月額480円で飼い主を失った猫を救うサブスク “コーヒー1杯”の金額で終生飼養が可能な制度の仕組み、熱き思いとは

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2023年03月31日 21:07  ねとらぼ

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ねとらぼ

新しいお家を待つ猫(取材時)

 2014年に岐阜県岐阜市を本拠地に開業し、全国各地で保護猫カフェの運営やオリジナルグッズの販売、譲渡会やイベントの運営を行っている「ネコリパブリック」。



【画像:全ての猫たちのために】



 コロナ禍をへてますます精力的に活動してる同社が2023年2月に、飼い主が不測の事態で猫を育てられなくなったときに引き取り、里親を探すという取り組み「安心ねこ生活 猫生たすけあい制度」をリニューアルしました。



 厚生労働省が発表した「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(動物愛護管理行政事務提要より作成)」(対象期間:2021年4月1日〜2022年3月31日)によると、全国で収容されている犬・猫のうち飼い主からの引き渡しが1万2466匹(犬:2864匹/猫:9602匹)。猫に至っては全体収容数の28パーセント(犬は12パーセント)に及びます。その理由の1つとして“飼い主が死亡”“飼い主が病気や施設に入所”したために飼えなくなったということがあげられます。



 「猫生たすけあい制度」は、月額480円(ネコリパブリック卒業猫以外の猫の場合は別途入会金が必要)の継続寄付をすることで、飼い主が死亡、もしくは施設入所などの理由で猫を飼えなくなったときにネコリパブリックが引き取り→里親を探す(見つからない場合はネコリパブリックの施設で終生お世話をする)という仕組み。入会条件は完全室内飼いで不妊手術済みであること。最低1年間は継続寄付を行うこと。ワクチン接種の証明書の提出は不要。また、猫に関する相談窓口の利用、一時預かり(日数・回数に制限あり)や、即時引き取り(別料金設定/不妊手術をしていなくてもOK)も行っています。また、保護猫カフェの割引などの特典を受けられるほか、猫漫画家オキエイコさんとのコラボした猫ヘルプ手帳・猫ヘルプカード・オリジナルカードホルダー・猫ヘルプステッカーをプレゼントしています。



 ねとらぼ編集部ではリニューアルのきっかけや、制度への熱い思いをネコリパブリック代表 河瀬麻花さんに聞きました。



ネコリパブリック



 2014年開業。「この世の全ての猫に安心して眠れる場所とお腹いっぱいの幸せを与えたい」を目標とし、地域の保護猫団体と協力、保護された猫の里親探しを行いながら、猫とおしゃれですてきなライフスタイルを提案。ビジネスとしても「自走」できることを目指す新しいスタイルの「自走型保護猫カフェ」や食堂、オリジナルグッズ販売店の運営や、イベントなどの企画・実施を行っている。



代表 河瀬麻花さん



 生まれつきのネコ好き。「No Cats No Life. ネコのためならなんでもやるよ」 をモットーに、Eコマースの経験や飲食店運営のノウハウを生かして、日本の猫の殺処分数をゼロにするために日々まい進。猫カフェで保護猫の里親探しを行いながら、猫と人との新しいライフスタイルを提案している。



●もっと多くの子たちが行き場がなくなって困っているんじゃないかと



――最初にこの制度を作ろうと思ったきっかけは



河瀬:開業して初めは、行き場のなくなった成猫の譲渡を促進するために保護猫カフェをやっていたんですが……保護されてやってくる理由というのが、飼い主さんと生き別れたりとか、飼い主さんが施設に入って行き場がなくなった子たちがすごく多かったんです。



――悲しい理由で飼い主さんとお別れする猫が多かったのですね



河瀬:はい、2021年から岐阜県の保健所の猫たち、殺処分対象になる子たちを積極的に引き出すということを始めたんですけども、引き出す成猫たちの収容の理由が多頭飼育崩壊か、飼い主さんに不慮の事態があって面倒を見れなくなる、というのが90パーセントぐらいで。



 それってもっと何とかできたんじゃないかと。たまたま私たちのところに来た子は、レスキューをされて運が良かったのかもしれないんですけど、もしかして、もっと多くの子たちが行き場がなくなって困っているんじゃないかというふうに思いました。



――保健所からの引き出しはボランティアで行っているのでしょうか



河瀬:そうです。私たちが保健所から引き出すときは、不妊手術や血液検査をして、ケアして、新しい里親さんを探す、新しいおうちへつなげるというのを全部無償でやっていて。かなりの頭数を救ってくる中で、金銭的な負担がとても大きく、これをずっとやっていったら、ある程度の頭数までしか救えないという限界が見えてきてるな、もっと根本解決をしなきゃいけないなと。受け皿(保護施設)だけを作っていても、蛇口を締めないと意味がない、締めるためにはどうしたらいいんだろうと。



