmixi歴を確認できるキャンペーンを実施している。久しぶりにログインして「ただいま」と実家に帰るような感覚、「お久しぶり」とOBとして部活のドアを開ける感覚、そういった暖かさが“半クローズド”にはある。何もすべてを世界基準にする必要はない。日本的な、国産ならではの世界があってもいいのではないか。それこそ多様性じゃないのか、と思う。
(取材・文/衣輪晋一)