舞台は名作「ゴッドファーザー」の火山島 復興と反マフィア、地域おこしを追った一冊「シチリアの奇跡 マフィアからエシカルへ」

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2023年03月25日 11:00  AERA dot.

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島村菜津(しまむら・なつ)/1963年、長崎県生まれ。東京藝術大学卒。2000年に伊のスローフード運動を紹介した『スローフードな人生!』がブームの火付け役に。著作に『スローシティ』『世界中から人が押し寄せる小さな村〜新時代の観光の哲学』などがある(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。


「シチリアの奇跡 マフィアからエシカルへ」は島村菜津さんの著書。マフィアの島として世界的に有名になってしまったイタリア・シチリア島。火山島として度重なる災害にも見舞われてきた。しかしそこでは反マフィアの姿勢を貫き、政治にも働きかけながら果敢に生きる人々がいた。彼らがたどり着いたのは、肥沃な土地から生まれる豊かな作物を活用したエシカルな「地域おこし」。遠い日本でも大いに参考になる再生と希望のルポである。島村さんに、同書にかける思いを聞いた。


*  *  *


 島村菜津さん(59)といえば「スローフード」。イタリアにおけるスローフード運動を紹介した『スローフードな人生!』を読んだ時の清新な驚きを今も覚えている。その島村さんが「マフィアの島」として世界的に知られるようになってしまったシチリア島に注目。勇気を持ってマフィアと戦って負のイメージを覆し、彼らから押収した土地を生かしてオーガニックな作物を作り、「エシカル消費(倫理的課題に取り組む生産者を支援するための消費行動)」につなげている人々を丹念に追ったルポルタージュを執筆した。


「シチリア島というと大ヒットした映画『ゴッドファーザー』シリーズか犯罪学者の書いたマフィア学の本のイメージが強く、実際に私が足を運んで得た印象とは全然違いました。シチリア島は活火山であるエトナ山があって地形が多様ですし、肥沃な土地にも恵まれて地域食材が豊富です。海も美しい。ところが外国からは土着性が強く、乾いた辺境の土地だと思われています」


 本書の前半で描き出されるマフィアとの戦いは凄まじい。「ゴッドファーザー」では残酷な場面ですら美しく官能的に描かれていたが、実際に起きる殺人事件は凄惨の一語。警察・司法・一般人まで対象となり、銃撃どころか道路ごと(!)乗った車を爆破されて命を失うこともあった。もちろん金のためである。マフィアは島の経済を牛耳り、食品偽装にまで関係していた。


 だが、警察や司法の取り締まり、何より勇気あるシチリアの人々が、「さよなら、みかじめ料運動」などでマフィアとの縁を断ち、本来の豊かな故郷を取り戻そうと今も奮闘している。マフィアから押収した土地でオーガニックな農業に取り組み、採れた作物を使ったレストラン・ショップ・B&Bなどを展開し、「エシカル消費」に繋げている。それは「ゴッドファーザー」ファンとは違う新しい観光客を世界から呼び込む力となった。


 たとえばパレルモのあるレストランは、いくつかのNPOの共同運営だ。シェフはアフガニスタンからの移民である。地元の食材を使い、学生や移民に安くておいしい料理やワインを提供。夜はバーになるというなんとも魅力的な場となっている。しかも難民は無償で食事が食べられる。


「シチリア島は地理的に移民の多い土地です。文化もアラブ的、ギリシャ的なものが入り混じり、古いアルバニア難民と共有する村々やチュニジア人居留区もある。そういう歴史が島を豊かにしたのだと、市民がわかっています」


 日本のスローフードにも詳しい島村さんは、噴火や地震の多いシチリアの災害復興の歩みにも着目する。それが同じく災害の多い日本の被災地復興のヒントになるからだ。


「情報交換する価値は大いにありますよ。ローカリズムを成熟させるためには、自然と寄り添う産業と持続可能な観光が手を結ぶべきなんです」


 言葉に力がこもった。


(ライター・千葉望)


※AERA 2023年3月27日号



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