ベンチなどでも選手がリラックスして試合に臨む姿が目立った今回の侍ジャパン 第5回のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で世界一となった侍ジャパンの原動力はチームの一体感だった。大谷翔平(エンゼルス)、ダルビッシュ有(パドレス)といった超一流選手が自ら壁を取り除き、風通しの良い環境を作り出したことがチームの躍進につながった。
【写真】2022年は期待外れだった巨人の選手がこちら まず、メジャーリーガーとして唯一宮崎でのキャンプから合流したダルビッシュがチームに“まとまり”をもたらした。
「ダルビッシュの存在は大きかった。宮崎キャンプの初日から合流、チームがまとまり最高のスタートが切れた。緊張していた宇田川優希(オリックス)など、若手にもしっかり気を配っていた。日に日に団結力が高まり、遅れて合流した大谷や吉田正尚(レッドソックス)もやりやすかったはず」(在京テレビ局スポーツ担当)
チームを指揮した栗山英樹監督も「ダルビッシュジャパンと言ってもいい」と準々決勝(イタリア戦)の後に語るほど、36歳となった右腕の影響力は絶大だった。グラウンド内外で多くの選手と会話を交わし、緊張感を取り除いて気を使わせないように心掛けた。また練習方法やコンディショニングなどに関して聞かれた際には、知識を惜しげもなく伝授。ファンのサインにも連日快く応じるなど、選手としてあるべき振る舞いを自ら実践してみせた。
印象的なのは2月20日に開催された“宇田川会”という名の食事会。宇田川は人見知りな性格でチームに打ち解けるのに時間がかかっていたが、食事会でメンバーとの距離が一気に縮まった。また、「あまりにも1人(宇田川)の人間が背負うには大きすぎる。だからそれは嫌だった」(ダルビッシュ)と、育成契約から侍ジャパンへと一気に駆け上がり、今までにない注目度に気疲れを見せていた24歳の心を気遣った。
「ダル、大谷の2人は、自分からどんどん周囲に話しかけてくれた。招集時には選手、スタッフともに多少は気を遣う部分もあったが、あっという間に打ち解けることができた。お互いにイジリ、イジられるような関係性も出来上がった。また投手、野手の隔てなく会話が弾むチームとなった」(侍ジャパン関係者)
3月の強化試合からチームへ合流した大谷も同じくチームに“良い雰囲気”をもたらした一人だ。二刀流として米国でも屈指のスーパースターとなった大谷はプライベートジェット機で来日。“メジャーの大物”に対して他の選手たちは気を遣う部分もあったはずだが、大谷自ら周囲へ歩み寄っていった。
「明るくて素直な男ですが、以前は少しだけ人見知りの部分もあった。やはり米国で揉まれたというか(笑)、コミュニケーションの取り方がずば抜けて上手くなっていた。仲の良い松井裕樹(楽天)に抱きついたり、近藤健介(ソフトバンク)をイジったりする姿に成長を感じました」(日本ハム関係者)
日本ハム時代の先輩・近藤からは「相変わらず普通の生意気なガキです」と笑いながらコメントされるなど、“かわいい後輩”である一面を見せたかと思えば、自身のインスタグラムにはチェコ戦に先発した同郷の後輩・佐々木朗希(ロッテ)との2ショットをアップし、「まあまあやるやん」と愛のある書き込みをして“面倒見の良い先輩”の顔ものぞかせた。
「ダル、大谷は野球界の宝のような選手。招集前は『何を話せば良いかわからない』と言っている人たちもいたほど。でもフタを開けると優しい兄貴という感じで全く距離を感じさせなかった。年上のスタッフにも同様で、最後の方は気を遣う人はチーム内にはいなかった」(侍ジャパン関係者)
今回の侍ジャパンでは年齢による上下関係を感じさせるシーンはほとんどなかったように見えた。チームの勝利のため、誰もが最大限のパフォーマンスを発揮できることのみに集中できる環境がそこにはあった。全選手がプレーしやすくなるよう、お互いをリスペクトする心は持ちつつもフラットな関係性が築かれていたのだろう。
大谷と食事をともにした宮城大弥(オリックス)が「タメ口で来い」と言われ、「翔平」と呼び「いいね」と返されたことも話題になった。
これまで野球界は上下関係に厳しいとされていたが、今回の侍ジャパンのチームからは良い意味でそういったものがなくなりつつあるのを感じた。
「サッカー界は昔から上下関係が緩めな部分はありました。とはいえ90年代、(試合中に)中田英寿がベテランの井原正巳を呼び捨てで呼んだ時はさすがに物議を醸した。(日本のスポーツ界では大なり小なり上下関係がある中で)今回の侍ジャパンの雰囲気は時代の変化を痛感した」(サッカー専門誌編集者)
これまでも侍ジャパンは2度WBCで優勝していたが、今回は一度も負けることなく7連勝で世界一まで登りつめた。元々「史上最強」との評価もあり選手の能力は高かったが、各々が持てる力を遺憾なく発揮できたのは、チームにそれを後押しする雰囲気が醸成されていたというのもあっただろう。今大会では日系人で初めて侍ジャパンの一員としてプレーしたラーズ・ヌートバー(カージナルス)を含め、年齢や国籍を問わず、同じ目標に向かって戦えたことは何より大きかった。大谷が優勝を決めた後に発言したように、実力、雰囲気ともに今回の侍ジャパンは「最高のチーム」だった。