テスラ超長距離旅で分かった、“日本式”充電インフラの弱点 他のEVには致命的かも

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2023年03月25日 18:51  ITmedia NEWS

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福山SAで充電中。横浜を出て2000km超を走っただけあり、フロントには虫の残骸がたくさんこびりついている

 「iPhoneにタイヤをつけたようなクルマ」と表現されるTesla。この連載では、デジタルガジェットとして、そしてときには、ファミリーカーとしての視点で、この未来からやってきたクルマをリポートします。



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 昨年の11月末、Model 3で横浜から長崎の往復3000kmの旅をしてきました。前編「EV旅の秘訣は“満タン主義“との決別 テスラで『往復3000kmドライブ』」では、長崎までの往路の様子をお伝えしました。本稿では、旅の主目的である、潜伏キリシタンゆかりの地巡りや復路におけるModel 3の運行状況を充電を中心にお伝えします。



 前編同様「充電」という視点から結論を先に述べると、横浜までの帰路では、途中、岡山の実家で一泊しましたが、実家に普通充電の設備がなかったこともあり、合計5回の経路充電を行いました。そのうちスーパーチャージャーでの充電は1回です。復路ではあえて、1セッション30分制限が課せられ充電速度も遅い公共のCHAdeMO充電器を使うようにしました。結果的に、充電の時間制限がなく高出力のスーパーチャージャーのありがたみをしみじみと感じた1300kmの復路でした。



●改めて重要だと感じた「目的地充電」



 長崎滞在の3日間は、怒濤のように過ぎていきました。徒歩での長崎市内巡りと軍艦島ツアーから始まり、Model 3を駆っての平戸島、生月島方面の潜伏キリシタンゆかりの地やカトリック教会巡り、遠藤周作『沈黙』の舞台となった外海地区回遊などでは、ホテル駐車場のTesla専用充電器のおかげで、結果的に経路充電を行う必要はなく、快適な体験と素敵な思い出を残すことができました。



 今回、EVを利用した旅に目的地充電が欠かせないことを再認識させられました。朝、目覚めたら充電が完了しているわけですから、その安心感と快適性は言いようのない歓びです。サービスエリア(SA)など経路上の急速充電インフラが、EVにとって必要な要素であることは、多く知られていますが、それと同時に宿泊施設や長時間滞在施設における、滞在型の充電設備の重要性にも着目してください。



 急速充電設備の場合、設置コストは数百から数千万円、高圧受電、管理者の配置など、運用コストも高額になると言われていますが、目的地充電は急速充電である必要ないのです。200Vの普通充電でも完璧とは言えないまでも有用です。仮に、1日の旅程が300km以内で、宿に普通充電器が設置されていれば、翌朝は一定容量の充電が完了した状態で出発できるわけですから、場合によっては経路上の急速充電は不要です。



 実際、今回の長崎周辺の観光では、長崎市のホテルを拠点として合計で四百数十kmを走りましたが、経路充電は行いませんでした。宿に帰れば充電できる安心感は何物にも代えがたいものです。



 長崎周辺の回遊については、写真とキャプションでサラッと紹介しましょう。



●Teslaの充電器が故障中で予定が狂う



 平戸島への小旅行では、Tesla専用のディスティネーションチャージャーで想定外の事態に遭遇しました。故障して使えませんでした。この日の最後に立ち寄った、松浦史料博物館には、Tesla専用の充電器が設置されており、施設利用者であれば無料で充電できます。ここで充電しなくても、計画上は長崎のホテルまで十数%残で無充電で帰ることができるのですが、無料ということもあり安心感を得るために、ここでの充電を予定していました。



 しかし、いざ到着してみると、故障中の張り紙があります。資料館の受付で問い合わせると「テスラにお願いしているのに、全然、修理に来てくれない。あなたからも伝えてください」と困惑した様子でした。



 平戸市の公共の充電環境は、お世辞にも良いとはいえません。20〜30kWのCHAdeMO充電施設が数カ所あるだけです。そのような状況下におけるディスティネーションチャージャーは、Teslaユーザーにはありがたい存在です。最大10kWとはいえ、施設に1時間程度滞在すれば、少なくとも約60km分は充電可能です。



 スーパーチャージャーであれば、Model 3のスクリーンや専用アプリで充電ストールの空きや運用状況をリアルタイムで確認できますが、ディスティネーションチャージャーはそれができません。今後、施設に直接確認するようにしたいと思います。



