◆ 猛牛ストーリー【第70回:村西良太】
2023年シーズンはリーグ3連覇、そして2年連続の日本一を目指すオリックス。今年も監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。
第70回は、4年目の村西良太投手(24)です。球威のある直球と鋭い変化球のコンビネーションで三振を取って来ましたが、昨年は二軍の試合で約1カ月の間に本塁打で2度のサヨナラ負け。自信を失い、フォームも定まらなくなっていた時、育成担当の平井正史コーチ(現・一軍担当投手コーチ)から腕を下げるアドバイスを受け、横手から下手投げに転向しました。
昨年の秋季キャンプでは中嶋聡監督から直接指導を受け、新境地を開拓。8日の日本ハム戦では、新人時代の2020年以来、自身2度目の先発マウンドに挑みます。
◆ 「どう投げていいのか……」
「何をやっても打たれてしまっていた時期でした。腰の回転が下手投げに合っているとかという技術的なものではく、とにかく試してみたらというもの。このままならヤバいな、と思い始めていたのでフォームを変えることに迷いは全くありませんでした」
兵庫県出身。津名高から近畿大を経て、2020年にドラフト3位で入団。1年目から開幕ローテーション入りを果たしたが、右肘を痛めて4試合の出場にとどまり、オフに手術をした。
昨季は開幕一軍スタート。4月下旬まで10試合に登板して1勝1敗4ホールド、防御率2.16だったが、新型コロナウイルスに感染。戦線離脱してから調子を崩した。
二軍戦では5月18日・広島戦(由宇)の延長10回に、初球を被弾してサヨナラ負け。6月21日・DeNA戦(横須賀)でも、延長11回にソロを浴びてサヨナラ負けを喫してしまった。そこからは「どう投げていいのか分からなくなってしまった」というほど、投球フォームを見失ってしまったという。
◆ 「ピッチングは相手がいて成立するもの」
そんな時、平井コーチが手を差し伸べてくれた。
スリークォーター気味から投げていた腕を下げてみたら、というアドバイスに「信じてやるしかありませんでした」という。
下から投げることで球速は落ちた。しかし、ボールのキレは増し、スライダーが文字通りスライドして曲がるようになったという。
「それまでは落ちて曲がっていたスライダーが高めに浮き上がり、打者が前のめりになるように感じます。カットボールも差し込まれているような反応になりました」
スピードは失ったが、得たものは大きかったのだ。
昨年の秋季キャンプでは、中嶋聡監督から直接指導を受けた。ボールを手渡してもらい、低い位置から離したボールを室内練習場の天井に向けて投げ込むネットピッチで、浮き上がるボールの感覚をつかんだ。
腕の高さ以外にも変えたものがある。今年1月の自主トレで指導してもらったトレーナーの「ピッチングは投手が投げるだけのものではなく、相手(捕手)がいて成立するもの」という言葉で、ボールを離すまでゆったりとしたリズムで投げるようになった。
「力いっぱい投げても捕手は気持ちよくない。ちゃんとゾーンに来て、受けていて気持ちのいい投げ方を意識しました」
また、下手投げに変えたことで「腕に振られるがままというか、身体の流れに任せて投げています。今までなら勢いだけで投げていたのですが、投げるリズムはゆったりとなりましたね」という。
◆ 「やってやろう、という気持ちです」
先発はプロ初登板となった20年6月25日のロッテ戦(ZOZOマリン)以来で2度目。この時は、立ち上がりから3者連続四球で満塁とし、一死から押し出し四球。続く中村奨吾に満塁本塁打を浴び、3回5失点でマウンドを降りた。
「覚えています。でも、その試合のことは考えずに投げたいと思います」
7日の本拠地開幕シリーズの始球式に登板した、近大の先輩で球団OBでもある糸井嘉男さんからは「しっかり投げろ」というメッセージが届いた。
「フォームを変えていなかったら、今はありません。どのくらい通用するのか、楽しみ。やってやろう、という気持ちです」
いつも通り静かな口調ながら、並々ならぬ決意が込められていた。
取材・文=北野正樹(きたの・まさき)