テレコムサービス協会MVNO委員会が開催した「モバイルフォーラム2023」でパネルディスカッションを実施。「『競争と協調』『5G再興』新時代に求められるMVNOの役割とは?」と題して、「競争と協調」「日本の5G再興」「MVNO新時代」という3つのテーマでディスカッションした。
ディスカッションでは過去の流れと現在の状況、そこから見える未来への課題という視点で、中長期的なMVNOのあるべき姿を探った。
今回は「日本の5G再興」「MVNO新時代」という2テーマのディスカッションについてお伝えする。
●日本で5Gのメリットが薄いのは「4Gを頑張りすぎた」から?
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2020年に大手3社が日本国内で5Gを商用化してから3年がたった。しかし、5Gのメリットを十分実感できる機会が少ないと堀越氏は指摘する。「外資系ベンダーさんから、『4Gのときはあれだけ進んでいた日本が、5Gでは近隣諸国に比べても、なぜこんなに出遅れたのか』と言われる」という。5G SAが本格化した後に、日本の5Gが再興し世界で存在感を示すためにどうしたらいいのかを話し合った。
5Gのメリットが得られていないという堀越氏の認識に、石野氏も「全面的に同意見」。先日のMWC Barcelona 2023での体験として、バルセロナでスピードテストをしたところ、4Gだと10〜20数Mbps、5Gだと3桁Mbpsになり、「このくらいの速度差があると、5GではスマートフォンでWebの表示がワンテンポ速かったりアプリの読み込みがすごくスムーズだったりして、メリットを体感しやすい」と紹介した。一方、日本は4Gのエリアが広く、キャリアアグリゲーションのおかげで4Gでも最高速度が1Gbpsを大きく超えている。
「こういうところが5Gで日本が出遅れた理由でもあり、『日本でそこまで5Gが必要なのか』と言われちゃった理由でもあるのかなと思います。また、5Gに割り当てられた周波数が衛星と干渉するのでエリアを広げにくいというテクニカルな側面もあって、若干出遅れ感がある印象は強く持っています」(石野氏)
堀越氏も「日本は4Gを頑張りすぎてしまった。4Gで何ら不便のない世界ができ上がっていたので、逆に5Gとの差を出すのが難しくなっている側面がある」と、石野氏の意見に同意した。
石川氏は、「LTEの父」と呼ばれ、2023年から国際電気通信連合(ITU)電気通信標準化局長に就任した尾上誠蔵氏の「(モバイル通信は)偶数世代のみ大成功の法則」を挙げ、現状は厳しいが、6Gで花開くと予想した。また、MWCでは5Gのユースケースやマネタイズ事例の展示が多かったことを話し、「世界で5Gのエリアは広がっていますが、5Gを生かしてマネタイズすることは世界中で悩んでいる。日本だけの問題ではない」とした。
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堀越氏は「偶数世代のみ大成功の法則は、6Gで外れるのではないかと思っている」という。2Gはメッセージ、4Gはスマートフォンと分かりやすい成功事例があったが、6Gは「単純なユースケースにならない」という考えだ。
北氏は「私も含めて5Gに対する期待値を上げすぎた」と振り返った。「日本は4G LTEが素晴らし過ぎ」、課題解決のソリューションで5Gを勧めても4Gで事足りるケースが多いという。5Gのインフラ整備と端末の普及、ユースケースの開拓が鶏と卵の関係のように三すくみ状態になっていると指摘する。
「基地局ベンダーさんはインフラ整備、端末メーカーさんは端末の普及が必要だと言う。ではキャリアさんはどうかというと、日本の場合、官邸圧力による通信料金の値下げタイミングと一致してしまった。また、5Gのデモンステーションの最大の場であった東京オリンピックが延期されて出ばなをくじかれてしまった。ちょっとタイミングが悪かった部分もあります」(北氏)
