オリックス・山下舜平大 苦難を乗り越え進む史上初“一軍未登板の開幕投手”への道

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2023年03月29日 06:52  ベースボールキング

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開幕投手がほぼ確実となった山下舜平大[写真=北野正樹]
◆ 猛牛ストーリー【第67回:山下舜平大】

 2023年シーズンはリーグ3連覇、そして2年連続の日本一を目指すオリックス。今年も監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。


 第67回は、3年目の山下舜平大投手(20)です。190センチ・98キロの大型右腕として福岡大大濠高校からドラフト1位で入団し、1年目は二軍で18試合に登板し2勝9敗。飛躍を期待された昨季は新型コロナウイルスの感染や、身体の成長とトレーニングのバランスを考慮して5月初旬以降は戦列を離れました。

 それでも9月に復帰し、CSファイナルステージと日本シリーズのメンバーにも選ばれましたが登板機会はなく、11月には両足を手術。今春のキャンプには間に合い、離脱中に試みたフォーム改造で球速がアップ。制球力もつき、最速158キロで三振を取れる投手に成長を遂げています。

 オープン戦でも実績を残し、開幕投手もほぼ確定。外国人選手や新人を除き、一軍未登板の選手が開幕投手を務めることになれば、2リーグ分立後では史上初。3月31日の西武戦(ベルーナドーム)で、リーグ3連覇に向け秘密兵器がベールを脱ぐことになります。


◆ 安定した投球で開幕ローテ入り

 「僕は(開幕に向けて)アピールするだけ。(開幕投手は)まだ決まってないのかもしれませんよ」

 3月25日の練習後、山下がいたずらっぽく笑った。

 開幕ローテーション入りに向けて4度目の“テスト登板”となった前日の阪神戦(京セラドーム大阪)は、ローテ入り合格の内容だった。

 先発して自己最長タイの6回を90球、被安打は3、無四球・7奪三振で2失点。大山悠輔に2ランを許したものの、課題としたカーブでカウントを稼ぎ、安定した投球を見せた。


 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に、先発組から山本由伸、宮城大弥を派遣。2人とも体の状態は良いが、「体は元気いっぱいでも(指先という)末端の感覚なので、一般論ですが、そこは慎重にやった方がいいのではと思います」と厚澤和幸投手コーチがいうように、首脳陣も無理はさせない方針のようだ。

 そこで開幕候補に挙げられたのが山下だった。オープン戦に登板した4試合で、15回1/3を投げて被安打8、奪三振23で四球1、防御率は2.35。角度のある158キロのストレートとフォークボール、カーブで打者56人から23個の三振を奪い、開幕ローテを手中に収めた。


◆ レジェンドから伝授されたフォークも大きな武器に

 高卒で入団し、プロ3年目で開幕投手を務めることがほぼ確実だが、ここまでのプロ生活は順風満帆ではなかった。

 1年目は3月の教育リーグから先発登板し、前年に二軍で6勝(2敗)を挙げたドラフト1位の宮城を目標としたが、2勝(9敗)にとどまった。


 「大きく育てる」という監督の指導で、高校時代は直球とカーブしか投げなかったが、6月中旬からは封印していたフォークも解禁。2年目の飛躍に向けて準備をしてきたが、春季キャンプ直前のコロナ感染で出遅れた。

 5月以降は身長が伸び続け、身体の成長とトレーニングのバランスを考えて、別メニューで調整を余儀なくされる。しかし、離脱中のブルペンを見た球団関係者が「エグい球を投げる」と驚くほどの投球を見せ、9月の復帰後はCSや日本シリーズの出場メンバーにも選ばれた。


 ところが、登板機会はなく一軍では未登板に終わり、今度は秋季キャンプ後に両足鏡視下三角骨摘出手術を受けることに。

 それでも、今年2月のキャンプには最初から参加。初の立ち投げで154キロをマークするなど、順調な回復ぶりに中嶋聡監督が「マサタカ(吉田正尚)もやった手術で、脚は大事。元々の(投げ込みまでの)計画より早いので、急がさず計画通りにやらないといけないと思う」とブレーキをかけるほどだった。


 キャンプ中に野茂英雄さんからもらったアドバイスで、フォークも大きな武器になった。

 「どう投げるかという、感覚的なものです。分かりやすく、落ち方が違います」

 オープン戦では球数を制限して登板し、段階を踏んで着々と実績を積んだ。


◆ 「一軍初登板が開幕戦」となるか…

 思い通りにならなかった2年間だが、焦りはなかった。

 エースナンバーをつけた高校時代も「投手がいっぱいいて、僕は3番手くらい。投げる球はそんなに目立っていなかったし、コントロールはメチャメチャ悪かった。本当に大したピッチャーではなく、もがきました」。


 投げることの出来なかった昨年の4カ月間も、ウエートトレーニングなどで身体を鍛え、約4キロも身体が大きくなった。

 「身体のことも勉強出来ましたし、遠回りしたとは思いませんでした」と山下。この期間に試みた「ショートアーム」という新しいフォームが、さらに球威を増すことにもつながったという。

 テイクバック時に腕を大きく伸ばさず、曲げたまま投球するフォーム。

 「(YouTubeの)映像などを見ていたら、ダルビッシュ(有)さんと大谷(翔平)さんや、他のメジャーリーガーにも多かったので試したら、思ったところに投げることが出来るようになり、(投球の)まとまりがよくなりました。球速がアップして回転数も上がりファウルも取れて、肩や身体への負担もないので、いいことしかありません」という。

 オープン戦4試合で、四球は1つ。剛速球を投げても制球が良く、試合を作ったことでローテーション入りは当然だった。


 コロナ禍もあり、全国大会とは縁がなかった。

 「あまり大舞台を経験したことはありませんが、知らないから先入観もないし、逆にいいんじゃないですか」

 「1年目は(マウンドで)オドオドして見えたんじゃないですか。緊張しても意味がないなと思って、2年目から開き直った部分がありますね。緊張しても結果が出ないというか、(それで)いい思いをしたことがないので。開き直った方が早いなと」

 一軍未登板の選手が開幕投手を務めれば、新人や外国人選手を除き2リーグ分立後、史上初。もう「未完の大器」とは呼ばせない。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)




【動画】最速158キロの圧巻投球!山下舜平大『6回3安打2失点 7奪三振』/パーソル パ・リーグTV

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