限定公開( 6 )
冬の寒さが過ぎ去り、春の暖かさに気づいた頃には、奴らが蠢(うごめ)きやってくる。2023年もサメ映画の進化は止まらない。変革を続けるサメ映画について存分に語ってもらうべく、さまざまな場所で活躍する「謎のサメ映画研究家」サメ映画ルーキーさんをお呼びした。そもそもの活動のきっかけからそのパーソナリティーまで、たっぷりと語っていただいた。
●謎のサメ映画研究家 サメ映画ルーキーさんインタビュー
――本日はよろしくお願いいたします。サメ映画、今年も何かと話題が尽きないジャンルです。インターネットの人は全員サメが好きということもありまして。
サメ映画ルーキー そんなことはないでしょう(笑)
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――好きということもありましてですね、Twitter上で異彩を放つサメ映画紹介アカウントの「サメ映画ルーキー」さん。ライターとして記事の執筆やAbemaTV「声優と夜あそび」への出演、またさまざまなサメ映画イベントを主催・登壇されていたりと大活躍です。
ただ分かる人には分かるけれど、一体この人何者なんだろう? という方もたくさんいらっしゃると思いますので、今回は順を追って、サメ映画との出会いや、今やられていることなどお聞きしていきたいと思います。
サメ映画ルーキー よろしくお願いします。
――最初に私とルーキーさんの出会いになるんですが、5年ほど前に春の東京国際サメ映画祭2018※、というイベントがありまして。そちらに一般参加者としてご来場されていたと思いますが、その時はもうサメ映画にどっぷり……という状態だったのでしょうか。
※2017年の第0回から定期的に行われているイベント。「春の〜」は新宿ロフトプラスワンで開催。新作サメ映画のトレイラー上映に加え、「JAWS IN JAPAN」製作陣インタビューなどのトークイベント、サメ映画クイズ大会を実施。聞き手とルーキーさんはペーパーテスト上位通過者として早押しクイズに参加した。
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サメ映画ルーキー いえ、全然そんなことなくて。その2018年の「映画祭」がサメ関連のイベントに顔を出すのが初めてでした。イベントの数カ月前にたまたまサメ映画を見始めて、あ、こんなイベントあるんだ! 行ってみよう! となりました。
イベントが5月だったので、3月かな? その頃から見始めたので、それこそ当時は本当に「ルーキー」だったんです。当時は大学院で政治学を専攻していまして、国際紛争とか軍事クーデターに関してとか、その辺りを勉強していました。そして勉強のかたわら、たまたまプライムビデオで何か面白そうなのないかな? とさまよっていたら、「シャーケンシュタイン」※に出会いまして。
※当時のタイトルは「フランケンジョーズ」。ジャケットのメカメカしさとは似ても似つかない改造ザメが、雷の直撃を受けて脚まで生やす。よく見るとサメの周りに切り抜きの跡が見える。監督の他の作品に「エイリアンVSジョーズ」「ビッグフットVSゾンビ」など。
――よりによってマーク・ポロニア作品。上級者向けの劇薬だと思います。
サメ映画ルーキー そこで見たあの衝撃のビジュアルですよね。「こ、こんな世界が広がっていたのか……」と思ったのが最初のきっかけです。それで一本見終えたところ、もう似たような作品でサジェストがワーっと埋め尽くされて。結構凝り性なので、じゃあ全部見ようかと。というようなところからサメ人生が始まりました。
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――珍しいタイプの入り方のような気がします。今サメ映画が好きな方って、例えばB級パニック映画がすごい好きな方とか、あるいはレンタルビデオ店でジャケットにだまされてしまった方、町山智浩さんのラジオや知的風ハット※さんの動画から入った方が多い気がしますが、そういうルートでもないんですね。
※サメ映画ライター・動画投稿者。ニコニコ動画での「ゆっくりサメ映画レビュー」などの投稿を経て、映画ライターとしてさまざまな活動を行う。単著に『サメ映画大全』(左右社)。
サメ映画ルーキー 昔から映画自体は見ていましたけど、例えばその時好きだったのは80年代・90年代の作品でいえば「コマンドー」「ランボー」「エイリアン」とか。特別ハマっていたというわけではなくて、同じ世代の人と同じようにテレビで流れていたものを見ていたと思います。
――それが「シャーケンシュタイン」で変わってしまったわけですね。罪深い作品です。現在はお仕事などは何をされているんでしょうか?
サメ映画ルーキー 今は映画配給会社のコンマビジョンと一緒に仕事をしています。そこでサメ映画の買い付けや配給、日本向けのローカライズ、宣伝を行ったり、サメ関連の映画イベントを主催したりと。それこそシャーケンシュタインで人生が変わってしまいました。
当初はボランティアのような形で海外メーカーの監督と連絡を取って「日本語の字幕作るよ!」というようなことをやっていたらですね、今の会社で「大々的にサメ映画をやっていこうと思う」という方針がちょうどできたらしく、それで僕に声がかかり。フリーランスとして翻訳・字幕のお仕事などを受けていたらいつの間にか社員になっていたという感じです。
――字幕を手掛けられているんですね。もともと翻訳の経験などはあったのでしょうか?
