成田空港で大勢のファンの出迎えを受ける日本代表「侍ジャパン」の村上宗隆選手。右のユニホーム姿の男性は記事にも登場する増井さん WBCで14年ぶりの世界一となった侍ジャパンが23日、成田空港にチャーター機で帰国した。約1200人のファンが詰めかけるなか、厳重な警備体制が敷かれていたが、それでも監督や選手と「グータッチ」ができた幸運な男性もいた。セーラー服姿の女子高生まで熱狂していた、侍ジャパン凱旋帰国の舞台裏を取材した。
【写真】「サインしてください」ミニ横断幕を掲げて待っていた16歳の女子高生2人組* * *
選手たちが通る成田空港のゲート前では、取材陣にも厳重なチェックが行われた。取材申請書や本人確認のみならず、過去5年間の犯罪歴の有無を調べるチェックもあった。
取材陣も選手たちへの声掛けはNGで、写真撮影も所定の場所から動かないことが条件とされた。
到着ゲート前で待ち構えていた報道陣はざっと50人ほどいたが、航空会社の職員も同じくらいの人数がズラっと並び、無線などで連絡を取りながら現場を取り仕切っていた。一方、ロビーには到着前からファンがあふれ、青いテープが張られた規制線の前では、千葉県警の警察官や民間の警備員たちが「立ち止まらないで下さい!」と声を張り上げていた。
選手たちを乗せたチャーター機は予定より少し遅れて成田空港に到着。栗山英樹監督や選手たちがロビーに現れると、「キャー」という悲鳴のような歓声が起こる。ファンたちは一斉にスマホをかかげながら、「世界一おめでとう!」「ありがとう!」などと称賛を送った。
前に出ようとするファンを警備員が必死に抑えようとするなか、最前列に1人の目立つ男性がいた。WBCでも大注目されたヤクルトの村上宗隆選手の55番のユニホームを着て、大きな声を張り上げながら、選手たちに手を伸ばしている。ファンの規制線と選手たちとの間には結構な距離があるのだが、侍ジャパンの選手たちからもその男性はよほど目立って見えたのだろう。栗山監督や選手はその男性に近づき、グータッチをするほどだった。
選手たちが通り過ぎた後、男性に声をかけてみた。三重県津市からやってきたという増井孝充(55)さん。WBC観戦のために3月8日に東京に来てから、約2週間ずっと滞在しているという。準決勝は東京・渋谷のスポーツバーで、決勝は東京タワーメディアセンターで約400人のファンと観戦した。今日は、最後に侍ジャパンを見届けようと、午前8時に成田空港へやってきたという。
増井さんはグータッチの瞬間を興奮気味に話す。
「栗山監督が目の前を通った時に、『おめでとうございます!』と言って、すっと腕を出したら、監督がグータッチしてくれました。もう最高です。明るいキャラクターなのに、燃えるものがあって、厳しさもある。栗山監督だからこそ、大谷投手もダルビッシュ投手も呼べたのだと思います。退任すると聞いてショックですが、またいつの日か采配をふるってほしいです」
出迎えるファンのなかには、若い女性の姿も目立った。セーラー服姿の4人組は、千葉県の女子高生だという。そのうちの1人は「きょうは学校帰りに来ました」と言う。
「2時間くらい待ちましたけど、選手たちを見るためなら、全然待っていられました。村上さんはガタイが大きく見えましたね。王者の貫ろくがあって、堂々と胸張って生きている感じで、感動して泣いちゃいました」
4人の中の別の女子高生は、ヤクルトの山田哲人選手のファンだという。
「打ち方がメッチャ好きなんです。『ここぞ』という時に打ってくれる。さっき、前を通る時に姿が見えて、カッコ良かったです」
別の女子高生は、好きな選手にソフトバンクの周東佑京選手を挙げた。
「周東さんの顔の輪郭がシュとしていてかっこいい。WBCでは、(準決勝の)メキシコ戦の最後の1塁から走りがヤバかった。前にいた大谷さんを追い抜きそうだった。塁を飛び出す時の瞬発力がすごいし、足も速いし、完璧です」
東京都内の高校に通う古越香帆さん(16)と加部碧唯さん(16)は「サインして下さい 全勝優勝おめでとう 感動ありがとう!」というミニ横断幕を持って出迎えた。
「私は午前10時に成田空港に着いて、6時間くらい待ちました。選手たちは足早に歩いていってしまったので、サインしてもらう機会はなかったんですけど、間近に見られただけでもうれしかった」(古越さん)
その隣では加部さんが、「私はヌートバー選手のファン」と言う。
「日本の選手を尊重してくれるところと、日本のために絶対優勝するという気合の入ったプレーがよかった」(加部さん)
帰国後は、すぐに都内ホテルの会見場に向かった侍ジャパン。栗山監督は「日本でたくさんの人が応援してくれたということを空港で感じた。みなさんの思いが力になり、感謝で一杯だ」と語った。
日本中が、感動の余韻にひたった1日となった。
(AERA dot.編集部・上田耕司)