そうした中、通信速度ランキングで日本の順位が下位になるケースがあることを挙げ、日本のグローバルでのポジションが下がったという話につながることを懸念。5Gが使えるエリアを確保して三すくみ状態を打破するために、国の支援が必要と提言した。そして、5G時代は「世界の最先端グループから日本が落ちずに踏ん張って頑張っていく10年」になると予想。しかし、北氏は偶数世代のみ大成功の法則に賛同しており、Beyond 5G、6Gで花開くと期待する。また、そのときのデバイスはウェアラブルや眼鏡型端末になると語っていた。
●日本はO-RANで存在感を出せるか
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5Gも含め、情報通信産業で日本は世界では存在感を示せないでいる。しかし今回のMWCでは、複数のベンダーの機器を組み合わせる「O-RAN」の動きで日本勢は目立っていた印象もあった。O-RANで日本は盛り返せるかと問われた石川氏は「うまくいけば潮目は変わってくる」と期待する。
「過去に、日本の基地局設備は高品質だが高額なため売れず、世界進出に失敗したという経験があります。今回もその恐れがないかと質問したら、日本メーカーの基地局設備は省電力性の高さが注目され、選ばれつつあるということでした。富士通、NECあたりに頑張ってもらいたいと思うし、それによって世界での競争力上がってくるといい」(石川氏)
MWC会期中には、ドコモがO-RANのノウハウを世界に向けて販売するためのブランド「OREX」を発表。また、楽天シンフォニーがイベントを開催し、O-RANに対応した機器で構築された楽天モバイルの仮想化ネットワークをアピールした。石野氏は「海外進出のビジネスモデルの1つになる」ことを期待する。
「ドコモはもともとマルチベンダー体制で、(OREXは)そのノウハウがない海外キャリアに『ドコモが面倒を見ますよ』というビジネスモデル。楽天もゼロベースで完全仮想化ネットワークをO-RANで組んで、そのネットワーク運用のノウハウやソフトウェア、プラットフォームを海外に売っていく。どちらも合理的だと思いました」(石野氏)
石野氏は「楽天モバイルよりも楽天シンフォニーに可能性を感じる」との見解。実際、楽天の三木谷氏は楽天シンフォニーをAmazonにおけるAWSのような関係にしたいと考えているようだ。石川氏は「楽天シンフォニーが頑張らないと楽天モバイルが大変になる」と語っており、楽天シンフォニーが得ている受注残高約4500億円を早期に計上することが重要との認識だ。
一方、5GによってMVNOにチャンスは生まれているのか。島上氏は「5G NSAでは何かが劇的に変わることはないでしょう」と語っている。ただ、インフラの重要性は認識しており、「MNOのみなさんには5Gエリアを広げて、他国に負けないようなインフラを作っていただきたい」と要望した。
「5G SAの導入をどんどん進めるべき。そのときにイコールフッティングでMVNOに5G SAを使わせていただきたい。いろいろなプレーヤーがいれば、いろいろなことを考える人たちが出てくる。その中で産業、文化が発展していくと思います」(島上氏)
●間もなく「MVNOの新時代」に突入 事業領域を拡大できるか
ディスカッションの最後のテーマは「MVNOの新時代」。日本のMVNOの歴史は、2001年に日本通信がPHS回線を使ったサービスを提供したのが始まりとされる。ドコモの携帯電話回線を使ったMVNOが誕生したのが2008年頃。卸ではなく接続という形でサービスを提供することになり、回線の値段が下がったとされる。
しかし、SIMフリー端末の入手が難しかったこと、まだ接続料が高かったことでブームは終了。現在まで続くブームは「格安スマホ」が生まれた2014年頃から起こる。参入する企業が続々登場し、MNOの対抗軸として1つの陣営が立ち上がった。IoT向けのMVNOサービスも成長の兆しがある。ただ、楽天の参入やMNOの料金値下げなどに伴って競争が激化し、一般消費者向けのMVNOサービスが曲がり角に来ている。
島上氏はMVNOの現状を「第3次ブームを巻き起こした施策が着々と行われ、MVNOがそのポジションを築いてきている」と見る。確かに楽天がMNO事業に参入した2020年から2021年でMVNOの市場は落ち込んだが、その後は回復し、今後も増えていく予想になっている。
