志茂田景樹が語る「要介護4」の車いす生活で広がった世界、ツイッターで“トラジャ担”と交流

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2023年04月20日 11:10  週刊女性PRIME

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志茂田景樹

「人が頑張ってるからって頑張るなよ。人にはそれぞれの頑張りどきがある。きみの頑張りどきに頑張れ

「自分は絶対大丈夫だ、という自信をもって常にそのことを自分に言い聞かせる。何が大丈夫なのか。大丈夫という根拠は何か。そんなことはお構いなしに絶対大丈夫だとただ思うのだ。自分は駄目だと思う人に比べたら絶対いいはずだ

 優しく、時に力強く、心に響く言葉をSNSで発信し続ける直木賞作家の志茂田景樹。83歳でツイッターを使いこなし、フォロワーは若者から高齢者まで40万人超。80歳を過ぎてジャニーズのアイドルグループ『Travis Japan』“推し”となり、SNSを通じてファンと交流する様子も話題だ。

車いす生活でも「視野は広がった」

 カラフルで奇抜なヘアスタイルとファッションで、'90年代はバラエティー番組でも活躍した。現在は、関節リウマチやケガの影響で「要介護4」の車いす生活に。外出はほとんどせず、自宅で執筆活動を続けている。

「行動的な世界は狭くなったけど、僕の視野は何倍にも広がったと思っているよ」と志茂田。SNSに対する思いや、今の生活について、オンラインで取材に応じてくれた。

「朝目覚めるとすぐ、頭に浮かんだ言葉をベッドの中でスマホに音声入力して保存します。スマホの音声入力は、誤変換も少なくてなかなか便利な機能ですよ。起き上がったあとに、保存した言葉を改めて調整してからツイッターにアップしています」(志茂田、以下同)

 朝は早くに目覚めるが、ベッド上で朝食をとり、起き上がるのは9時ごろ。一日を自宅で過ごし、外出するのは2〜3か月に1度の通院と、3か月に1度、バリアフリー対応の美容院に通うときくらいだという。

「健康なときは毎晩お酒を飲んだりして、時間を費やしてしまったなぁ、とちょっと反省の気持ち。今は妻からの介護に加えて介護支援も受けていますが、毎日の執筆活動と、SNSの発信は欠かしたことがありません。

 いろんな人に僕の言葉を伝えたいという強い思いと気力があるので、それが支えになっています」

 志茂田が関節リウマチを発症したのは2017年。右ひざの痛みから始まったが、20年以上ライフワークとしてきた絵本の読み聞かせ活動はなんとか続けることができていた。しかしその後、保養のために訪れた温泉施設で転倒。腰椎を圧迫骨折してリウマチが悪化し、2019年の暮れごろから車いす生活となった。

「車いすユーザーになり、まもなくコロナ禍となりました。社会環境の変化が今、子どもたちの世界にも大きな影響を及ぼしていると感じています」

弱くても、傷つきやすくてもいい

 志茂田のSNSには「死にたい」と相談が寄せられることもある。なかには、10代後半の少女もいたという。

人間はいつでも死ねる。今、死んだってなんともならないよと返信するとともに、ツイッターのフォロワーさんたちにも“この子の考えを変えさせるメッセージを送ってください”と呼びかけたんです。すると多くの人が反応してくれました。結果的にその子は自殺を思いとどまったとフォロワーさんの1人が教えてくれたんです。SNSは、使いようによっては大きな力になると感じた出来事でした

 志茂田は「今の日本には、年代や性別にかかわらずストレスを抱えて疲弊している人が多い」と続ける。そんな人たちに向けて“叱咤激励は逆効果”と考えている。

「自分の心がデリケートだって、傷つきやすくたっていいじゃない。なんで自分はこんなに弱いんだ、弱いから駄目なんだ!なんて、自分を責めちゃいけない。自分の心を一番大事にしてほしいという思いが、僕は常にあるんです

