
高校野球の「リアル」がそこにはあった。
筆者は4年間、愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(愛媛新聞社)の編集長を務めたが、そこで目の当たりにしたのは、高校野球の二極化だ。
部員が100人を超える強豪私立高校がある一方で、試合に必要な9人を集めることさえ困難で、他校と合同チームを組まないと大会に出ることができない高校もある。公式戦で、登録メンバーが埋まらない野球部は珍しくない。
21世紀枠で選ばれた城東(徳島)の部員は13人。この人数では、紅白戦やシートバッティングなどの実戦練習はできない。ハンデであることは間違いないだろう。
春のセンバツ5日目に城東が対戦したのは、秋季東京都大会を制した東海大菅生(東京)だった。東海大菅生の部員数は68人(マネージャー4人を含む)。両翼92m、中堅115mの専用グラウンドに加えて、合宿所の隣には全面人工芝の室内練習場もある。
秋季徳島県大会で準決勝まで進み、3位決定戦で敗れた城東の実力は評価されているが、東京王者が相手では分が悪いと思われた。
先取点を奪ったのは城東だった。初回に先発の宮本恭佑を攻めて、2安打で1得点。その裏に同点にされたが、すぐに1点をとり返した。しかし、3回裏に3点をとられて逆転を許し、2対5で敗れた。
試合後、城東の新治良佑監督は開口一番、こう言った。
「13人という少ない部員でこの最高の舞台に立ち、東京チャンピオンという最高のチームと試合をさせてもらい、選手たちはふだん以上の力を発揮できました。選手たちには『楽しかった』という気持ちと、悔しくて『もう1回甲子園に来たい』という気持ちがあると思う。本当に幸せな時間でした」
ドラフト候補に挙げられる190cm・95kgのエース、日當直喜(ひなた・なおき)を擁する東海大菅生と戦力を比べれば見劣りするが、城東らしい攻撃で活路を見出した。新治監督は言う。
「うちは足を絡めた攻撃で勝ち上がってきたチーム。なかなか長打を打てる選手がいないので、チャレンジ精神を持って戦ってきました。それが裏目に出てアウトになり、『何をしとるんだ』と思われたかもしれませんが、あれがうちの攻撃なので。何かを仕掛けて相手のミスを誘う、ウイークポイントを突くのが持ち味。それを甲子園でも見せられたと思います」
記録員としてベンチ入りした永野悠菜が、試合前のシートノックを打ったことでも話題を集めた。
「(女子として史上初となる)永野のシートノックを目に焼きつけようと思ったんですが、僕も甲子園は初めてなので、緊張してそれどころじゃなかったですね。シートノックが終わったあと、彼女に『永野も緊張したかもしれんけど、俺も緊張して最後のキャッチャーフライをミスした』と話したら、緊張がほぐれました。そして、『どうだった?』と聞くと、『楽しかったです。緊張したけど、すごく楽しい時間でした』と言ってくれました。
試合になれば、部員たちはいつもどおり。初回の攻撃から臆することなく攻めました。そういう意味で、永野の役割はすごく大きかった。彼女の努力があったから、こうやって甲子園で表現する場所をいただいたんだと思います」
試合には敗れたが、僅差の好ゲームだった。新治監督は夏を見据えている。
「みんなが躍動していたのに、監督の僕が少し守りに入って選手の足を引っ張ってしまったと反省しています。選手たちは、盗塁を刺したり、センターがいい送球をして三塁でランナーをアウトにしたり、自分のたちのプレーを存分に披露してくれました。
チームの合言葉は『打撃じゃなくて攻撃』。バットを振る力も強くなってきています。夏にまた甲子園に戻ってくるためにはどういう攻撃が必要なのか、選手たちと詰めたい。対戦してみて、『東海大菅生のようなチームが甲子園に来られるんだな』と思いました。夏に甲子園に出て、こういうチームとまた対戦できるようにしたいです」
13人の甲子園でのプレーを見て、新入部員が増えるかもしれない。
「4月に新入部員が入るとしても、おそらく5、6人。実戦形式の練習をするほどの人数を確保するのはこれからも難しい。練習のスタイルはあまり変わらないと思います。ないものねだりをしても仕方がないので、子どもの頃に少人数でボール遊びをした時の『透明ランナー』じゃないですけど、ランナーがいると仮定して練習をする。想像力をつけて、足りないものを補うことしかうちにはできません」
最後に新治監督はこう言った。
「13人でもこうやって頑張れる。部員が少ないことをマイナスに捉えることなく、『頑張ればこういうご褒美が待っている』ということを、全国の人に伝えられたらうれしいですね。
僅差の勝負だったので全員を試合に出すことはできませんでしたが、13人にとって最高の舞台でいい経験ができました。思い出じゃなくて、体験ですね。それを夏にしっかりとつなげたいです」
再び甲子園の土を踏むために、城東はチャレンジを続ける。