「スマホは社会のインフラになりつつあり、まだスマホを使っていないユーザーさんと接点を持ってMVNOが活躍する可能性はまだまだあると思っています。一方でIoT向けが成長しており、その分野に参入するMVNO、あるいは手助けするMVNEが今後出てくるだろうと思っています。MVNOはどうしても一般向けの格安スマホ・格安SIMとしてフォーカスされがちですが、他のところでやれること、やらなくてはいけないことがあると思っています」(島上氏)
石川氏は「MVNO業界が格安スマホという名称に縛られてしまった」と指摘。エックスモバイルが発表した「HORIE MOBILE」が「通信業界のLCC(格安航空会社)」とうたっていることに注目し、「業界の見方が変わるかもしれないと」と期待する。
「ただ、ANA Phoneやディズニー・モバイル・オン・ソフトバンク、Disney Mobile on docomoなど過去にファンを対象にしたMVNOはことごとく失敗している。成功を期待したい」(石川氏)
海外のMVNOについて問われた石野氏は「海外も画期的なビジネスモデルが出ているわけではない」と明かす。伸びているMVNOは、フルMVNOでIoT向けサービスを展開している企業。例えば、地域ごとにプロファイルを切り替えるサービスを組み入れていたり、eSIMのプロビジョニングなどエンタープライズ向けのソリューションを提供していたりする企業が目立つという。
日本のMVNOについては「これから電話番号の割り当てが可能になるので、音声通話まで含めたフルMVNOに踏み込んでいくと、まだ事業領域を拡大できるチャンスがある」(石野氏)とする。また、ソフトバンクとドコモが3G停波を控えており、もっと積極的にコンシューマー向け回線の獲得に動くべきと提言した。
北氏は「コンシューマー向けは厳しい。特に料金競争だけでは勝てない」と述べ、可能性があるのは法人向けソリューション領域という考え。ただ、コンシューマー向けについて「メタバースやWeb3など、次に出てくる領域に果敢にチャレンジするMVNOが生まれてくれば、その中から何社か大きくなるところも出てくる可能性があると思う」と語った。
島上氏は電話番号の割り当てや5Gの機能開放などで生まれるMVNOの新しいサービスについて「難しい話」と述べつつも、「今までやっていたことと違うことをやらなければ意味がない。誰かが取り組むことでまた新しい世界が生まれる」と前向きだ。
石川氏はMVNOにしかできないサービスとして「1SIM、ワンナンバー、2ネットワークのサービス」を求めた。
「1枚のSIMカードで、障害ネットワークの強さによってどちらかにつながる。そういうサービスをMVNOが提供できるようになれば非常に面白い。MNOにはできないことで、法人にも一般ユーザーにも価値がある。こういったサービスなら安くなくても構わない。格安とは言わせないサービスを作ってほしい」(石川氏)
●MVNOに期待する役割
最後に、各パネリストが今後のMVNOの役割として期待することを述べた。
北氏は「法人向けは相当チャンスがある。5G SAになったときこそ法人向けサービスの意味が出てくる」と語った。
石川氏は、「去年(2022年)は楽天の0円廃止とKDDIの通信障害という2度の神風が吹いた。また神風が吹いて450万契約くらいの市場が動く可能性がある」と大胆発言。そのタイミングを逃さないように、継続的に魅力的な技術開発を続けることが重要だと述べた。
石野氏は「神風が吹いたことによってMVNOの根本的な存在意義、潜在能力に再度注目が集まった」と受け、「電話番号割り当てが始まったり、5G SAがMVNOスライシングのように1枚借りられるようになったりすると面白い。新技術でMVNOがいろいろなサービスを提供できるようになる可能性が見えてきた」と期待を寄せた。
3氏の発言を受け、島上氏は「MVNOの役割はモバイル市場に多様性をもたらして競争を活性化し、国民のみなさんに役立つ存在になることだと思っている。今後もその役割は変わらず、技術やアイデア、売り方を磨いて、MNOだけではできない世界を作っていくのが使命」と意気込みを力強く語った。
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