WBC「全員野球」で世界一になった侍ジャパン 「陰のMVP」ダルビッシュ有の貢献度

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2023年03月28日 07:30  AERA dot.

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14年ぶりの優勝を決めた瞬間、大谷翔平と中村悠平(ともに中央)が抱き合い、選手たちが歓喜の輪をつくった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
 野球の日本代表(侍ジャパン)が14年ぶり3度目の「世界一」となった。国際大会「ワールド・ベースボール・クラシック」(WBC)の決勝で米国を破った。選手たちの活躍を振り返る。AERA 2023年4月3日号の記事を紹介する。


【写真】貴重な大谷のバントヒットの瞬間はこちら*  *  *


 これほどの劇的なストーリーを想像できた人はいただろうか。日本時間3月22日に米フロリダ州マイアミのローンデポ・パークであったWBC決勝は、侍ジャパンの「全員野球」が凝縮された試合だった。


 連覇を目指す米国とWBC決勝で対決するのは初めて。その強力打線を大会ナンバーワンと呼ばれた日本の投手陣が抑えた。


 先発の今永昇太(DeNA、29)が二回にトレイ・ターナー(フィリーズ、29)にソロ本塁打を浴びて先取点を奪われたが、三回以降は追加点を許さない。救援した戸郷翔征(巨人、22)、高橋宏斗(中日、20)、伊藤大海(ひろみ、日本ハム、25)、大勢(たいせい、巨人、23)が決定打を許さず無失点でしのぐ。


 最後は豪華な継投策が実現した。まずダルビッシュ有(パドレス、36)が八回に登板。カイル・シュワーバー(フィリーズ、30)にソロを打たれると、九回は大谷翔平(エンゼルス、28)がマウンドへ。エンゼルスの同僚で大リーグを代表する強打者、マイク・トラウト(31)が「最後の打者」という最高のドラマが待っていた。


 140キロのスライダーで空振り三振に仕留めると、帽子とグラブを投げて捕手の中村悠平(ヤクルト、32)と抱き合う。ナインがなだれ込んで喜びを爆発させた。


■ダルビッシュの貢献度


 侍ジャパンを取材したスポーツ紙記者は、こう振り返る。


「涙が止まりませんでした。このWBCは全選手が主役だったと思います。それぞれの持ち場を全うしたからこそ頂点に立てた。個人的にはダルビッシュが『陰のMVP(最優秀選手)』だと思います。大リーグ組なのに初日から強化合宿に参加し、若手投手とコミュニケーションを取ってWBC使用球の扱い方などを各投手に助言していた。野手陣との食事会にも参加するなど、チームの結束を強める役割を果たしてくれました。ダルビッシュ自身は満足のいく投球ができなかったかもしれませんが、貢献度は計り知れない」


「もちろん大谷もすごかった。160キロの球を投げて看板直撃のホームランを打つ。唯一無二の選手でしょう。パフォーマンスもそうですが、あんなに感情を爆発させた姿を今まで見たことがなかった。新鮮でしたね」


 大会MVPに選ばれた大谷は全7試合にスタメン出場し、打率4割3分5厘、1本塁打、8打点。投手としては3試合に登板し、2勝、防御率1.86の成績を残した。マウンドに上がれば1球ごとに雄叫びをあげ、日本時間21日の準決勝・メキシコ戦では1点差を追う九回に先頭打者で右中間打を放つと、ヘルメットを投げ捨てて二塁へ。塁上で三塁ベンチに向け、両手を何度も上げてナインを鼓舞した。


 米国戦の試合前には声出し役を務め、力強く話した。


「僕から1個だけ。憧れるのをやめましょう。一塁にゴールドシュミット(カージナルス、35)がいて、センターを見たらトラウトがいて、外野にはムーキー・べッツ(ドジャース、30)もいる。野球をやっていれば誰しもが聞いたことあるような選手がいると思うんですけど、今日一日だけはやっぱり憧れてしまったら超えられないので。僕らは今日超えるために、トップになるために来たので。今日一日だけは彼らへの憧れは捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。さあ、いこう!」(侍ジャパン公式ツイッターの動画から)


■指揮官の思いに応える


 野手陣も奮闘した。1次リーグは1番のラーズ・ヌートバー(カージナルス、25)、2番の近藤健介(ソフトバンク、29)の活躍が目立った。


 一方、4番の村上宗隆(ヤクルト、23)から快音が聞かれなかった。1次リーグ全4試合終了時点で打率は1割4分3厘、0本塁打、2打点。ベンチには長距離打者の山川穂高(西武、31)が控えており、村上を外す選択肢もあった。


 だが、栗山英樹監督(61)は5番に下げてスタメンで起用し続けた。村上も指揮官の思いに応える。16日の準々決勝・イタリア戦で2本の二塁打を放った。準決勝・メキシコ戦では1点差を追う九回無死一、二塁で打席に。それまで4打数3三振と全くタイミングが合っていなかったが、中越えの逆転2点適時二塁打でサヨナラ勝ちを決めた。決勝・米国戦でも先取点を奪われた直後の二回に、メリル・ケリー(ダイヤモンドバックス、34)の148キロ直球を右翼2階席に運ぶ特大の同点ソロ。試合を振り出しに戻す価値ある一発だった。


 源田壮亮(西武、30)は右手小指骨折のアクシデントに見舞われた。それでも、スタメンで攻守に貢献した。村上に代わって大会途中から4番に入った吉田正尚(まさたか、レッドソックス、29)はメキシコ戦で値千金の同点3ランを放つなど、大会新記録の13打点をマーク。6番に入った岡本和真(巨人、26)もイタリア戦で3ラン、米国戦で四回に貴重な追加点となるソロを放つなど殊勲打が目立った。


 控えの選手たちもモチベーションが高い。山川は代打出場したメキシコ戦で八回に1点差に迫る左犠飛を放ち、九回に代走で起用された周東佑京(ソフトバンク、27)は村上の中越え打で一塁から一気にサヨナラの生還を果たした。緊張が極限の状態で見事に役割を果たした。


■光った栗山監督の采配


 栗山監督の采配も忘れてはいけない。スポーツ紙デスクは絶賛する。


「村上を最後まで信じて起用し続けたことがフォーカスされますが、一方で正捕手と予想されていた甲斐拓也(ソフトバンク、30)を固定せず、決勝トーナメントの2試合は中村をスタメンに抜擢しています。状態が良いと言えなかった山田哲人(ヤクルト、30)もメキシコ、米国戦で先発起用するなど大胆な采配を見せています。山田の国際試合での強さを買ったのでしょう。メキシコ戦でマルチ安打、米国戦で二つの盗塁を決めるなど輝きを放った。日本の野球は小技と機動力を使った『スモールベースボール』が特徴と言われてきましたが、栗山ジャパンは一線を画し、パワーでも強豪国に負けないという姿勢を見せたのが斬新でした。世界と戦う上で、侍ジャパンの新たなモデルケースを構築したと思います」


(ライター・今川秀悟)


※AERA 2023年4月3日号より抜粋


このニュースに関するつぶやき

  • ダルビッシュという名前を聞くだけで拒否反応を示す日本野球界重鎮が少なくない中で、栗山監督だったからこその献身でもあるだろうなぁ。
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