「今度は聴衆の監視ができていなかった」
そう厳しい口調で話すのは、元大阪府警刑事で犯罪ジャーナリストの中島正純氏だ。
4月15日、岸田文雄首相は衆議院和歌山1区の補選で、自民・門博文候補の応援のため和歌山市の漁港に訪れていた。その演説中、爆発物が投げ込まれた。集まった聴衆のひとりから投げ込まれた筒は岸田首相の近くに落ちて、大きな爆発音と白煙が上がったのだ。
威力業務妨害で現行犯逮捕されたのは、兵庫県西市に住む木村隆二容疑者(24)。警察の取り調べに対して容疑者は黙秘を貫き、「弁護士が来てから話す」などと供述しているという。
ひとつ間違えば大きな被害が出ていた
岸田首相は現場から避難して怪我はなく、警察官1人が軽い怪我を負った程度。会場付近に集まった人にも怪我はなかった。被害状況からみても、警察の警備体制に問題はなかったように思えたが……。
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「ひとつ間違えば大きな被害が出ていた可能性はあったと思います」(前出の中島氏)
今回の事件で思い出されるのは、9か月前の安倍晋三元首相の銃撃事件だ。
「もちろん、岸田さんは現役の総理大臣ですし、安倍元首相のときよりSPの数は圧倒的に多かった。だが、それにしては見直すべき点はいくつもあったと思います」
そのひとつが冒頭にあった、容疑者を一般人が取り押さえている点だ。
「SPや警備にあたる警察官がもっとも注意を払うべきは“不審人物”。容疑者は大きなリュックサックを背負っていて、漁港に集まる聴衆の中で明らかに浮いていた。それは取り押さえた一般人でも気付くほどで、結果的に彼が2発めの爆発物の着火を防いでいます」
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では、なぜSPや警察らは容疑者に気づけなかったのか?
「安倍元首相の襲撃事件の経験が大きく影響していると思います。安倍元首相は山上徹也被告に背後から襲撃され凶弾に倒れた。そのため、今回の警備は岸田首相の背後に多くのSPや警察官を配置していました」
屋外での警備は聴衆全員に金属探知機と身体検査を行うことができないため、非常に難しいという。
「だからこそ、聴衆に注意を払わなければならない。まず、岸田首相に背を向けて、聴衆を前から対面のかたちで監視する警察官が少なかった印象です。そして、聴衆の真ん中にも対面するかたちで監視する警察官。これが足りなかったのではないか」
事件が起きてからも動きも気になった、と中島氏。
聴衆への避難指示はいつ出したのか?
「容疑者は一般人らに羽交いじめにされている最中、2個目の爆発物と思しき筒状のものに火をつけようとしていた。この時点で、警察はまだ聴衆に避難指示を出していない。もし着火していたら被害は甚大なものになったかもしれません」
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容疑者が投げ込んだ筒状のものが数秒後に爆発。その爆音と白煙でようやく聴衆の一部は逃げ出しているが、その時点でも警察は避難指示を出していなかった。
安倍元首相の事件をきっかけに警備体制は見直された。警察庁が警備計画を制作し、和歌山県警と密に連携していたはずだが、
「確かに警備が難しい状況であったと思いますが、警備体制の点数を付けるのであればゼロ点。岸田首相の近くに投げ込まれたものがもし爆発していたら……。悲劇を繰り返さないためにも、警察は今後の教訓にしてほしいですね」