 Teslaに限らず、公共のCHAdeMOの充電設備などでも、いざ現地に到着すると故障中だったり、運用そのものを停止している事例も出はじめているそうです。当てにしていた充電設備が使えないとなると電欠の危険性に直面します。旅の充電計画を練る際には、充電スタンド情報を提供するサイトや現地に直接確認するなど事前の情報収集が必要です。



●アプリでSAの充電器の空き状況を確認



 楽しかった長崎観光も終わり岡山の実家に立ち寄った後、横浜に帰ります。午前8時頃にホテルを充電量100%で出発します。約590km先の実家には午後5時までに到着する約束をしています。復路は公共充電環境の検証を行なう目的で高速道路のSAの充電器だけを利用すると決めていました。あえてスーパーチャージャーは利用しません。



 九州縦貫自動車道の古賀SAで30分のトイレ休憩の後、山陽自動車道の山口県内のSAで昼食を取る予定です。そのときに充電も済ませます。助手席の妻に「高速充電ナビ」というアプリでSAの充電器の空き状況を確認してもらいます。午後12時を過ぎたあたりで、少し先の下松SAの充電器が空いていたので、ここで充電と昼食を取ることにしました。



 下松SAの充電器は出力40kWですが、平均35kWで30分間充電し33%から53%まで回復しました。充電量は約17kWh(約120km分)でした。公共の充電器は1セッション30分上限のルールがあります。他のEVがいなければ、おかわり充電を行っても良いと思いますが、このときは、終了間際に日産リーフがやってきたので、場所を空けました。



 高速道路のSAにおける充電30分制限は、実に中途半端な長さに感じます。我が家の場合、食事をゆっくり取って休息や、場合によっては仮眠を含めると大抵1時間は滞在します。30分経過後にクルマに戻って一般の駐車区画に移動させれば問題ないのでしょうが、この下松SAの充電器は、SAの出口付近に設置されています。一般区画に移動するためには、逆走しなければなりません。さすがにそのような危険行為は、はばかられます。食事を30分で済ませ出発しました。



 NEXCOでもSA/PAの充電器の設置場所について問題意識を持っているようで、新東名や新名神高速道といった新しい道路上の施設では、入口付近に充電器を設置し、充電終了後には一般の区画に移動可能なよう設計されています。



●充電停止のタイミングでミスを犯してしまった



 下松SAを出発した時点でバッテリーは53%でした。エネルギー予測によると、岡山の実家までは数パーセントを残して到達できます。しかし、実家には充電コンセントがありません。その翌日は朝から墓参や親戚との会合などを予定していたので、最低でも10%以上、余裕を見るなら20%程度は充電残を確保しておく必要があります。



 そこで、岡山県に入る直前の福山SAで充電することにしました。ここの充電器も下松SA同様、40kWなので、計算上は20分も充電すればバッテリー残20%を残して実家に到達できるはずです。しかし、ここで、ちょっとしたミスを犯してしまいました。20分以内で充電停止ボタンを押しそこね、数十秒ほどオーバータイムしたのです。



 私が契約している日産の充電カード「ZEPS3」シンプルプランは、10分単位で550円づつ課金される仕組みです。つまり、数十秒であっても20分を超えたら、その瞬間にチャリ〜ンと550円が加算されます。停止ボタンを押してしまったので、もう後の祭りです。前編でも解説しましたが、スーパーチャージャーの1分単位の課金が如何に良心的で合理的なのかを痛感した瞬間でした。



 結局、実家にはバッテリー残20%で到着しました。福山SA以後は、ペースを落とし80km巡航を意識したり、一般道を含むことで電費が予測より向上したものと思われます。



●他社製EVも日産ディーラーの充電器を堂々と利用



 旅の最終日は、岡山での墓参や親戚との会合を済ませ、午後1時前に横浜に向けて出発しました。ただ、バッテリーは12%まで減っています。山陽道に乗る前に充電しておきたいものです。そこで、最寄りの日産サティオ店の充電器を利用しました。



 ここには、急速充電器が2基設置されています。次の休憩地として予定している新名神高速道の宝塚北SAの充電器までたどり着くためには、約20kWhを補充、バッテリー容量40%程度は確保する必要があります。結局、上限の30分では15kWhしか充電できず、待機車両がいなかったこともあり、あと10分だけ追加で充電することにしました。



 ちなみに、YouTubeの各種EVの紹介動画において、他社製EVで日産ディーラーの充電器を利用することに対し、遠慮というか肩身の狭さを口にする内容のものをいくつか見たことがあります。筆者は、他社製EVであっても、日産ディーラーの充電器を堂々と利用すればよいと考えています。そもそも、充電カードの「ZEPS3」は日産が発行しているものですし、急速充電を「ビジネス」として運用しているのですから。



