
ブラック企業とは、極端な長時間労働や過剰なノルマ、残業代・給与等の賃金不払、ハラスメント行為が横行するなど、コンプライアンス意識(法令遵守)が著しく低く、離職率が高い、社員の「使い捨て」が疑われる企業の総称とされている。ブラック企業であるとのレッテルを貼られた企業は事業活動に大きな影響があり、会社存続の危機に直面することもある。
反動で、ブラック企業の反対を意味する「ホワイト企業」という言葉も生まれ、会社が過剰にホワイト気質をアピールすることも増えてきた。毎年ランキングも発表されており、1月にホワイト企業総合研究所が発表した「2024年卒版『一流ホワイト企業ランキング』」では、FaceBook Japan、グーグル、アマゾンウェブサービスジャパンがTOP3にランクインした(※)。
このような潮流の中で、先輩社員は何かと自分達とは就労観が違う若い世代と距離を置くようになり、コミュニケーション不足に陥る事例も増えてきた。上司と部下は一昔前よりも格段と「ゆるい人間関係」になったわけだが、これは若い世代の挑戦や成長の機会を奪っていないだろうか。
昔はどこの職場にも「ブラック気質」があった?
一昔前の日本には、何処もかしこもある程度は「ブラック気質」があったのかもしれない。現状と比較すれば、上司による部下への熱血指導は、若手社員の新たな挑戦を作り、本人の成長を促したプラスの面もないわけではなかった。実際、納得して先輩の指導を受け、成長を遂げることができた人もいるだろう。
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企業の間でも、自社がブラック企業と言われたくない反動で、過剰なほどにホワイトであることを目指す職場が急増している(特に社員によるSNSへの書き込みは長く履歴として残るため、どこの会社も神経質になっている)。「厳しめの指導」ならいいのかもしれないが、「厳しすぎる指導」になればそれは問題で、境界線の引き方が難しい。現代の上司たちは守りに入るあまり、必要な指導も曖昧にしがちになっている。
上司との「ゆるい人間関係」、弊害は?
「ゆるい人間関係」は、特に部下にとっては楽であるだろうが、結果として部下本人にとって損になってはいないだろうか。言動がハラスメントと受け取られることを上司が恐れるあまり、部下を注意したり叱ったりなど熱心に指導をすることもない。相互の疎遠な距離感が生まれ、結果として職場のコミュニケーションも少なくなっている。コロナ禍以後のオンライン会議や在宅勤務などの働き方でそれはさらに加速した。IT化はますます進み、何でも効率的にできるようになったがゆえに、上司に相談しなくてもネットで調べれば情報は得られるようにもなった。ITリテラシーの高い若い世代にとって、効率的に仕事をこなすのは得意分野でもある。ネットが何でも教えてくれるから、とりあえず模範的な答えは分かる。あえて世代の違う上司に聞く手間も省けるというわけだ。
ただ本当に、なんでもネットで調べれば分かるのだろうか。二番煎じの情報であれば、または誰かの利益に誘導されるような情報ならば、確かにネットにはあふれている。一方、独自性や希少性のある情報や知識、経験や実績に基づいた仕事に有用な特ダネ情報は、ネットでは入手が困難なはずだ。
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一定の窮屈さや苦労、不便さを経て、人や社会は成長する
誰しも一定の窮屈さや苦労、不便さを克服する過程で、新たなチャンスをつかむ。今の中高年世代は、世代の違う上司や先輩社員からノウハウや特ダネ情報をいち早く入手するためにいろいろと苦労を重ね、その情報を利用して同世代と競争し、会社への貢献度を高め、自らチャンスをつかんできた世代である。現代の若い世代にも、中高年世代が同様なアプローチを求めてもおかしくないわけだが、一方で社内の人間関係は職場の過剰なホワイト化の中で希薄になる一方であることから、社内での情報やノウハウ共有は停滞しているのではないだろうか。
昨今ネット検索やAIの最新技術で、情報収集をショートカットする手法が整備されている。それらは実に便利なツールではあるが、ひらめきや気づきなどを伴う創作活動は難産であることから、それだけではイノベーションにはつながらないだろう。
山登りと一緒で、ショートカットして楽をして山頂に上って見える景色や感動は、地道に多くの経験や失敗を積み重ねた上で登頂できたときとは味わいが全く違うものだ。登山の途中で仲間や先輩達と多くを語り合い、互いにたくさんの失敗をして、そこからともに克服することも貴重な経験だ。これらのことは忘れ難い経験となるだけでなく、先輩から教わった登山スキルが継承されて、自分のものになるだろう。
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※参考:プレスリリース
(文:小松 俊明(転職のノウハウ・外資転職ガイド))