長男に幼い頃の自分を投影してしまい、ついくどくど言ってしまう(イラスト/tomekko) 子どもを褒めたい気持ちはやまやまだけど、ほかのきょうだいに目がいってしまったり、期待値が高すぎて言葉に詰まったり。3人の男子を育てているコミックエッセイストtomekkoさんも、いちばん上の長男に対しては褒めるよりお小言が多くなるのが悩みです。そんななか、デジタルツールを駆使したプレゼン発表会が小学校で行われ、意外な子どもの成長を見ることに。発表から気づかされた長男への懺悔や「子離れの心境」とは――。
【イラスト】tomekkoさんはこの人 * * *
感染症対策のため窓という窓が開け放された体育館で、震えながら5年生のプレゼンテーションを観賞する――。GIGAスクール構想なんて名前だけ聞くと妙に進化的な教育方針の改変と、それを実施する吹きっさらしの実質“青空教室”のギャップに苦笑しながら、学年末、長男の学習発表会を見に行ってきました。
子どもたちは日本の歴史をテーマにおのおの興味のある分野を調べ、iPadにまとめたプレゼン内容をスクリーンに映して前に出て次々と発表する、という流れ。5年生のデジタル教育に求める成果を公立校がどのレベルに設定し指導しているのか、それを決めているのは教育委員会なのか学校なのか、はたまた担任の先生なのか……よくわからないまま見せられる成果物にどんな反応をしていいかわからなかったんですが。正直、全体を通して小5のプレゼンなんてまぁこんなもんだろうという印象でした。
でも実は私はこの日、わが子の発表に、デジタルとは全然違うところでひっそりと感動していました。長男が発表したのは「日本の城」。もちろん掘り下げ方は浅いしツッコミどころ満載のプレゼンではありました。ただ、家で接しているだけでは知り得なかった長男の力が見えてきたんです。
一つは資料の使い方。多くの発表が、画面が文字で埋まってしまい、もう少し視覚的な補助が欲しかったな〜というパターンか、画像資料はあるもののそれが何を表しているかの説明がないものでした。そのなかで長男は城の構造の違いがよくわかるような比較画像を使ったり、説明している城の特徴が伝わりやすい資料をタイミングよく目に入るように出したりしていました。
そんなの当たり前のように思えますが、プレゼンって実は視覚と聴覚の情報をバランスよく補って聞き手に伝えなければならないんですよね。こういうことって自然に身につくものではないし、案外教えてもらう機会も少ないもの。そんなに本を読むほうでもないし、参考にしているとしたらYouTubeくらいでしょうか。案外自分の説明を客観的に見ているんだな、と思いました。
もう一つの驚きは「全て自分の言葉」に落とし込んで説明していたこと。グーグルで検索して出てきた文献の文章をそのままコピペして、自分の感想を付け足して読み上げるだけの発表が多いなか、なぜか長男のプレゼン画面に並ぶ見出しや説明は口語体。いや、口語……で説明するのはいいんですが、
「てゆーか」「ぶっちゃけ」「って思いません?」……etc.
