
中村憲剛×佐藤寿人
第14回「日本サッカー向上委員会」後編
◆第14回・前編>>Jリーグ序盤戦を斬る「イニエスタが帰ってきたらどうなるか」
◆第14回・中編>>本音のJ1談義「宇佐美のインサイドもったいない」
1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。2020年シーズンかぎりでユニフォームを脱いだふたりのレジェンドは、現役時代から仲がいい。気の置けない関係だから、彼らが交わすトークは本音ばかりだ。
ならば、ふたりに日本サッカーについて語り合ってもらえれば、もっといい未来が見えてくるのではないか。飾らない言葉が飛び交う「日本サッカー向上委員会」──第14回は開幕した「Jリーグ2023」の注目ポイントと、新たなスタートを切る「森保ジャパン」について語り合う。
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── 3月下旬に「新生・日本代表」の活動がスタートします。引き続き、森保一監督が指揮を執ることになりましたが、この決定をどのように受け止めていますか。
憲剛 森保さんは続投になったけど、横内(昭展/現・ジュビロ磐田監督)さんがいなくなって、名波(浩)さんが代わりに入った。この変化がポイントですよね。寿人は広島で森保・横内体制下でやっていたけど、このふたりの関係性はどうだったの?
寿人 もともと横さんとポイチさんはミシャの下で一緒にやっていたんですけど、ポイチさんが広島を離れて、新潟のコーチになったんですよ。その後、ミシャがいなくなったタイミングでポイチさんが監督として広島に戻ってきて、それまでミシャを支えていた横さんがポイチさんの下でもコーチを務めることになったんです。
憲剛 そういう流れだったんだ。
寿人 もちろん、横さんにもプライドはあったと思いますよ。今まで自分の下にいたアシスタントコーチが戻ってきて、自分の上に立ったわけですから。しかも、年齢的にもひとつ上だし。
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でも、横さんはコーチとしての立ち位置が絶妙でしたよね。自分が一歩引いて、森保さんをうまく立てていたと思います。あと、若手を育てるのがうまいですよね。浅野(拓磨)とか野津田(岳人)とかを引き上げて、戦力にしましたから。
ポイチさんも横さんを信頼していたし、それは代表の試合を見ていても伝わってくるじゃないですか。だから、横さんがいなくなった森保さんの姿が想像できないんですよね。不安ではないけど、新しいコーチングスタッフになるなかで、森保さんがどういう手腕を発揮するのか、ちょっとわからないというのが本音です。
憲剛 名波さんと森保さんは代表で接点があったのかな。もちろん、現役時代に対戦しているだろうし、監督としても対戦経験はあるだろうけど。
寿人 名波さんはメディアの仕事もしていましたからね。そのなかでミシャのサッカーを見ていた時代もありましたし、ある程度の共通理解はあると思います。
ただ当然、一緒にはやっていませんから。ピッチレベルで森保さんが考えていることと、横さんが考えていることはリンクしていたと思いますけど、名波さんになることで多少の違いは出てくると思います。
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そこをどう調整するか。監督がコーチに気を遣うことも出てくるかもしれない。名波さんの性格上、物事をしっかりと伝えるほうだと思うので。
憲剛 新しい森保ジャパンが見られる可能性が高そうだと?
寿人 選手もそうですよね。
憲剛 選手選考も変わってくるよね。スタッフが代われば、そこも変わると思う。専門職が違えば、評価基準も変わるわけだから。
寿人 分析コーチが代わっても、だいぶ変わりますからね。もちろん、大枠は変わらないと思います。ワールドカップを経験したメンバーを中心にしながら、3年半でどうやってチーム力を高めていけるか。
憲剛 最終的に監督が決めるという絶対的な部分は変わらないけど、そこに至るまでのディスカッションの中身は変わってくるでしょう。横内さんと名波さんとでは当然、考えや意見は違うから、そこでこれまでとは違う広がりみたいなのが生まれてくると思います。違う側面が見られそうだなという意味では、楽しみは大きいですよね。
── 強豪国を撃破しながらベスト16に終わったカタールワールドカップでは、戦い方の「引き出しを増やす」ことが新たなテーマとして突きつけられました。
憲剛 ワールドカップで感じたものを次につなげていくと考えれば「継続」ですけど、新しくスタッフが入ってくることを考えれば、また少し違うやり方になることもありえますよね。コアメンバーは変わらないなかで、最初の試合でどういった戦いを見せてくれるのか。そこは楽しみな部分ですよ。
寿人 まず目指すところは、2024年1月のアジアカップですかね。そこまでにどう強化していくのか。
憲剛 いや、もう今年の11月にはワールドカップの2次予選が始まるのよ(苦笑)。
寿人 なかなか強化できないですね(苦笑)。
憲剛 ヨーロッパ勢との試合も組めないし。強度の高い試合ができない状況を何とか変えていかないといけないんだろうけど、地理的にもカレンダー的にも難しいんでしょうね。
3月シリーズに関して言えば、全員国内組でもいいと思うんだけど。ヨーロッパのシーズンも佳境だから、コンディションを考えればクラブも日本に行かせたくないのでは。特に(三笘)薫あたりはね(3月15日にメンバーが発表されて海外組は19人選出)。
寿人 いや、三笘は見たいですよ。ウチの三男も見たいと(笑)。
── ワールドカップ後の三笘選手の活躍は、まさにセンセーショナルという言葉がふさわしいですが、あの大会を経験して何か感じるものがあったのでしょうか。
憲剛 スタメンで出られなかったこともあるし、悔しい大会になったんだと思います。特に敗れたクロアチア戦が、ひとつのきっかけになったのかなと。
今のブライトンでのパフォーマンスを見ると、とにかく結果を残して、次は自分が引っ張っていくんだという、鬼気迫るくらいの想いを感じますね。恐ろしいくらいに点を取っていますから。
寿人 しかも、サイドの選手ですからね。アシストだけじゃなく、点を取れるのがすごい。ドリブルも止められないですし。
憲剛 僕のなかでは、彼はドリブラーじゃないんです。みんなドリブルがすごいって言いますけど、パスを出せる能力があるから、ドリブルが生きるんです。
寿人 いろんな選択肢を持っていますからね。
憲剛 来なければスルーパスを出すし、食いついて来れば逆を取って運べるし。
寿人 ブライトンの周りの選手もしっかりとポジションを取っているから、より生きますよね。縦だけじゃく、中にも入っていける。
憲剛 監督がいい。イタリアで対戦したことのある(吉田)麻也も言っていた。
寿人 メンバーもいいですよね。モイセス・カイセドがいて、ソリー・マーチがいて、ペルビス・エストゥピニャンがいて、ルイス・ダンクがいて。アレクシス・マック・アリスターもいる。
憲剛 もう、ブライトンがいいんですよ。薫が一番、力を発揮できる高い位置でプレーできますから。
今の薫を見て感じるのは、いろんな意味でワールドカップの経験をいい形で糧にしているなということ。やっていること自体はフロンターレにいた時とも、代表でプレーしている時とも、さして変わらないんですよ。もちろん、本人がフィジカル強化に励んだことも大きいですけど、スタイル自体はどこでプレーしても薫だから。
ただ、それをプレミアの舞台でも普通にやれているのは、本当にすごいことですよ。そういう意味では、薫を含めてワールドカップでいろいろな経験をした選手たちが、次のワールドカップに向けてリスタートを切る大事な戦いになると思うので、楽しみです。みんなで応援しましょう。
◆第15回につづく>>
【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに加入。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグMVPを受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。
佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。