 そもそも収容された猫も亡くなった人たちの意思で連れてこられてるわけではなく、家族が面倒を見れない、親族などが家に入ったら猫がいたから保健所に連れていくという流れで、多分(もともと)飼ってる方々の本意ではないだろうなというのは感じていて。ちゃんとその方たちが生きてる間にそのケアをしていけたら良いなと。



 もっと広く、先々を見据える意識を持って今生きている方々が猫を飼ってくれて、さらにもしものときの負担をみんなで助け合えるような仕組みをもっともっと作れば、もっと救える猫が増えるのではないか、それで保健所に引き取られる前に、ネコリパブリックに引き取る仕組みにできないかと「猫生たすけあい制度」を立ち上げ、この制度を大々的にやっていこう! と思いました。



――「猫生たすけあい制度」を最初に立ち上げたのはいつごろなのでしょうか



河瀬:ネコリパブリックを開業した2014年にはもう制度を作っていました。そのときは月額の会費が3000円で、翌年から1500円に変更。入会するのに完全室内飼いで不妊手術済であること、ワクチン接種証明書、ウイルス検査や血液検査、腎臓の数値などを提出してもらった状態でないと加入できないという、結構ハードルが高いもので、ネコリパブリックから譲渡した猫の里親さんがメインの対象となる制度でした。



●無理のない範囲で、猫の幸せをみんなで支え合えるような仕組みにしたい



――2023年2月にリニューアルしたきっかけは



河瀬:前の制度だと入会条件のハードルが高く、金額的にも高齢者や1人暮らしの方などは入りにくいかなと。そんな方々や、猫好きで何か助けたいと思っているたくさんの方が金銭的な負担が軽く、猫助けになったうえで自分の猫の安心……保証ができたら、たくさんの人が入ってくれるのではないかと、最初に月額料金を下げようと決めたんですよ。



――月額料金を480円という価格にした理由は



河瀬:どこまで月額料金を下げるかと考えたときに、1000円でもやっぱり負担は負担かなと思って、年金暮らしの方々に「いくらだったら負担がないですか」とヒアリングをしました。そうしたら「コーヒー1杯ぐらいの金額だったらね」みたいなことをおっしゃる方がすごく多くて。



 じゃ、コーヒー1杯ぐらいの値段にしようとなったときに、500円でもまだハードル高いかもしれないと思って。480円という価格設定にして、じゃあそれで運営できるのかということを計算しました。



 どういった方が入ってくれるかと考えたときに、やっぱりすごく意識が高い方が入ってくれると思うんですね。長く一緒に猫たちと暮らしたいという方々が安心して払える金額……480円にすれば、その480円を支払ってくださってる期間というのは、ある程度長くなって、そういう方が増えれば増えるほど、やっぱり私たちの運営費が安定することで、施設も増やすこともできる。それなら480円で運営できるという計算をしました。もちろん、明日から入院して退院の見込みがないというような人たちのために即時引き取りというサービスも別に作っています。



――実際480円での運営は簡単ではない?



河瀬:もちろん、入会者が1人の場合は運用できませんが、例えば、今は100人以上の方が入ってくださっているのが1000人になったら、1万人になったら、それってすごく大きな金額になるので、その資金を活用して施設の設立や人材の育成ができると考えています。その480円を払ってる期間、例えば、1000人の人がいきなり亡くなることはないと思うので、そういうこともいろいろ、保険の計算の仕方とかも勉強して、こういう風に保険料を決めているんだというのを勉強した上で、480円でいける! と判断して設定しています。



――月額料金の値下げは元から加入している人も対象ですか



河瀬:はい、今までの金額はご返金はできないんですけど、元から加入している方も1500円から値下げして480円になっています。すごく驚かれましたが、かなり感謝されました。



――今回のリニューアルの反響は大きかったですか



河瀬:そうですね、新規加入の方もバババッと増えてます。今まではどちらかというと、ネコリパブリックの卒業猫を譲渡した先の里親さんで、例えば保証人がいない方とか、高齢の方、お1人暮らしの方にメインで入っていただいていたんですが、リニューアル後はWebサイトから申し込みフォームを作り、入会金はかかりますがネコリパブリックから譲渡された猫以外も加入できるようにして、すでに結構な件数をお申し込みいただいています。



