リタイア後に向けた、現役時代からの備えが重要だ(撮影/写真映像部・東川哲也) 現役から、備えておきたいリタイア後の生活。“金持ち”と“貧乏シニア”の二極化が進むなか、今からできる準備、心構えは。AERA 2023年3月27日号より紹介する。
【図】老後の生活についての考え方はこちら* * *
年金生活になれば、現役時代と比べて所得が減るのは必至。とはいえ、老後に備えて貯蓄してきた人たちが大半のはず。シニアはお金をため込んだまま使わないというイメージも抱きがちだ。しかし、そういった先入観と現実との間には、大きなギャップが存在する。
実は、高齢になるほど貧富の格差が深刻化しているのだ。それを裏付けるのは、金融広報中央委員会が公表した「家計の金融行動に関する世論調査(2人以上世帯調査)2022年版」だ。まず、3千万円以上の金融資産を保有している人の割合は60代が20.3%で、70代が18.3%だった。
一方、金融資産を保有していない人は60代が20.8%、70代が18.7%だった。“金持ちシニア”が2割前後に達している傍らで“貧乏シニア”も同程度を占め、二極化が顕著なのだ。
「ここ十数年、貯蓄ゼロ世帯の占める割合がジリジリと増えているという印象は抱いていました。しかも、必ずしも低収入だから貯蓄ゼロに陥るというわけではなさそうです。高収入であっても、使い切ってしまう人もいるということでしょう」
■40、50代の不安大
こう語るのは、ファイナンシャルプランナーの菱田雅生さん。こうした実態を肌感覚で察知しているのか、老後の生活に関する質問では、世代を問わず不安を抱く人の数が圧倒的だった。同調査では、「多少心配である」と「非常に心配である」との回答の合計値は、まだ老後が先の話である20代でも75%超。子育て期で出費がかさみがちな40代では、実に約87%に上った。
心配している理由については、「十分な金融資産がないから」(68%)が最多で、「年金や保険が十分でないから」(52.1%)がそれに次いだ。少子高齢化で給付額の減少が避けられないだけに、現役世代の公的年金に対する不安は大きい。「年金でさほど不自由なく暮らせる」と答えた人は70代が11.2%だったのに対し、50代は6.3%、40代は6.1%にすぎない。
40〜50代のほうが20〜30代よりも公的年金に対する期待が低いのは、年齢を重ね老後のことが現実味を帯びてきているからだろう。単に不安がるばかりではなく、何らかの自助努力が必要だと考える人も増えてきている。また、元本割れの可能性がある半面、高収益を期待できる金融商品に対する意識についてもヒアリング。「積極的に保有しようと思っている」もしくは「一部は保有しようと思っている」と答えた人は、13年の調査で15.8%だった。
■高まる投資意識
だが、20年の調査から急増し、今回は49.3%に達している。その背景には、金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の調査報告が物議を招いたことがある。いわゆる「老後2千万円問題」で、公的年金だけでは30年間で約2千万円が不足すると世間では受け止められた。その結果、自分でも何らかの投資を始めるべきだという意識が高まった。
もっとも、闇雲に投資を実践したからといって、着実な成果を期待できるわけではない。自助努力で確保すべき老後資金の金額にも、少なからず個人差があるだろう。目標額の算出方法について、菱田さんは計算式で「予定される収入や資産」−「予定される出費」=「不足額」と示してくれた。
「蓄えておくべき老後資金の計算式自体は非常にシンプルなのですが、老後に予定される収入や資産の状況についてきちんと調べる必要があります。また、老後の支出も生活費の想定だけにとどまらず、子どもの結婚資金援助や家のリフォーム費用など、まとまった出費も見積もっておきます」
大病を患った場合の医療費や、自立生活が困難となった場合の介護費用も念頭に置きたい。ただ、医療費は「高額療養費制度」で自己負担がかなり抑えられるのも確か。介護にしても、「施設入居を迫られない限り、介護保険のカバーで自己負担は限定的」(菱田さん)と言える。
(金融ジャーナリスト・大西洋平)
※AERA 2023年3月27日号より抜粋