
町野修斗(湘南ベルマーレ)インタビュー後編
◆町野修斗・前編>>「監督や周りの選手たちから信頼感も勝ち得ていなかった」
4年後のW杯に向けてスタートした日本代表に選ばれた。昨季、J1で13ゴールを記録した湘南ベルマーレでは得点源として期待されている。
ストライカーとして成長著しい町野修斗は、どのようにステップアップを遂げてきたのか。インタビューの後編では、FWとしてチームメイトからの「信頼感」にこだわり、大切にする彼の考えやキャリアに迫った。
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── 町野選手が目指すストライカー像とはどのようなものでしょうか?
「何でもできる、かつ点の取れるストライカーになりたいですね。具体的な名前を挙げれば、ロベルト・レヴァンドフスキ(バルセロナ)のような。それでいて、ちょっとランタイプというか、スピードもあって、チームのために走ることもできるストライカーを目指しています」
── 今季でプロ6年目を迎えていますが、プロになって特にどこが成長している、伸びていると感じていますか?
「どこでしょう(笑)。特にですよね。総合的な能力は、フィジカルも含めて全体的に上がっているように思います。以前は特に足が速い選手ではなかったのですが、スピードも速くなった気がしています。ワールドクラスの選手たちと比べてしまうと、まだまだですけど。
ターンして前を向く技術は、2年間を過ごしたギラヴァンツ北九州時代に身につけたものだと思っています。あとは前線からの守備も、その時に培ったもののひとつです。それこそ高校時代は全然、守備を意識して取り組んでこなかったので、当時の自分を知る人たちは今の自分のプレーを見て『ビックリした』と、よく言われます。あとは......」
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── ほかにも自分の成長を感じているところがあるのでしょうか?
「プレーのことではないのですが、以前は自分自身でも調子に波がある選手だったと思っていました。でも、昨季くらいからその波がなくなってきたように感じています。そういう意味でも昨季は1年間を通して、コンスタントに試合に出場できたことが大きな経験になっていると感じています」
── 北九州時代の話も出たので、ここまでのキャリアについても聞かせてください。町野選手は2018年に横浜F・マリノスでプロのキャリアをスタートさせましたが、2019年にJ3だったギラヴァンツ北九州に期限付き移籍しました。そこからJ3、J2、そしてJ1とカテゴリーを駆け上がってきました。その過程で心掛けていたこと、意識していたことはありましたか?
「もちろん、最初からトップレベルのカテゴリーで活躍することが望ましいとは思いますけど、僕自身は自分の伸びしろというか、自分自身をずっと信じてきました。子どものころから自分は活躍できると思っていましたし。
プロになった時も、必ずJ1で戦える選手になれると、ずっと思ってきました。その自分を信じる力があれば望みは叶う、実現可能なんだと、自分のキャリアを振り返って改めて思います」
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── おそらく今日に至るまで、自分のなかでいくつかのターニングポイントがあったかと思うのですが、振り返って思い出すことはありますか?
「やっぱり北九州での2年間は、自分にとって大事な時間でしたね。でも、今思うと、当時はまだまだ未熟だったなと思います。ただ、当時はチームメイトにも恵まれて、移籍した1年目にJ3で優勝して、翌年(2020年)はJ2を戦うことができました。
J2でも前半戦はリーグ戦で9連勝し、首位に立ったこともありました。のびのびとプレーすることができていましたし、それがあったからこそ、ベルマーレに声をかけてもらえたと思っています」
── さらに掘り下げると、プロ1年目はJ1で優勝争いをしている横浜FMで試合に出場できず、翌年にはJ3の北九州に期限付き移籍。先ほど「自分を信じる」と語ってくれましたが、その現実に落胆することはなかったのでしょうか?
「ずっと、這い上がってやる、と思っていました。それこそ最初は、やはりプライドというか、F・マリノスという常にJ1で戦ってきた歴史のあるクラブから、加入する前年(2018年)にJ3で最下位だったチームでプレーすることになったので、危機感は抱いていました。
でも、プライドがどうとか言っていられる余裕というか、立場でもなかったので、ここでがむしゃらにプレーして結果を残してやろうと、切り替えることができました。今以上に年齢的に若かったこともありましたしね」
── 北九州では、やはり公式戦を戦う、実戦を経験する大切さも感じたのでは?