――ネコリパブリックの卒業猫じゃない場合のみ入会金が必要なのですね



河瀬:はい、卒業猫以外は入会金を1匹につき2万5000円を寄付としていただいています。基本的にネコリパブリックの卒業猫の場合は、不妊手術や血液検査、詳しい内臓的な健康診断、ワクチン、エイズ白血病のウイルス検査などが全員終わっているのですが、卒業猫じゃない場合は初期医療費(不妊手術は入会条件なので除く)と事務経費なども発生する場合があるのでそこに充てるという考えです(卒業猫でない場合、健康診断、各種検査、各種ワクチンが完了している猫も入会金は必要)。その分、ワクチン証明書などの提出を入会の条件から外しています。



 2万5000円も高額で大変だという方もいらっしゃるので、分割払いを可能にしました。例えば5匹飼っていたら12万5000円と結構な金額になってしまう場合も、月々1000円なら払えるのであれば1000円で分割払いに設定させていただいて。とにかく個人の無理のない範囲で、猫の幸せをみんなで支え合えるような仕組みにしたいなと考えています。



――大きな反響があったということは、マイナスな意見も伝わってきたりはしましたか



河瀬:Twitterなどで、2万5000円の入会金が高いという意見もありましたが、どちらかというと入会金があってもこの制度はありがたいよねという意見が多かったです。入会金の利用用途や分割払いができることも発信してるので、理解していただけたかなと思っています。



 そもそも持続可能な保護猫活動をしていこうというのが私たちのテーマで、やっぱり全てボランティアでやっていても、絶対に壁に突き当たると思うんですよね。そうじゃなくてちゃんと対価をいただく、そして、それに対してしっかりとサービスとして、自分たちができる範囲の事業提供をするのが健全なのかなと。そこでぼろもうけをしようと思ってるわけではなくて、その仕組みがないと救えない猫がいるというのが伝わるといいなと思っています。



 あとは、「本当に480円で大丈夫なのか」と心配してくださるご意見もあるんですけど、私たちも覚悟をもってリニューアルしています。また、東京・岐阜・大阪など他拠点に店舗があって、シェルターも持っているのが他の保護施設とはまた違うところなので、一気に100匹ってなると無理ですけど、今の時点では加入者の中で何かが起こったときは、すぐに引き取れる体制はしっかりと取れています。



――月額料金を下げる&加入条件を緩和することで加入者を増やし、制度を拡げようと



河瀬:規模感が大きくなればなるほど、ある程度の動きができるようになってくるのは、今まで9年間やってきて実感しています。今もやっぱり定期サポーターの方がいらっしゃったりすることで、安定したベースができています。それがだんだん大きくなれば、ベースが大きくなればなるほど救える猫って増えてくるなというのを感じているので。



 かつ、行政と連携して行っているふるさと納税の活用なども開始して、もちろんボランティアさんもたくさんいるんですけど、ベースとなる雇用スタッフそれぞれがもう本当に猫が好きで、身を粉にして働いてくれているのでできることかなと。



――「猫生たすけあい制度」は全国どこに住んでいても加入できますか?



河瀬:交通費と人件費のみ猫のお迎えの際のご負担をお願いするので、入会の際に計算させていただきます。基本的に全国どこでも加入加能です。



――猫を飼っていなくても加入可能ですか



河瀬:猫を飼っていない人用のプランもあります。加入者は(猫を飼っている人同様)ネコリパブリックのサポーターとしての特典が受けられます(保護猫カフェの割引など/案内メール月1回配信)。Twitterなどで「そういうプランがあればいいのに」というご意見をいただいたので、ありがたいなと思ってこのプランを作りました。



――加入者の中で、実際にこの制度を利用された人はいらっしゃるのでしょうか



河瀬:急に育てられなくなった方のために即日受け入れというのを別料金(詳細はWebサイト)で設定してるので、そちらを依頼されることはちょくちょくあります。急にガンになってしまったから即日入院しなきゃいけない方とか、余命宣告をされたのでいったん即日料金を支払って、いざ何かあったときは迎えに来てくださいという方もいます。それで実際に亡くなったと連絡を受けて、すぐに迎えに行くということもあります。



●保護猫を迎えるという選択肢を多くの人が選ぶように



――コロナの感染率も落ち着いてきましたが、前回のコロナ禍の取材時と比較して経営の現状はいかがでしょうか



河瀬:お店もだんだんとお客さんが増えて、かつ、コロナ禍にサポーターになってくださった方が今も継続してサポートしてくださっているおかげで、新しい取り組みなどを始められるようになって、すごくありがたいなと思っています。



