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※本稿には、『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴/集英社)の内容について触れている箇所がございます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)
本日、2023年4月9日(日)より、テレビアニメ『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編の放送が開始する(全国フジテレビ系列ほか)。
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むろん、注目すべきは、今回のキーパーソンともいうべき、恋柱・甘露寺蜜璃と霞柱・時透無一郎の活躍だろうが、とりわけ、前者が操るムチのようにしなる異形の長刀が、アニメになってどんな風に“動く”のか、いまから楽しみである。
そこで本稿では、その甘露寺蜜璃の魅力――引いては、彼女が遣う「恋の呼吸」の意味について、あらためて考えてみたいと思う。
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■「恋の呼吸」は戦闘で用いる技としてアリなのか?
甘露寺蜜璃は、政府非公認の鬼狩りの組織「鬼殺隊」剣士の最高位――「柱」の1人である。華麗な見た目に反して、並外れた密度と柔らかさを誇る強靭な筋肉を持っているため、前述のような特殊な刀を自在に操ることができる。また、「炎の呼吸」から派生した「恋の呼吸」の遣い手であるため、「恋柱」の称号を与えられている。
ちなみにこの「恋の呼吸」についてだが、何事にも“キュン”としやすい彼女の性格をよく表わした面白い呼吸法だとは思うが、しかし、よくよく考えてみれば、戦闘で用いる技としては、少々“変”といえなくもない。
じっさい、他の柱たちの呼吸法といえば、炎、水、風、岩、霞、音といった自然の力か、蟲や蛇のような毒を持った生物の力を取り込んだものであり、そうした力の数々が“攻撃の技”にも転じうるというのは、比較的容易に想像できることだろう。
ところが、あらためていうまでもなく、「恋」というのは、誰かが誰かを想う温かい感情の表われであり、そんな抽象的なものが敵を倒す力の源になるというのは、やはり、バトル漫画の設定としては少々おかしいのではないか――と考える向きもおられるかもしれない。しかし、実はこの「恋の呼吸」という設定こそが、作者(吾峠呼世晴)の独特なセンスが活かされた、素晴らしいアイデアの1つなのだと私は思っている。
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■「恋の呼吸」が「炎の呼吸」から受け継いだものとは?
「添い遂げる殿方を見つけるため」――それが、甘露寺蜜璃が鬼殺隊に入隊した(少なくとも表向きの)動機である。他の柱たちの多くは、親や兄弟を鬼に殺された恨みを戦いの原動力にしているのだが(柱ではないが、主人公の竈門炭治郎にしてもそうである)、そうした集団の中にあっては、本来は“普通”の女性であるはずの彼女の方が異分子になっている(むろん、“普通”とはいえ、彼女は彼女で、前述の特異体質と奇抜な髪色のせいで、かつて見合いが破談になってしまったという、ある種のトラウマを抱えてはいるのだが)。
そんな甘露寺を継子(つぐこ=直弟子のこと)として育てたのが、あの炎柱・煉󠄁獄杏寿郎だったというのは、必然のことだったかもしれない。なぜならば、彼もまた鬼殺隊の中ではある種の異分子というか、鬼に私怨を抱いている他の柱たちとは異なり(※)、代々「炎柱」を輩出してきた煉󠄁獄家の仕事として、鬼狩りを実行しているからだ。
(※)強いていえば、煉󠄁獄の他、元忍(しのび)の音柱・宇髄天元が、自分を認めてくれた“お館様”に応えるため、職務として鬼を狩っている、といえなくもない。
ただし、煉󠄁獄は、“家名”のために機械的に鬼を狩っているわけではない。彼の心には、「弱き人を助けることは、強く生まれた者の責務です」という亡き母の教えが深く刻み込まれているのである。
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そう、煉󠄁獄杏寿郎の戦いの原動力は、“自分以外の誰かを守りたい”という強い意志であり、それをひと言で表わすなら、やはり「愛」という言葉が相応しいだろう。つまり、煉󠄁獄が遣う「炎の呼吸」とは「愛の呼吸」であり、そんな彼のもとで学んだ継子が(「愛」とほぼ同義の)「恋の呼吸」を生み出したというのは、必然の結果であったともいえるのだ。
いずれにせよ、甘露寺蜜璃の「恋の呼吸」とは、人を愛し、人を守るための技である。そして、“ありのままの自分”でいさせてくれた、鬼殺隊という大切な“居場所”があったからこそ、花開いた呼吸法でもある。じっさい、今回の「刀鍛冶の里編」でも、彼女は多くの人々を守るために奮闘することになるだろう。可愛い「恋柱」の、燃えるような“恋心”に期待したいと思う。
(島田一志)
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