
今季Jリーグ序盤戦で目を引いた選手。筆者の評価を高めた選手。その一番手は、柏レイソルの細谷真大だ。
所属チームの柏は、5試合を消化して勝ち点はわずか2。18チーム中、17位に沈んでいる(3月29日現在。以下同)。いい選手も悪く見えがちな悪条件下で、細谷はCFとして孤軍奮闘。光るプレーを見せている。0−3で敗れた第4節(3月12日)の名古屋グランパス戦でも、ゴール前の鋭い動きで見せ場はしっかり作っていた。
続く第5節(3月19日)のサンフレッチェ広島戦では、新外国人選手のFWフロートが3−4−2−1の1トップに入ったため、1列低い2シャドーの一角として出場。(日本代表のシステム)4−2−3−1に置き換えれば、1トップ下もできそうなアタッカーとして幅のあるプレーを見せた。
A代表がウルグアイ、コロンビアと戦うなか、パリ五輪を目指すU−22日本代表の細谷は同チームの一員として欧州に遠征。U−22ドイツ、U−22ベルギーと戦って、ドイツ戦ではゴールも決めた。
ウルグアイ戦に1トップとして先発したA代表選手、浅野拓磨との比較で言えば、縦へのスピードでは若干劣るものの、瞬間的なダッシュ力では負けていない。DFラインに割って入るようなキレ味鋭い動きが光る。ボールを収める力、ポストもできそうなゴールを背にした動きでは、浅野より大きく勝る。
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A代表歴は1試合のみ。しかも、国内組主体で臨んだ昨年の東アジアE-1選手権(vs中国)である。もうワンランク評価を上げてもいい選手だと見る。いつまで柏でプレーするのかも気になるところだ。
2人目は川崎フロンターレの左SB、佐々木旭。
過去6シーズンで4度優勝している川崎も、今季は現在14位に低迷する。優勝争いは「難しい」とは筆者の見立てだが、チーム状態とは裏腹に、佐々木には上昇が見込めそうな好ムードを感じる。昨季加入した大卒2年目の選手だ。
川崎の左SBと言えば、一昨季まで登里享平のポジションだった。2020年にはベストイレブンにも輝き、代表入りも狙えそうなムードにあった。しかし昨季早々、故障に見舞われる。加入したばかりの佐々木にタイミングよくチャンスが巡ってきた。登里が年間10試合に先発したのに対し、佐々木は18試合。今季の争いはどうなるか。
登里が左利きなのに対し、佐々木は右だ。川崎は右SBの山根視来が今季から、マイボールに転じると中盤にポジションをとり、守備的MF然とプレーする。だが、左SBにその役割は求められていない。3バックか4バックかの調整を山根ひとりが担っている。
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左SBに求められているのは、大外を縦に走る従来の動きだ。縦に強そうに見えるのは左利きの登里だ。右利きの佐々木より優位そうに見える。だが、佐々木も負けていない。うしろ足となる右足で、懐深く縦に押し出すようにボールを運ぶ。奪われにくいドリブルをする。
今のところ、左SBに求められていないMF的な素養もある。この点では登里を上回る。山根同様、多機能性を秘めた今日的なSBと言える。
森保ジャパンもウルグアイ戦では、左SBの伊藤洋輝、右SBの菅原由勢に兼守備的MF的プレーを求めていた。左の伊藤と佐々木を比較するならば、ボールを縦に運ぶ力は佐々木のほうが上だ。中盤的な動きではどうなのか。川崎でこれから見てみたいプレーになる。
3人目と4人目は鹿島アントラーズのふたりだ。アンカー役を務める佐野海舟と左右のウイングをこなす藤井智也だ。
アンカーと言えば、最終ライン付近で、気持ち低重心に構えるものと相場が決まっている。昨年まで在籍していた三竿健斗がそんな感じの選手だった。守備的MFのみならず、センターバックとしてもプレーした。一方、佐野はあらゆる方向に反応よく飛び出す。カバーエリアの広い、新しいタイプのアンカーに見える。
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アンカーのいる4バックと言えば、布陣は4−3−3だ。事実上の4−2−3−1で戦ったこともあるが、鹿島が伝統的に採用してきた布陣は中盤ボックス型の4−4−2で、4−3−3に見えるサッカーで戦ったのは、昨季の終盤1、2試合に限られた。
シーズンの頭から4−3−3で戦うのは、長いクラブ史において初めてではないか。とすれば、アンカーはクラブ史上初めて正式に誕生したポジションになる。
その栄えある初代アンカーに抜擢された佐野。今季、FC町田ゼルビアからやってきた22歳だ。サイドの高い位置に飛び出し、ゴール前に折り返すプレーも当たり前のようにこなす。遠藤航でも、守田英正でも、田中碧でもないタイプ。近い将来、日本代表に選ばれてもおかしくない、旬な勢いを感じさせる若手だ。
鹿島には布陣的な構造上、伝統的にアンカーに加えて、ウイングらしいウイングも存在しなかった。今季、サンフレッチェ広島からやってきた藤井は、鹿島が4−3−3を採用するために獲得した選手だと推察できる。"ハマり役"とはこのことを指す。
藤井にとっても、ウイングというポジションが存在しなかった広島でプレーするより、もっと高い位置で攻撃に専念できる鹿島のほうが楽しいはずだ。実際、その喜びが現在のプレーぶりから見て取れる。
右利きの右ウイングと言えば、藤井とポジションを争うU−22代表の松村優太、そして日本代表の伊東純也を想起するが、絶対数は少ない。右利きの選手にとって、右サイドを縦に抜くプレーは難易度が高いからだ。
一番に求められる不可欠な要素がスピードであることは、伊東を見ればよくわかる。もちろん、藤井の武器もスピードだ。
右ウイングというポジションに就いて間もないだけに、伸びしろはあると見るが、その一方で、藤井は左ウイングもこなす。第3節(3月4日)の横浜FC戦では、後半から左に回り、縦へ進んでもよし、内へ切れ込んでもよし、という多角的なプレーを披露した。まだ底が割れていない魅力を秘めた24歳である。
最後の5人目は横浜F・マリノスの渡辺皓太だ。
昨季MVPの岩田智輝が抜けた穴を埋める一番手は、当初21歳の藤田譲瑠チマかと思われた。だが蓋を開ければ、24歳の渡辺が中盤で5試合フルタイム出場を続けている。先発が全試合のおよそ半分だった昨季と比較すれば、チーム内のポジションが大きく上昇したことが明白になる。
中盤を所狭しと駆け回る活動量命のMFだが、これまではミスも少なくなかった。安定感に若干乏しかったが、今季はこれまでよりずいぶん安定して見える。彼もまた、現日本代表には存在しないタイプのMFだ。何より外国人選手が嫌がりそうな165cmの小兵である。どこまで通用するか、国際試合で見てみたい選手である。