サメ映画ルーキー 学生からフリーランスですので当然経験があるはずもなく、師匠などがいるでもなく手探りでした。そんな状況で初めて字幕を担当したのが「コマンドーシャーク 地獄の殺人サメ部隊」です。これは個人輸入で作品を鑑賞し、監督に直談判して日本配信にこぎつけました。
印象に残っているのは、字幕には日本独自のルールが結構あるところですね。日本って翻訳の文化がすごく発達していて。それもあって「読みやすい字幕とは」というのを先人たちが頑張って考えていて、例えば一秒間に出すのは4文字まで。斜体・ルビはこんな感じに使い分けるというのが結構決まってるんですね。1本あたりにかかる時間は長くて20時間くらいかな? 全体としてはそこまで苦労はしていないですが、いい表現を絞り出すのはやっぱり考えますね。
――サメ映画字幕界の伝説の名字幕といえば「イケメンは死なない」※があるかと思いますが、自分自身で「これは決まった!」と思う翻訳はありますか?
※B級映画の帝王ロジャー・コーマン製作の映画「シャークトパスVSプテラクーダ」作中セリフの日本語字幕。英語でのセリフは“I’m too handsome to die”。イケメンはこのあとすぐ死ぬ。
サメ映画ルーキー やはりダジャレですね。英語表現と引っ掛けた部分の翻訳はかなり考えています。「コマンドーシャーク」でいえば、ソヴィエト軍のサメ人間に対して“It’s time to fin-nish!”(フィニッシュと「フィン」=ヒレをかけている)という決めぜりふを言うわけですが。そこに関して“年貢のおサメ時だ!”を捻り出したんですよ。もう僕、すごい気持ちよくて。日本語だったらこの訳以外にはないだろうと思いました。
――これまで手掛けられた作品群を拝見していますが、「エイリアンVSジョーズ」「シャーコーン!呪いのモロコシ鮫」「ウィジャ・シャーク 霊界サメ大戦」……どれもこれも猛者ぞろいです。このような作品はどちらから見つけてくるんでしょうか?
サメ映画ルーキー 普通の配給会社の場合ですとまず映画祭に行って、映画祭と同時並行でバイヤーと権利者が商談するマーケットが開かれるんですね。そこで交渉するというのが普通のフローだと思います。でも、まあ僕が好きな作品って映画祭なんか出たりしないので。
――そうだと思います。
サメ映画ルーキー 「コマンドーシャーク」もそうですが、YouTubeやIMDbで海外作品のトレイラーを探して、おっと思ったら海外の配給会社なり権利元の監督にメールを送って……というケースが多いです。でも最近は監督の方から「こんなの撮ったんだけどどう? 買わない?」のような連絡が来ることが増えました。「今回サメじゃなくて恐竜なんだけど自信あるんだ!」みたいに。
――海の向こうで謎のバイヤーとして認知されていそうですね。ちょっと前の知識になるんですが、例えば日本でも人気の「シャークネード」シリーズはアメリカのケーブルテレビ「SyFy」※で放映されていて、2018年まで毎年「シャークネード・ウィーク」と銘打ったサメ映画特番を流したりもしていましたが。ルーキーさんが買い付けるような作品はアメリカではどう受容されてるんでしょうか?
※NBC Universal傘下のケーブル局。アサイラム配給による「シャークネード」シリーズや「ダブルヘッドジョーズ」などの作品を次々世界最速放送、世界中のサメ好きを騒然とさせた。
サメ映画ルーキー アメリカでも日本みたいな好事家はやっぱりいて、サメであればとにかく見るみたいな人たちは一定数います。あまりそこは日本と変わらないような気がしますね。ただ「シャークネード」とかはもう製作費の桁が1つ2つ違って、大作邦画くらいの予算を使ってやってるまさに上澄みの上澄み、エリート作品です。
そして僕が関わっている作品はもっと地下の……この「シン・感染恐竜」とかもですね。ケーブルテレビでは絶対流れないです。VODのような配信がメインだと思います。
――これまたすさまじいインパクトですね。この手の映画ジャケットやキャッチといえば「スティング」や「少女生贄」などがよく話題になりますが、これらはどのようにして作られるのでしょうか?
サメ映画ルーキー コンマビジョン作品のジャケットに関しては、主にヨロコヴさんというフリーランスでデザインをやってくださっている方がいまして。『シャーケンシュタイン』や『必殺!恐竜神父』など、コンマ配給のサメ映画やZ級映画はほとんど彼のデザインです。コピーに関してはサメンテーターの中野ダンキチさんを招いてチーム体制で考えています。例えば『エイリアンVSジョーズ』の「もう結果だけ教えろ!」はダンキチさんの案ですね。
ただ、この『シン・感染恐竜』は海外版のジャケットをほぼそのまま流用しています。デザインをお願いするほどの予算をかけることすら憚られる、凄い……本当に凄い作品でですね。面白そうなジャケットに仕立てて棚に並べるのはさすがに僕にも良心があるので胸が痛みます。
――他にもこのようなキャッチコピーで印象に残っているものはありますか?
