「キングオブコントの会」で新作コントを手掛ける松本人志『M−1グランプリ』などのメジャーなお笑いコンテストがあると、それを見た人々の間で「あの芸人が優勝したのは納得できない」「こっちの芸人の方が面白かった」「あんなのは漫才ではない」といった意見が飛び交い、論争が起こることがある。
【写真】地上波で見ないのに「年収2億円」のお笑いコンビはこちら 3月4日に放送されたピン芸日本一を決める『R−1グランプリ2023』では、大会そのものの意義を問うような「R−1には夢があるか・ないか論争」が盛り上がっていた。事の発端となったのは、昨年末の『M−1グランプリ2022』で優勝したウエストランドの井口浩之が、漫才の中で「R−1には夢がない」という趣旨の発言をしたことだ。
これを受けて『R−1』の番組内では、優勝して人生が変わった芸人や大会に真剣に挑む芸人の映像を流し、「夢がある」ということを改めて強調していた。また、大会前のファイナリスト記者会見や大会後の優勝者会見などでも、井口の発言を踏まえたやり取りがあった。
『R−1』に夢がないと言われる理由は、そもそも『M−1』に比べると世間の注目度が低く、優勝したり決勝で活躍したりしても、仕事が増えないことが多いからだ。
また、タイミングの悪いことに、今年の『R−1』ではモニター画面に芸人名と点数が誤って表示され、ヤラセがあったのではないかと疑われたりもした。これは明らかにスタッフの人為的なミスなのだが、「これだから『R−1』は……」と世間に見下される原因を自ら作ってしまった感は否めない。
お笑いコンテストを盛り上げるためのカギは、主催するテレビ局が放送後にどれだけその熱を持続させられるかということだ。その年のチャンピオンやファイナリストをほかの番組でも積極的に起用したりすることで、大会の価値を高められるし、出場者のモチベーションも上げることができる。
たとえば、日本テレビが主催する『女芸人No.1決定戦 THE W』の場合、優勝者には賞金1000万円に加えて副賞として「日テレ系番組出演権」と「冠特番」が贈呈されることになっている。このように縦の連携を強化する形で芸人の後押しをすることが重要なのだ。
近年のお笑いコンテストの中で、それがうまくできていると思われるのが、TBSが主催するコントの大会『キングオブコント』である。というのも、この大会の関連番組として2021年に『キングオブコントの会』が始まり、これが大いに盛り上がりを見せているのだ。
『キングオブコントの会』では、ダウンタウンの松本人志、さまぁ〜ず、バナナマンに『キングオブコント』の過去のチャンピオンやファイナリストの芸人が加わって、さまざまな種類のユニットコントを披露する。
しかも、特筆すべきは、その中に松本が書き下ろした新作コントも含まれているということだ。『ダウンタウンのごっつええ感じ』『松本人志のコント MHK』といった、かつての松本のコント番組では、彼自身の発想がベースになっていて、彼の意向が全面的に反映された作りになっていた。
だが、『キングオブコントの会』では、出演する芸人たちが自ら考えたコントを演じていて、松本が作ったコントもその中に含まれているだけだった。
しかも、松本が手がけたコントの中では複数の芸人が出ていて、それぞれの芸人が自由に何をやってもいいと松本に任されているパートがあったことも明かされていたことがあった。
つまり、この番組で松本は孤高の天才として独裁的に振る舞うことをせずに、後輩芸人たちの自主性を尊重して、のびのびとコントを演じさせているのだ。そのため、『キングオブコントの会』は、過去の松本のコント番組と比べても和気あいあいとした空気が流れる温かみのある番組に仕上がっていた。
コントでは視聴率が取れないと言われる時代に、『キングオブコントの会』は高視聴率だったため、今年も3月25日に放送されることになった。『キングオブコント』で結果を残したコントを本業とする芸人たちが、笑いのカリスマである松本の前で存分に腕を振るうのが見どころだ。
お笑い界にとって意義のある番組であると同時に、視聴者にとって面白い番組だし、『キングオブコント』という大会を盛り上げる効果もある。『キングオブコントの会』は一石三鳥の良質なお笑いコンテンツなのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)