「ヘルメット着用の努力義務化が閣議決定されたのは、昨年12月。そのとき報道されたのを境に注目が一気に集まり、受注数は増えています」
ヘルメットのシェアNo.1オージーケーカブトを直撃
と、状況を教えてくれたのは、自転車用ヘルメット市場でシェア1位のメーカーである株式会社 オージーケーカブト広報チームの小川裕輔氏。
いち早く購入したのはどんな人?
「年代でいうと、年配の方が比較的多い印象です。努力義務なのでまだいいか、と考える人もいる中、『やはりヘルメットは着けたほうがいい』と判断した安全性に意識の高い方が購入されたのではないでしょうか」(小川氏、以下同)
帽子に見えるタイプが人気
しかし、自転車に乗る際に街でヘルメットを着用する人はまだ少ない印象。その理由としては、人目が気になるということも。
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「ヘルメットというと、ほとんどの方が自転車競技などで使用される流線形のタイプや、従来の重いタイプを思い浮かべるでしょう。しかし今はそれらの概念を覆す、日常で違和感なく使えるヘルメットを発売しており、それらがよく売れています」
売れ筋だという新しいタイプのヘルメットとは?
「例えば、帽子の内部にヘルメットが組み込まれたタイプ。これは周囲から見れば、帽子をかぶっているような印象です。普段のファッションに合わせやすい黒や白、ベージュなどの色が、特に人気です」
このタイプのヘルメットは、Amazonで一時的に品切れとなったことも。
「典型的なヘルメットしか知らなかった人が、『これならかぶってもいいかな』と思ってくださった結果ではないでしょうか。
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弊社ではヘルメットに布製のバイザーがついたタイプも販売していますが、そちらもカラーバリエーションが豊富なこともあり、売れ行きは好調。6000〜8000円程度と比較的手頃な価格であることも、人気の理由だと思います」
普段使いしやすいタイプのヘルメットを本格的に発売したのは4年前から。もちろんそれ以前からオージーケーカブトはヘルメット一筋だった。
「弊社の創立は1982年。当初は自転車用グリップなどを販売する会社でしたが徐々にヘルメットの製造に特化。人の命を守るための製品ですから、安全性能を確保するための厳しい試験を繰り返し行い、そのデータを製品作りに活かしています」
各種試験はヘルメットの安全規格である「SGマーク」などを取得する際にも必須。
「安全規格を満たしたヘルメットには『SGマーク』のシールが貼られています。このマークは、事故時に衝撃を吸収できるか、ヘルメットが脱げないか、上下左右の視野を確保できるかなど、さまざまな試験を行っている証しで、安心して購入できます」
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ただし、正しく着用しなければ、せっかくの安全性も活かされない。
「弊社では、自治体のイベントなどに出向いて、ヘルメットの必要性や選び方、装着方法についてお話しする啓発活動も行っています。
特に気をつけていただきたいのはサイズ。合わない場合、本来の安全性が発揮されなくなりますから、できるだけ試着して選んでいただきたいですね」
ヘルメット着用が生死の境目に
そもそもヘルメット着用の機運はなぜ高まったのか?
「交通事故の発生件数自体は年々減少しています。ところが、すべての交通事故の中で自転車事故が占める割合は年々増え続けていて、その社会問題が今回の法改正につながったと考えられます」
ヘルメット着用の必要性を示すデータもある。
「警察庁のデータで、自転車事故時にヘルメットを着用していた人に比べて、未着用の人は致死率が約2.2倍、高くなることが示されました。
また、死亡者の損傷部位を調べたデータでは、約6割が頭部の損傷で亡くなっていることも判明。ヘルメットを着用すれば絶対に大丈夫というわけではありませんが、頭部を守ることで致死率を下げ、事故後も社会復帰できる可能性を高めることができます」
実際にヘルメットに命を救われた顧客からお礼のメールが届くこともあるそう。
「お子さんが信号のない横断歩道を自転車で通過中、速度オーバーで突っ込んできた車と接触。10m近くはね飛ばされたそうです。
しかし、ヘルメットを着用していたおかげで、全身打撲の大ケガを負ったものの、命に別条はなかったとのこと。ヘルメットには多数のひび割れが入っていたそうで、いかに衝撃が大きかったかがよくわかります」
もしヘルメットを着用していなかったら……。想像するだけでゾッとする。このようなケースを耳にすると、ヘルメットは必須に思えるが、実際の着用には課題もあるそう。
「お客様からは『降車後のヘルメットの取り扱いが面倒』という声をいただいています。盗難の可能性を考えると自転車に置いてはおけない。かといって持ち歩くにはかさばって重い。
これらの課題をクリアしないと、幅広い人にヘルメットを着用していただくのは難しいのでは、と個人的には考えています」
環境が整わないと着用率は上がりにくい。考えられる解決策は?
「スポーツサイクル利用者など現状ですでにヘルメットを着用している人は、ヘルメット収納場所があるリュックサックを活用したり、リュックサックの外側にひっかけたりして持ち歩かれています」
折りたためるヘルメットがあれば、持ち歩きやすそうだが……。
「そういう声もいただいていますが、残念ながら現状では難しいですね。折りたたみの機構を組み込むと、国内の安全基準には適応しないので、頭部を守るという本来の目的が果たせなくなります。
弊社のようなメーカーが技術開発を進めるとともに、駐輪場でヘルメットを預かってくれるサービスなどがあると、ヘルメット着用が定着しやすくなるのではないか、と思います」
とはいえ、売り上げが増えていることからもわかるように、ヘルメット着用は徐々に広がっている。
「おそらく努力義務を呼びかける側の警察や自治体などの人は、4月からヘルメットを積極的に着用すると思います。
結果、ヘルメットで自転車に乗る人を見かける機会が増えますから、『自分も着けようか』と考える人がジワジワ増えていくのではないでしょうか」
一生のうちで自転車事故に遭わない人のほうが多いかもしれない。だが、だからといって今後も安全とは限らない。
「ヘルメットを着用しても、ほとんどの人は実際に役に立つ場面に遭遇することはないでしょう。でも万が一のときには、何より大事な命を守ってくれますから、ぜひ着用を検討していただきたいと思います」
取材・文/中西美紀