サメ映画ルーキー キャッチコピーではないですが「サメデター」ですね。「感染恐竜」と同じ監督です。この映画ほとんどサメが出ないうえに人々が無言で歩いてるシーンがほとんどなのですが、さらに露骨な尺稼ぎとして、夕日が沈むところを延々と長回しで流すだけのシーンがあります。しかも2回。というわけで、「風光明媚なカリフォルニアの海も見所」と書いておきました。
――ひととなりを聞きたいというお話だったのですが、やはりどんどん話がサメに寄ってきてしまいますね。例えば趣味ですとか、サメ映画以外で好きなものとかハマってるものはありますか?
サメ映画ルーキー そうですね、最近特撮をかなり見るようになりました。サメ映画好きと話す機会が多いんですが、その中でみなさんどういう経路をたどってるのかな? というのを追っていくと、「ジョーズ」から「ジュラシックパーク」、モンスターパニック、怪獣ものとか。そういう特撮ジャンルが好きな方と最近仲良くさせていただいていて。その影響で最近ではぶっちぎりで「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」が面白かったですね。あれはすごい。
戦隊モノってこうだよね、というフォーマットを全部逆手に取ってくると言いますか。最終回も最高でした。あとは「キラーカブトガニ」※、良かったですね。あんな顔面に張り付くのに最適な形状の生物がいるのに、なぜ今まで誰もやらなかったのか? 本当に不思議です。
※2023年1月の上映開始から異例のロングヒットとなっているピアース・ベロルゼイマー監督によるホラー映画。「何で誰もカブトガニのホラー映画を撮ってないんだ?」との疑問から製作された。劇中に登場する二足歩行カブトガニの元ネタはポケモンの「カブトプス」。
――タイトルが出たので。クリティカルなお話かもしれませんが、「ジョーズ」※、お好きですか?
※まさかサメ映画がこんなことになるとは思わなかったであろう、スティーブン・スピルバーグ監督による1975年公開のレジェンド作品。全てのサメ映画はここから始まったと言っても過言ではない。サメ映画に限らず「グリズリー」などの模倣作品が大量にあるものの、スピルバーグとしては「ジョーズの模倣作品としては『ピラニア』が最高」とのこと。
サメ映画ルーキー これは本当に悩ましいです。うん、もちろん面白いと思うんですけど。リスペクトはもちろんしてる。けど、そんなに何度も見たいほど好きか? って言ったら、そうではないんですよね。ものすごく出来がいいのは確かで、尊敬すべき作品ではあるんですけど、僕が求めてる面白さはもっと別のところにあるんだなと。
もちろんハリウッドの話題作も邦画の大作も見ないわけじゃないですし、それらを見るのも本当に楽しいです。ただ自分が字幕を手掛けた作品をことあるごとに見返すんですが、そのたびにそれこそ「自分が求める面白さ」について考えてしまいますね。
――2023年はアメリカで「MEG ザ・モンスターズ2」の公開、そして日本では4月に「妖獣奇譚 ニンジャ VS シャーク」の公開が控えています。現在のサメ映画を取り巻く状況についてお話しいただければと思います。
サメ映画ルーキー 「妖獣奇譚」は驚きました。まさかこの令和の時代、日本がサメ映画にお金を出すとは思っていなかったです。絶対にサメは売れないって邦画の人たちは思っているはずなんですが、クレジットを見るとかなり勝負をかけている作品だと見受けられます。昔と違ってサメに対する日本人の目も変わってきてますし、サメグッズなんかも本当にいろいろなところで見るようになりました。成功してほしいと思います。
あとは業界全体の話になってしまうんですが、お遊びの作品が少なくなったな、と思っていて。例えば有名なところでいえば「恐怖!キノコ男」※みたいなZ級作品があるわけですが、こういうものを昔は配給会社さんがお遊びでリリースしてたんですね。
※ゼイリブによる2005年配給の低予算ホラー映画。出演者を含むスタッフのほぼ全員が監督の家族であるという点では実質「ウィジャ・シャーク2」。キノコ男による関節技が見どころ。
サメ映画ルーキー ただ今、やっぱり景気とか。そういうのを考えると売れ線の作品だけに絞ろうって流れになってきちゃってる。そんな中で僕たちは幸いにもそういう作品でやっていけています。
他の配給会社さんも、もうちょっとこっちに戻ってきてくれたらうれしいな、と思います。みんなで自作のフライヤーを作って配ったり、監督のアクリルスタンドを売ったりできたら面白いですね。
個人的に行なっている日本サメ映画学会、というイベントもその一環といいますか、こういうお遊びの場をなくしたくなくて続けています。その結果声優の戸松遥さんが入会したり、Adoさんにアカウントをフォローされたり(一瞬でフォロー外されましたが)、いろいろな番組に出演したりと、5年前には考えもしなかったようなことが起きてます。
仕事としては、例えば今は予算の関係で付けるのが難しい吹替のディレクションをやってみたいとかいろいろあるんですけど、結局は自分がやっていて楽しいことをこれからも続けていきたいですね。
(取材・構成:将来の終わり)
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