◆ 猛牛ストーリー【第71回:山下舜平大】
2023年シーズンにリーグ3連覇、2年連続の日本一を目指すオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを、「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。
第71回は、11日の楽天戦(楽天モバイル)でプロ2度目の登板をする3年目の山下舜平大投手(20)です。史上初の2年目以上でプロ初先発が開幕戦となった3月31日の西武戦(ベルーナドーム)では、初勝利は逃しましたが6回途中に84球で降板するまで4安打、7奪三振、1四球、1失点と好投しました。
飛躍を支えている一つが「趣味」という食事管理です。食品摂取のメリットやデメリットを勉強し身体のケアに役立てています。「やっと始まったという感じ。楽しみしかありません」という大器。チームの「借金」を返上し再スタートへ右腕に大きな期待がかかります。
◆ 味方も驚く堂々たるマウンドさばき
4月1日の登録抹消後もチームに帯同し、次回登板に備えて来た。2度目の登板を前に「僕自身、楽しみしかありません」と言い切る。
初登板の西武戦では、3回まで1安打、3奪三振、無失点。4回一死一塁から栗山巧に適時二塁打を許し先制点を与えたが、6回途中4安打、7奪三振、1四球という見事な投球だった。
初登板が開幕戦という大役になったが、常に冷静だった。
象徴的だったのは、金子侑司に初安打を許した3回一死からのマウンドさばき。次打者ペイトンに154キロのストレート2球でカウントを追い込み、3、4球目は直球でファウル。5、6球目のフォークボールがワンバウンドの暴投となり、金子は二進、三進。
このピンチに山下は7球目、カーブを投じ空振り三振を奪った。
動揺を感じさせない立ち居振る舞い。「自分が作ったピンチ。絶対に抑えると思った」とは試合後に聞いた言葉だが、数日後その時の思いを改めて聞いて、冷静さを思い知らされた。
「焦っても意味がないし、暴投をした後でも森さんが(サインを)出すんで。別に自分も気負っていなかったし、落としに行こうとした結果、狙い過ぎて引っかけたみたいな感じ。意図のあるボールをたまたま引っかけただけだったので」
「カーブは、自分も森さんも同じ考えだったと思います。(ペイトンはカーブが)頭になかったと思います。フォークだと思って」
直球とカーブだけで勝負してきた高校時代。1年目の6月から解禁したフォークは、今春のキャンプで受けた野茂英雄さんのアドバイスで落ち方が格段に変わった。最速158キロのストレートとそのフォークで三振を奪って来たが、落差の大きいカーブも武器になった。
マウンドでの落ち着きぶりに驚くのは、宗佑磨だ。ピンチになるとマウンドに駆け付け投手を落ち着かせることが多いが、開幕戦のあのピンチでマウンドに向かう気持ちはなかった。
「堂々としていましたし、西武打線はストレートを弾けていなくて、カーブにもタイミングが合っていませんでした。いけるんじゃないかな、と思って見ていました。いい投手になると思います」
◆ 末恐ろしい20歳「未完のほうがいいんじゃないですか」
身体の成長とトレーニングの兼ね合いから昨年5月から約4カ月間、実戦登板を避けて来た間に、食生活に一段と配慮するようになった。
「投げられなかった4カ月間に、食品を摂取するタイミングやメリット、デメリットを勉強するようになりました。揚げ物はほとんど食べません。タンパク質やビタミンなど、メリットを分かりながら食べるのが面白くてやっています。趣味みたいなものです。(山本)由伸さんが自宅で栄養士さんに食事を作ってもらわれていますが、僕がしていることも当たり前のことです。仕事ですから」
2年目以上の一軍未登板投手の開幕戦登板は史上初とあって、一躍注目を浴びるようになったが「環境が変わったので、見られ方も変わるので。ファームで投げているより楽しいですね。やっと(プロ生活が)始まったという感じ」と気負いはない。
「もう未完の大器じゃないね」と声を掛けると、「未完のほうがいいんじゃないですか、伸びしろがあって。完成はないので、未完でいいです」。
自覚と自信をつけた大器の成長は止まらない。
取材・文=北野正樹(きたの・まさき)