イキリ小学生(というキャラではないはずだが)がウケ狙いでやったのかと思い「サムイぞお前……」と若干引いて見ていたのですが、このふざけた口調のおかげでネットに転がっている説明をそのまま読み上げているのではなく、自分なりの言葉で準備したんだとわかったんです。
長男は普段から家庭内でも発言が少なく、自分から友達を誘ったりもしない。こちらから聞いてもなかなかはっきりとした自分の意見というものを言わないので、理解力や言語能力、コミュニケーション能力が育っていないのでは……と正直夫婦でかなり心配していました。もちろんプレゼンに適切な言葉遣いではないけれど、彼がインプットした情報をしっかり理解していること、そしてそれを自分の言葉で説明できる状態まで落とし込んでアウトプットしている姿に、一気に安心感が込み上げました。
このプレゼンを子ども同士で評価し合ったり、担任の先生がコメントしたりすることも特になかったようで、先生からは頑張ったことをおうちで褒めてあげてください、で終わり。つまり長男はこの学習を通じて特別評価されたわけではありませんでした。
実際、世間に目を向ければもっとレベルの高い素晴らしいプレゼンができる小学生はたくさんいるでしょうし自慢できるほどのことではないと思います。でも、親バカって言われてもいい! 学校で評価されなくても、私的にはなんだかこのプレゼンを見て涙が出そうなくらいうれしかったんです。
「長男やるじゃん〜! お城のプレゼン、オリジナリティーがあっておもしろかったよ!!」
夕食を並べながら、ガラにもなくはしゃいで長男を褒めちぎった私。本当は誰よりも自信をつけさせてあげたいのに、3兄弟の中でもなかなか褒めて伸ばすということができずに頭を抱えていた「長男の隠れた長所」を見つけて一番うれしかったのは、母だったのです。
運動神経がよく、4歳も離れているのに長男よりもスポーツができてしまう次男。口が達者で空気を読んでうまいこと可愛がられる三男。弟たちは見た目にわかりやすい長所があり、そもそも下の子は幼く見えるのでちょっとしたことでも褒められます。
一方で、生まれつきのんびり、他者の影響を受けずゆらゆらと自分だけの世界で生きているように見える長男にはいつもヤキモキ。年齢が上がるにつれできていないことのほうにばかり目がいってしまい出るのは小言ばかり。なかなか、長男を手放しで褒めることができなくなっていました。
よく聞く話です。誰しも生まれたときには、
「この子が大きな病気や事故に遭わずとにかく健康でさえいてくれたら何も望まない!」
と心から思ったはずなのに。その思いは決して嘘ではなかった。心変わりしたつもりもない……それなのに、いつの間にかまわりの友達と比べ、平均データと比べ、できないことばかりが気になり弱点や欠点は埋めてあげなくてはと、先回りして備えなければ!という強迫観念に苛まれていく。
なんとかして自信をつけさせてやろうと小さい頃からいろいろな習い事にチャレンジさせた結果、何をやってもうまくいかずかえって長男の自信を削り取る本末転倒な事態を招いてきたことは、言い訳のしようもありません。今回のプレゼンを見て、安心と喜びと一緒に湧き上がってきた強い感情は「恥」でした。
親なのに、わが子のまだ芽吹いていないだけかもしれない力を信じてあげられなかったこと。本人の花開くタイミングを待つことができず、より早く得意なこと・好きなものを「見つけさせてやろう」なんて傲慢な考えを持っていたこと。3兄弟の中でも特に時間をかけて向き合ってきたつもりでいたけれど、私は一体何と向き合っていたんだろうか。
「実は、ノロマで要領も悪く何事もコツを掴むのに時間がかかった自分の幼少期を長男に投影して、イライラしていただけなんじゃないの?」
人一倍時間はかかったけれど、今は「好き」を仕事にして幸せだと思えている大人の自分がちゃんとここにはいるのに。長男は今11歳。もう親の目も細かく行き届かなくなり、預かり知らぬうちに全くの想定外なところから興味の芽が伸びたり他人から長所を見いだされたりするのかもしれないんですよね。親はそれを知ったとき、本人から応援を求められたときにできる限りのサポートをするしかないんだ。余計なお世話はやめよう。
学校のデジタル教育に言いたいことはいろいろあるけど、子育ての面では最終学年を前に、よい子離れのきっかけになった学習発表会でした。
○tomekko/主婦力は低いが妄想力は高いアラフォー。3兄弟に育てられる日々。イラストレーター、漫画家、コミックエッセイスト。小5、小1、年中の男子3兄弟に夫とほぼ男子校な日々を綴っているポンコツ母さん。主な著書に『飛んで火に入る』(講談社モーニング)、『おっとり長男もっちり次男きょうだい観察手帳』(赤ちゃんとママ社)など。『AERA with Kids』で連載中の「脱・カンペキ親修行」は6年目に突入!