脳梗塞の後遺症で認知症に 医師「症状のない無症候性脳梗塞でも認知症リスク高まる」

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2023年03月30日 16:30  AERA dot.

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※写真はイメージです(写真/Getty Images)
脳梗塞の治療法は大きく進歩しているが、残念ながら「治療すれば終わり」という病気ではない。後遺症に対する早期リハビリの大切さと、生活習慣病の治療などによる再発予防の重要性について、専門医に聞いた。


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 脳梗塞を起こすと、血管が詰まって血流が途絶えるため脳の神経細胞が壊死してしまう。短時間で血流が再開すれば回復が見込めることもあるが、発症から長時間経過し、完全に壊死した細胞を再生させることは現代の医学では不可能だ。そのため、脳梗塞では後遺症が残ることも多い。


 症状は発症した脳の領域により異なるが、多くみられる後遺症として、意識障害や手足のまひ、言語障害(言葉が出ない、理解できないなど)、嚥下(のみ込み)の障害、認知機能(記憶、理解、空間認識など)の障害などが挙げられる。「認知症を合併することも多い」と、横浜新都市脳神経外科病院院長の森本将史医師は話す。


「認知症で最も多いのはアルツハイマー型認知症ですが、次に多いのが脳卒中の後遺症などによる脳血管性認知症です。症状のない無症候性脳梗塞でも、認知症のリスクが高まるといわれています」


 後遺症が残るか、残らないか、また残る場合の程度の差は、脳梗塞の重症度や患者の年齢、持病の有無などによる。国立循環器病研究センター病院副院長の豊田一則医師はこう話す。


「重症度が最大の要因で、加えて年齢が高いほど、そして糖尿病などの生活習慣病がある人ほど重い後遺症が残りやすい傾向があります」


 さらに、血栓溶解療法や血栓回収療法などの治療を受けた場合も、「より早期に治療できたほうが経過は良い」という。


「発症から治療開始までの時間が短いほど治療効果が得られやすいという研究報告は多くあります。どれだけ早く治療できるかがその後の経過に関わる大きな要因といえるでしょう」(豊田医師)


■リハビリ病院との連携も重要


 壊死した神経細胞の再生は不可能でも、失われたからだの機能はリハビリにより回復が可能なこともある。治療と同様、リハビリも早期に開始することが望ましい。



「できれば入院初日から開始できるのが理想です。患者さんの状態により無理は禁物ですが、寝た姿勢のまま腕や脚を曲げ伸ばしする訓練は初日からできることもありますし、早くリハビリを始めたほうが治療効果は高いでしょう」(同)


 急性期の治療をおこなう病院は、原則として約2週間で退院となる。その後も継続的なリハビリが必要な場合、回復期リハビリ病院などに転院する。


「病院にはそれぞれ役割があり、急性期病院は発症直後の脳卒中治療に専念することが使命です。急性期を過ぎ症状が安定したら、リハビリのためのシステムとスタッフが充実している病院に移ることが、効率よくリハビリを進める上でも有効と考えます」(同)


 脳梗塞の治療を多くおこなっている病院であれば「リハビリ病院とも連携できているはず」と森本医師は言う。


「もし患者さんやご家族がリハビリ病院を探さなければならない場合でも、病院にいるソーシャルワーカーが患者さんの病状や生活背景、居住地などを考慮し転院先を提案するなど、相談にのってくれるでしょう」


 大学病院や地域の中核病院など、積極的に脳卒中の治療をおこなう病院には「脳卒中相談窓口」が設置されていることが多い。日本脳卒中学会が認定する一次脳卒中センター(PSC)コア施設には、この窓口の設置が義務化されており、患者や家族の相談に応じている。学会のホームページにPSCコア施設一覧が掲載されているため、参考にしてほしい。


■まずは予防を心がけたい


 脳梗塞は、再発リスクが高い病気だ。生活習慣との関わりが深いため、「原因となる病気や生活習慣が改善されない限り高い確率で再発する」と両医師は口をそろえる。


「最初の1週間がとくに再発リスクの高い時期で、最も起こりやすいのは発症した日です。脳梗塞を起こしたら軽症でも入院が勧められますが、それは再発の多い時期を病院でしっかり管理するためです」(豊田医師)


「昔は10年間で5割が再発するといわれていました。現在は再発予防のための治療薬が進歩しているので少し減っていますが、それでも再発は起こり得ます。そのため、医師は治療と同時に再発リスクも評価し、リスクが高い患者さんには、血液を固まりにくくする薬を処方する、生活習慣病の治療をするなど再発予防への取り組みを積極的におこないます」(森本医師)



 患者自身ができる再発予防策として、生活習慣病の治療をきちんと続けること、定期的に受診して検査を受けることを挙げる。さらに、栄養バランスの良い食事、禁煙、適度な運動など生活習慣の改善は、再発予防だけでなく、脳梗塞を起こしていない人には脳梗塞を予防する手立てにもなる。


「脳梗塞は生活習慣病です。まれに遺伝的な要因が関わっていることもありますが、多くは生活習慣に気をつけることで予防できる病気といえます」(同)


 加齢とともに増える脳梗塞だが、近年では若年化の傾向もみられ、40代で発症する人も増加している。「若いから大丈夫とはいえない」と森本医師は言う。できれば健康なときに一度、自分の脳や血管の状態を調べる検査をすることを勧めている。


「検査で脳梗塞のリスクが高そうだとわかれば予防策を講じることができます。脳卒中は寝たきりと認知症の主要原因。なってからの対応ももちろん大事ですが、まずはならないための予防が大切です」(同)


(文・出村真理子)


※週刊朝日2023年4月7日号より


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