「本当にそこは実感しました。F・マリノスでは、年間で練習試合も含めて片手で数えられるくらいしかプレーする機会がありませんでした。そうした状況で1年間を過ごしていただけに、ギラヴァンツで試合に出場できて、めちゃめちゃ幸せでしたし、楽しかったですし、改めてサッカーっていいなって思いながら過ごすことができていました」
── そのなかで自信が芽生えたのは、いつごろからでしょうか?
「J2に昇格した2020年に、前半戦だけで7ゴール7アシストを記録できた時ですね。このまま頑張って続けていれば、J1のクラブに声をかけてもらえるかもしれないと、思えるようになりました」
── その予感どおり、2021年には湘南に加入してJ1でプレーする機会を掴みました。昨季は13得点という結果を残していることを考えると、4得点に終わった湘南での1年目と2年目でも成長の幅を感じているのではないでしょうか?
「やっぱり、ベルマーレに加入した2021年は、自分自身にまったく余裕がありませんでした。もう、ただ、ただ、がむしゃらにやっているだけという感じで。余裕もなければ、点も取れない。シュートを外しまくっていた1年でした。
それもあって、周りからも『あいつなら決めてくれるだろう』という空気が感じられなかった。どちらかというと『町野にチャンスが来ても、また外すんじゃないか』という雰囲気があったように感じていました」
── 自分自身で、そうした空気を感じ取っていたということですか?
「もちろん、チームメイトはあからさまにそうした態度を取るわけではないですけど、シュート練習で外すといじられてしまったり、普通のシュートを決めただけで過度に褒めてもらえたり。そういう自分が悔しくて......。
当時からFWとして切磋琢磨していた大橋祐紀選手とは、ふたりでそうした状況を打破しようと話していました。もちろん、実際にシュートを外していたのは事実なので、信頼を得られていないのは周りのせいではなく、自分自身のプレーに原因があったんですけどね。
『町野にパスを出せば決めてくれる』というイメージを、誰よりもチームメイトに抱いてもらわなければボールも出てこないだろうし、自分自身もシュートを打ちにくいという思いがずっとありました。だから昨季は、そうした空気をなくそうと思って臨んだ1年だったんです。
昨季のキャンプから、ゴールにこだわって練習から取り組んできた結果、徐々に『町野に出せば決めてくれる』『最後に決めてくれるのは町野しかいない』といった空気を、チームメイトからも感じられるようになったので、うれしかったですね」
── 昨季J1で13得点をマークした背景には、そうした努力と、チームメイトから信頼を勝ち得たことが大きかったと?
「本当にそう思っています。性格的にも、周りの空気を読めるほうだと思うので、雰囲気やちょっとした変化もわかるんですよね。だから、チャンスで出してくれたパスひとつでも、チームメイトに信頼されるようになったと感じられました」
── 逆に、チームメイトから信頼を勝ち取った今は、プレーへの責任感も増したのではないでしょうか?
「そのとおりだと思います。イージーなミスや決定機を外す機会は、かぎりなくゼロに近くしなければいけない。ただ、気負いすぎず、リラックスしている時ほど、ゴールを決めることができるタイプなので、肩の力を抜いた状態でプレーできるように心掛けています」
── ずばり、今季の目標を教えてください。
「目標は18ゴール以上。あとは得点王も狙いたいと思っています」
── 昨季は1点差で得点王を逃しているだけに、そこはやはり意識しますか?
「そうですね。そこでも昨季は悔しい思いをしているので、今季は獲りたいなと思っています。チームが優勝してトロフィーを掲げる、個人としては得点王になるなど、歴史に名を刻むような選手になれたらと思います」
<了>
【profile】
町野修斗(まちの・しゅうと)
1999年9月30日生まれ、三重県伊賀市出身。大阪・履正社高3年の時に横浜F・マリノスの練習に参加し、2018年に正式加入する。2019年には出場機会を求めてギラヴァンツ北九州へ期限付き移籍後、翌年に完全移籍。2021年から湘南ベルマーレの一員となる。2022年7月の香港戦で日本代表デビュー初ゴールを記録し、カタールW杯にはケガで出場を辞退した中山雄太に代わって代表メンバーに選ばれた。ポジション=FW。身長185cm、体重80kg。