――猫たちの譲渡状況は変わってきましたか



河瀬:コロナ禍はステイホームの影響で「家にいるから迎え入れたい」とかなり譲渡が進み、コロナ前に比べると約2倍ぐらいの譲渡数になりました。もちろん、安易に飼う人たちも出てくる可能性があったので、うちはしっかりと審査をして問題のない方へ譲渡するようにしていました。コロナのピークが過ぎて、特に東京は譲渡数が2倍からちょっと下がってきてる気がしますね。ただ譲渡のニーズは、コロナ前よりまだ高い水準ではあります。



 あと、保護猫を家族に迎え入れるという選択肢を多くの方が選んでくれるようになっているな、というのはしみじみ思います。どこで保護猫と出会っていいか分からなかったという方がすごく多かったので、猫カフェがあったりとか、譲渡会があるというのを知って、参加してくれる方が増えたのではないかと思っています。



――確かに保護猫=保健所というイメージが皆さん強いのではないかと



河瀬:そうですね、なかなか保健所には行きづらいですし、ハードルが高かったのが、いろいろな場所で保護猫カフェや譲渡会が増えているので、保護猫を家族にするという選択が増えていると感じます。



●止まらない、止まれない、どんどん前に進みたい



――その他に現在取り掛かっている事業はありますか



河瀬:現在進んでいるのは、ふるさと納税を連携している岐阜県の飛騨市で行っている、国税調査ならぬ「猫勢調査」というものです。



 市内全戸にアンケートを配布させてもらって、いただいた回答の集計を始めています。猫を飼ってる人向け(頭数やワクチンの有無の把握)のものと、猫を飼ってないけど猫の問題を抱えてる人(近所に野良猫がいる、多頭飼いしてる人がいる、ふん尿の被害に困ってるなど)のものを配布して集計し、その結果問題を抱えている地域を特定、猫問題を事前に把握、そして解決していく計画です。予定では4月末には集計が終わるのではないかと。今後もふるさと納税などを活用して、自治体とタッグを組んで猫たちをレスキューしていきたいと思っています。



――今後のネコリパブリックの活動について教えてください



河瀬:今期は預かりボランティアやミルクボランティアの育成事業を行いたいと思っています。そのために新しいシェルターを作り、そこで保健所から引き出した猫たちに協力してもらって実技をしながらボランティア講習をしたり、オンラインでの講習を行う予定です。



――今日は2月にオープンした谷中しにものぐるい店にお邪魔して取材しています



河瀬:谷中店(東京都台東区谷中)が入っているビルのオーナーさんと昔から仲良くさせていただいている縁でこの地にオープンしました。昔から“猫の街(※)”として有名な谷中なので、そんな街に保護猫カフェがあるのは、すごく価値があることだと感じていて、もっとアピールしていきたいと思っています。



※以前は野良猫・地域猫が多かったため“猫の街”と呼ばれていた。近年は寿命や保護活動により外猫は減少している



――谷中店の他店との違いは



河瀬:ここは伊藤ネコというキャラクターで有名な、はんこ屋「しにものぐるい」さんとのコラボ店となっていて、店内のいろいろなところに貼ってあるポップ(「ドアを閉めてね」など)が全部しにものぐるいさんの描き下ろしになっています。



 それ以外は他店と同じく保護猫カフェとして運営し、お店にいる猫たちの譲渡もしています。譲渡対象の子たちが常時20匹はいるので、ぜひどんどん新しいお家が決まってほしいなと思っています。



――3月には千葉県にも新しい店舗がオープンしたのですよね



河瀬:はい、3月22日に千葉県千葉市にフランチャイズの「ちば店 CAFE&CATS MOF MOF」という新しい保護猫カフェをオープンしました。これでネコリパブリックの猫がいる施設は全国で11店舗になりました。今後も新しい店舗をオープンしていたきたいなと考えています。



――常に前に前にという感じなのですね。代表としてプレッシャーを感じることはないですか



河瀬:止まれない(笑)。止まらない、止まれない。関わる人たちが増えれば増えるほどスピードが上がるので、どんどん前に進みたいなと思っています。(プレッシャーは)あんまりないです(笑)。猫を見ると頑張ろう! と思えます。



――最後にねとらぼ読者にメッセージをお願いします



河瀬:「猫生たすけあい制度」は本当に純粋にみんなで助け合いの輪を広げて、もし会員が100万人になったら、ものすごいパワーを持って、もう日本中の猫たちを助けられるようになると思うので、ぜひ猫を飼っている方も、飼っていない方も、猫をあいしてる人みんなが加入してくれるとうれしいなと思っています。



(了)



●ネコリパブリック



公式Webサイト:https://www.neco-republic.jp/



Twitter:(@necorepublic)



Instagram:(@necorepublic_campaign)



画像提供/取材協力:ネコリパブリック


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