
食後すぐの歯磨きは逆効果? 虫歯にならない歯磨きのタイミング
少し前まで、歯磨きの基本は「1日3回、食後3分間以内に、3分間のブラッシング」と言われていました。これは食事で汚れた歯をすぐに綺麗にすれば虫歯になりにくいと考えられていたためで、誰にでもわかりやすい大変良い指導方法だとは思います。しかし実はこれには少し矛盾もあるのです。
食事による糖質を栄養にして、プラークが酸を出して活動が活発になり、歯が溶かされ始めるのは、「食後3分から」ではなく、「食事を開始して3分後から」というのが正解です。
さらに食後3分後ではすでにプラークの活動が活発で、歯のエナメル質が溶かされ始めており、さらには酸性食品の摂取などによって歯そのものも溶かされている状態なので、この時間帯に歯ブラシでさらに歯を擦ってしまうと磨耗を促進してダメージを与えるのではないか?と最近では考えられています。
そのため、これらを踏まえた上で歯磨きにベストなタイミングを考えるのは単純ではありません。
|
|
結果として、食後30分から4時間ほど経った後がベストと考えると、現実的に歯磨きがしにくくなるという問題も起こります。どこで折り合いをつけるのがよさそうかは、次の項目も見ながら最後にご紹介しましょう。
虫歯予防に有効な歯磨き回数は「1日1回」で十分?
以前は、1日3回の食事に合わせて、1日3回歯磨きをすることが推奨されていました。しかし最近では、上記のようにプラークが酸によって実際に歯を溶かす時間が注目されています。実はプラークの酸を使ったとしても、歯に穴を開けるまでには、概ね24時間ほどかかるのです。もちろん唾液による中和と再生の繰り返しも同時に行われています。そのため、24時間以内にきちんとした歯磨きができれば、その日の虫歯予防に必要なことはできたと考えられます。
そして、特に虫歯が進行するのは、唾液の分泌が減少する就寝中です。就寝中はエナメル質の中和と再生が行われにくいため、酸による脱灰(だっかい)が増加しやすくなります。
|
|
それでは2回ではいけないのか? 3回では磨きすぎなのか?といった疑問について、最後にお答えします。
「効果的な歯磨き方法」には諸説あり……自分に合った歯磨き習慣を
現在わかっている最新の考え方を軸に、ベストな歯磨きのタイミングと回数について解説してきましたが、実はこれら新旧の歯磨きのルールというのは、努力の目安であって、プラークが綺麗に落ちたかどうかの、結果が保証されているわけではありません。例えば学校でのテスト前に「寝る前と朝に○時間勉強した方がいい」といった統計があったとしても、実際の結果は、もっと短時間の勉強で100点を取る人もいれば、アドバイス以上の努力をしたのに、60点しか取れなかったという人が現れるのと同じです。
歯磨き回数については、1日1回でも問題はないが、この場合この1回に100点満点の歯磨きが必要ということになります。つまり完全にプラークを除去しなければ、次は24時間後のブラッシングになってしまうため、毎日が真剣勝負です。
|
|
歯磨きを開始する時間については、唾液による再石灰化にかかる時間を理解した上で、食後すぐに力を入れてゴシゴシ磨くことをさければいいだけです。食後3分に磨くことが「厳禁」ではありません。
現実問題として、昼食後3〜4時間後に歯磨きを行うことなど不可能に近いことですし、学校などの決められた時間内で食後すぐに歯磨きをしなければならないような場所も多いと思います。現実には歯が削れて抜歯することになるよりも、虫歯や歯の形はそのままに歯周病で抜歯になってしまうケースがほとんどです。
あまり再石灰化の時間を気にしすぎると、プラークが増加→歯の再石灰化に時間がかかるため、歯磨きができない→さらにプラークが増加するといった本末転倒なことが起こってしまいます。
歯を磨くことが歯にダメージを与えるかもしれないことを過剰に心配するよりも、歯をちゃんと磨くことでしか歯を守ることができないと考え、自分のやりやすい方法に合わせて歯磨き習慣を持っておくことが大切なのです。
丸山 和弘プロフィール
1995年より臨床一筋の現役歯科医師。歯科大学卒業後、仙台市東邦歯科診療所を経て地域密着型の歯科医師に。小さな子どもの虫歯予防から歯のホワイトニング、お年寄りの入れ歯の相談まで、数多くの症例と日々向き合いながら、虫歯、親知らず、口内炎、歯周病など、歯の健康を守るための情報を数多く発信している。(文:丸山 和弘(歯科医))