 最近気になったのは「持ってる・持ってない」という言葉。自身のブログで、

「人は持ってるのに 自分は持ってないと悲観しているのか 大丈夫 持ってるぞ」と発信。読者の共感を呼んだ。

「“持ってる”なんて表現を何かのニュースで見たときにね、あやふやな言葉だなぁと思ったんです。あの人はあれもこれも持ってる、という羨望的憧れがまずそこにある。

 例えば大谷翔平選手はピラミッドのトップにいてなんでも持ってるけど、自分には何もない、とね。でも自分が持っているものが他人と違うだけで、みんな何かを持ってるんです。だから自信を持ちなよ、と言いたかった。大事なのは、自分が何を持っているかを見極めるために自分と向き合うこと。これだ!と自分が決めたら努力し、継続することなんです」

 志茂田のSNSには、フォロワーたちが前向きな気持ちになったり、ふっと心が軽くなったりするような温かい言葉が並ぶ。

ツイッターというツールは、僕に大きな可能性を与えてくれました。それにネットを使えば、世界の裏側のことだってリアルタイムで知ることができる。好奇心のおもむくまま、世界を広げていけるんです。こんな身体になって……と自分を儚んだら、そこですべてが止まっちゃう。車いすユーザーになって初めて、病気の人の気持ちがよくわかりました。だからこそ、病気を受け入れたところから新しい自分の世界が見えてくるよ、と伝えたい。そしてその世界は決して狭くなく、広いものだと知ってほしいんです

 フォロワーからの「この言葉で救われました」「心に響きました」という返信に、うれしくなることもたびたびある。

「車いすユーザーになるまでは、絵本の読み聞かせ活動を約20年続けてきました。“昔、先生に絵本を読んでもらいました”と、大人になった当時の子どもたちからツイッターでメッセージが届くことがあるんです。そのときの派手なファッションまで覚えていてくれることも(笑)。忘れないでいてくれたことに感動しますね」

「トラジャ担」たちと世代や環境を超え交流

 志茂田のツイッターのフォロワーには、ジャニーズのアイドルグループ『Travis Japan』のファン、通称「トラジャ担」も目立つ。以前ネット上で、トラジャのメンバーである松倉海斗のポップなファッションが“志茂田さんみたい”と話題に。そのニュースを知った志茂田がトラジャに興味を持ち、そのままファンになってしまった。今ではジャニーズWESTKing & Princeなど、ほかのジャニーズグループの動向にも注目している。

「トラジャのメンバーは、個性がひとりひとりくっきりしているんです。僕がトラジャに関するメッセージを発信すると、推しのフォロワーたちがそれに応えてくれる。みんな、メンバーのそれぞれの個性や、人間性に共感しているんだなと実感します。僕はコンサートには行けない身体ですが、フォロワーたちと世代や環境を超えて、一緒に楽しんでいます

 身体は少し不自由になったが心は決して不自由にならず、新しい世界で羽ばたく志茂田。新たな目標もある。

エッセイはちょくちょく書いていて今年も出版予定ですが、編集者から小説を書きましょうと言われているんです。完成はいつになるか……なんてことは気にせず、じっくり取り組んでいます

 年齢を重ね、言葉との向き合い方にも変化があったという。

若くて時間に追われていたころは、東京と大阪を新幹線で往復するあいだに長編の半分を書き上げたこともありました。

 誤りが校正もされずそのまま出版され、恥ずかしい思いもしましたね(笑)。今はパソコンでの原稿入力も、無理をすると指が痛みます。でも音声入力を使いながら“1日2枚”なんてペースでゆっくりやっています。苦労すらも、むしろ楽しいですよ

 オンライン取材の画面の向こう側で、笑顔で取材に答える志茂田のヘアスタイルとファッションは、昔のままカラフルだった。

 元気の原動力は昔も今も変わらず、おしゃれとときめきとチャレンジ精神! 志茂田の言葉が、今日もわたしたちに勇気と優しさをくれる。

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