
●演技後の2種類の涙
3月23日、フィギュアスケート世界選手権のペアフリーで、20組中で最終滑走だった三浦璃来と木原龍一ペア。ジャンプでミスをした三浦は、演技が終わると涙を流した。そんな三浦を木原が励ました。
「終わった瞬間から璃来ちゃんが落ち込んでいたので、四大陸選手権のあとからしっかりやってきたんだから胸を張ろう、と言いました。
観客の皆さんたちは僕らの演技をたたえてくれているし、結果はもう祈るしかないから、胸を張って帰ろう、と」
だが、得点が発表されると三浦の涙は、ふたりの喜びの大号泣に変わった。
前日のショートプログラム(SP)では、世界歴代5位の80.72点を記録。最初のトリプルツイストで目標にしていたレベルをとれなかった反省はありながらも、前回大会の優勝のアレクサ・シメカ・クニエリム/ブランドン・フレイジャー組(アメリカ)に6.08点差をつけてトップに立っていた。
フリー最初のトリプルツイストはSPに比べて高さがあり、レベルをひとつあげるレベル3とする。次の3回転トーループ+2回転トーループ+ダブルアクセルも余裕をもって決め、そのあとのリフトも力強さを見せた。
だが、3回転サルコウでは三浦が2回転になるミス。それでも立て直して安定した滑りを取り戻したが、終盤のスロー3回転ループでは着氷で踏ん張りきれずに転倒。
最後は疲労感をにじませるような終わり方になってしまった。だからこその、三浦の涙だった。
ふたりが滑り出す前の時点では、SP3位のサラ・コンティ/ニッコロ・マッチ組(イタリア)が自己ベストの合計208.08点を出した。
2位発進のクニエリム/フレイジャー組はジャンプ2本のミスがありながらも142.84点を出し、合計は三浦と木原の最高得点を1点以上も上回る217.48点としていた。そんな状況だったからこそ、自身の失敗に悔いが残った。
しかしフリーの結果は、北京五輪で出した自己最高を0.40点上回る141.44点。合計は世界歴代6位の222.16点になり、ペアとして日本勢初優勝という快挙を飾った。
●初優勝の快挙も「気持ちの弱さが出た」
「今シーズンは世界選手権へ向けて後悔のないように練習をしてきたけど、やっぱりフリーで気持ちの弱さが出て少しミスをしてしまった。優勝は本当にうれしいんですけど、失敗した分は来シーズンもっともっと頑張っていけたらと思います」
こう話す三浦のミスというのは、スロー3回転ループの転倒。今シーズンはこのジャンプで転倒したことがなかった。
「タイミングがずれたんだと思う。降りたけど、耐えることができなかった。もう一回やったら絶対に成功させられると思うので、プレッシャーというのではなく過去の自分に負けてしまったという悔しさです」
それでも勝負を制すことができたのは、SPでこれまでの練習を体現する滑りをしたからだ。3回転トーループを跳んでから力感のあるリフトへとつなぐ、安定感が際立つ演技だった。
SPの得点は北京五輪優勝のスイ・ウェンジン/ハン・ツォン(中国)の84.41点を筆頭に、五輪や世界選手権で活躍するロシア3ペアを入れ、これまで4組しか出していなかった80点台。
結果に木原は「80点台を出しているのは、僕たちよりはるかに上のレベルの方々なので。その足元がちょっとだけ見えてきたかなと思えたのですごくうれしいです」と話していた。
反省点の残ったフリーのあとに木原は「ショートはすごくよかったけど、フリーは自分たちの弱さが少し出てしまったので、見えかけていた強い選手たちの足元は、またどこか遠くへ歩いて行ってしまいました。だから来シーズン、少しずつ詰めていけたらいいと思います」と笑顔で話した。
●次世代の挑戦につながってほしい
これまでふたりがずっと意識し続けてきたのは、前の試合より進化するということ。遠くにある目標を追いかけるのではなく、自分たちの足元を見て少しずつでも成長する姿勢だった。それが確実に自分たちの基盤をつくると信じているからだ。
ロシア勢が出場できなかった今シーズン。三浦/木原ペアの出だしは遅れたものの、グランプリ(GP)シリーズ3戦を含めて出場した5試合はすべて優勝。
GPファイナルと四大陸選手権、世界選手権を制したことで、日本勢初の年間グランドスラム獲得。これまでなかなか注目されていなかったペアで果たすことになった。
「正直、意識していなかったし、そういうものがあるんだという程度でした。でもそれを達成できてよかったし、こういう結果を見た次世代のペアの子たちが、挑戦してみようと思うようになってくれたらうれしいです。
今シーズン達成したグランドスラムの影響が10年後、20年後に出てきた時に、そのきっかけが今日だったね、と言われるようになればいいですね」
初めて合計200点台を出し、世界と戦う自信をつけたのが昨シーズン初戦のオータムクラシック。
それから着実な成長を続け、たった2シーズンで220点台にまで乗せた"りくりゅう"の進化は、まだまだ続くだろう。