 もう1つの理由は、日産ディーラーの充電器の多くは、基本的に政府の補助金を受けて設置されているからです。補助金には「利用者を限定しないこと」「充電設備が公道に面した入口から誰もが自由に出入りできる」といった交付条件があります。日産ディーラーの充電器のほとんどが24時間対応で、閉店後も充電用エリアに入構可能な仕組みなっているのはこのためです。



 結局、日産ディーラーで約40分間の充電を行いました。ここでEVの弱点がもろに出た格好です。というのは、この40分間はディーラーの立地環境の関係で、単に車内でスマホを見てボーッと過ごすだけの、無駄な時間に終止したからです。高速道路のSAや商業施設での充電であれば、食事、休息、買い物といった「意味ある時間」として費やすことができます。



 今から考えると、さっさと高速道路に入り、何ヵ所かのSAに立ち寄りながら、休憩を兼ねて継ぎ足し充電をすればよかったのかもしれません。このあたりの判断が難しいところでもあり、EVにおけるエネルギー補充の欠点が露呈した形です。ガソリン車であれば5分で6〜700km分の補充が可能です。



●心が折れた「CHAdeMO充電」



 さあ、横浜の自宅に向けて激走です。途中、宝塚北SAにバッテリー11%で到着し、30分間で約21kWhの充電を行いました。充電途中、日産リーフがやってきて、助手席の女性が降りてきたかと思うと、筆者が利用中の充電器の表示を確認し、車中の男性に向けて「あと、17分!」と大声で知らせていました。その後、リーフは充電待機エリアに並びました。宝塚北SAのような大規模SAで充電器が1基しかないのはいかがなものかと思います。



 さて、ここで心が折れました。本連載のネタとして、復路は、尺取り虫のようにSAのCHAdeMO充電を渡り歩きながら帰路につく予定でしたが、急遽とりやめです。1回の充電で120〜130km分しか充電できない上に、日曜日ということもあり充電渋滞に遭遇する確率が高いと判断したからです。つまり、CHAdeMO充電が面倒くさくなったわけです。



 結局、新名神道の草津田上で一時退出し、往路でも利用した大津スーパーチャージャーに立ち寄り、約420km先の横浜まで無充電で到達できる約60kWh、バッテリー容量99%まで充電しました。充電時間は50分程で、その間、トレイ、仮眠、買い物を行いました。



 以後の行程では、食事や仮眠など、休憩を入れつつ、自宅にはバッテリー残21%で到着しました。もちろん、大津以降は、無充電走破です。というわけで、旅の最後の最後で「Teslaのスーパーチャージャーは神」ということを痛感したしだいです。今回の全行程において、インターチェンジの途中退出で発生した初乗り追加料金、2060円を考慮してもスーパーチャージャーを利用した方がコスパ的にも有利です。



 私はModel 3以外のEVの運用経験はありません。しかし、今回の体験から、現状、CHAdeMO充電だけでEVを運用するのは、それなりのストレスを覚悟しなければならないことを痛感しました。



 最初からModel 3やスーパーチャージャーを知らなければ、そんなものかと割り切ることができるのかもしれませんが、Model 3での運用を知った今となっては、CHAdeMOしか対応できない他社製EVに触手を伸ばすことはない、というのが正直な気持ちです。



 今後、CHAdeMOのネットワークも進化し、大容量化されたり、充電器が増設されるとは思いますが、少なくとも現状ではTesla以外考えられません。



 EV懐疑論者からは「ハイブリッドかガソリン車にすればいいじゃん」と突っ込まれそうですが、Model 3は、充電や航続距離というネガティブな要素を補ってなお余りある、他の何物にも代えがたい独自のユーザー体験をもたらしてくれることは付記しておきます。



 また、本稿では触れませんでしたが、運転支援であるオートパイロットの優秀さが、運転の疲労軽減に寄与したことは間違いありません。3000km超の長旅を経験してModel 3の魅力を再認識することができました。最後に全行程の電費や充電コスト、地図上の経路といった情報を掲載しておきます。



著者プロフィール



●山崎潤一郎



音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla


このニュースに関するつぶやき

  • 結局充電ができる場所が無かったら意味無いよな?(笑) 後、肝心の充電施設が故障したまま何も修理に来ないって糞アフターサービスやってたら余計信頼性が駄々下がりだわ。
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