出力低下と滑るグラベルに苦戦。勝田貴元、初参戦のWRCメキシコは「納得いかない部分も多い」

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2023年03月24日 15:30  AUTOSPORT web

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総合23位で完走した勝田貴元/アーロン・ジョンストン組(トヨタGRヤリス・ラリー1) 2023年WRC第3戦ラリー・メキシコ
 日本人唯一のWRC世界ラリー選手権フルタイムドライバーとして、今季もラリー・モンテカルロで開幕した2023年シーズンを戦う勝田貴元。コドライバーのアーロン・ジョンストンとともに『トヨタGRヤリス・ラリー1』を駆る彼は、3月16〜19日にメキシコ・グアナファト州で開催された第3戦ラリー・メキシコに挑み、初参戦となった同ラリーを総合23位で完走した。イベント後に行われたオンライン取材会に応じた勝田は、コースオフによるデイリタイアもあった今戦について「完全燃焼できたわけではなく、自分自身に納得のいかない部分が多い」と語った。

 勝田の住むフィンランドがこの時期氷点下はるかに下回る気温であるのに対し、中米はメキシコ中央高原に位置するグアナファトは、標高2000メートルを超える高地でありながら日中の気温は30℃前後まで上昇する。約45℃にもなる気温差への対応と、その中で戦うためのトレーニングや暑さ対策などの甲斐もあり、3年ぶりの開催となった過酷なコンディションのラリー・メキシコで、「フィジカル面での問題はなかった」という勝田。その一方で、メキシコ特有の滑りやすい路面と高地であるがゆえのクルマへの影響が、会期中の3月17日に30歳の誕生日を迎えた彼のラリーを困難なものとした。

 勝田は今回、TOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチームの4台目のGRヤリス・ラリー1で自身初のラリー・メキシコに臨んだ。初日のシェイクダウンとふたつのスーパーSSを終えた時点で総合9番手につけた勝田/ジョンストン組は、車内で煙が出るトラブルに見舞われタイムを失いながらも、順位をふたつ上げて本格的なグラベル(未舗装路)ラリーがスタートした金曜午前最後のSS5を迎える。しかし、このステージの約9km地点でコースオフ。幸い両名に怪我はなかったが、このアクシデントによりデイリタイアとなってしまう。

 当時の状況を勝田は次のように振り返った。「ハイスピードセクションのところで、ブレーキングポイントとラインを少し誤りました。ルーズグラブルの上に乗ってしまってから体勢を立て直すのはかなり難しく、直後の右コーナーに対してオーバースピードで入った結果、コースオフしてしまったという感じです」

■アクセルワークでの体勢の立て直しが難しい

 このアクシデントの要因には「楽観的だった」ブレーキタイミングに加えてエンジンの吹けが悪い「高地特有の影響」もあったという。前述のとおり、ラリー・メキシコは標高2000メートルを超え、最高地点は2700メートル以上にも達する高地でのラリーだ。これは低酸素状態にあることを意味し、内燃機関である1.6リットル直噴ターボエンジンは通常のラリーと比較して約20%も出力が低下する。

 エンジン性能の低下は最高出力だけでなく中間領域にも及ぶため、ドライバーがアクセル操作をした際に得られるフィーリングにもレスポンスの悪化というかたちで表れる。それがクルマの向きを変えづらい状況を作り、一度崩れた体勢を立て直すのを困難にしたという。

「エンジンのパワーが低い分、ドライビングしていくうえで非常に余裕ができる部分は非常に多かったです。ベースノートの処理もそうですし、タイミングが多少ゆっくりになるのため、そのあたりはどちらかというと思ったよりも楽になった部分もあったりしました」

「ただ、エンジンのレスポンスが落ちることによって、例えばラインを少し外してしまった時とか、自分が行きたいラインをトレースしたい時にはパワーが足りずにそこへ行けなかったりだとか、そういったことが思っていた以上に多くあったので、そのあたりは想像以上に難しく感じた部分でした」

■メキシコでのエンジンパワーは、ひとつ下のカテゴリーのよう

 そのメキシコでは、今回初めてハイブリッド車両のラリー1カーが走行した。高地で出力が低下する内燃機関のパワーを最高100kW(約135ps)のハイブリッドブーストが補うことになるため、ハイブリッドシステムの存在は他のラリーと比べて非常に重要になったと勝田は述べた。

「メキシコでのハイブリッドの活用に関しては、他のヨーロッパのイベントと比較して非常に重要になったと思っています。というのも、やはりエンジンだけ単体のパフォーマンスだとパワーがとんでもなく落ちて、フィーリングで言うとひとつ下のカテゴリー(WRC2クラスで採用されるラリー2カー)のエンジンのような感じになってしまいます」

「そこにハイブリッドのブーストが掛かることによって、なんとか本来の……厳密には本来のパワーまでは戻らないですけど、アシストがかなり助けになっていたと思います」

 このことから今戦ではハイブリッドブーストの運用方法、事前に決められている3つのマッピングをどのように使うかなど、チームの戦略によっても各選手のパフォーマンスに幅があったと勝田は見ている。また、彼はこの分野を適切に見極めることができれば、より良い戦いができると考える一方、最後はドライバーに委ねられるところが大きいとも考えている。

「タイムを出していくうえでハイブリッドの活用や使い方、またチームのストラテジー、これらでかなりパフォーマンスが変わったと思います。ですので、このあたりはドライバーたちだけではなくチームにとっても難しい部分と言うか、今後さらによりよく活用していける部分のひとつであるんじゃないかなと思ってます」と語った勝田。

「ただ、その難しい部分としては、やはりハイブリッドのパワーアシストシステムをうまく活用できていても、グリップが低いメキシコのようなコンディションの中で、そのパワーをフルに活かしていくにはドライビングもかなり繊細に走らないといけないと思うので、そのあたりはどちらかと言うとドライバーが対応する面が非常に多いかなとも思ってます」

■「来年もメキシコがあれば、間違いなく充分に活かせる経験」

 金曜日のデイリタイア後、土曜日に再出走を果たした勝田は、次戦以降のグラベルラリーに向け、データ収集の意味合いも含めて多くのことを試しながら走行し最適なドライビングを探っていった。しかし、自身のドライビングを大きく改善することに関しては納得のいくレベルには達しなかった。

 とはいえ、初参戦のラリー・メキシコは「本当にいい経験」になったと言い、「改善すべき点は残ったのですが、最後まで走りきったことによって、このラリーの難しさやステージ特有のグリップの変化だったりとか、そういった部分をすべて見ることができました」と、収穫の多いラリーだったことを認めた勝田。

「結果もそうですけど、内容もあまり自分の中で完全燃焼できたわけではないので自分自身に納得のいかない部分が多いのですが、この結果をしっかり受け止めて今後のグラベルラリーはもちろん、他のラリーにも活かしていきたいと思います」
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