連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す今季のオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時、紹介していきます。
第74回は、7年目の山��颯一郎投手（24）。『ワールド・ベースボール・クラシック（WBC）』では、投手が故障したため準々決勝イタリア戦の直前に緊急招集されました。投手陣の役割分担が固まり、ほぼ投げることがない状況での合流。チームは14年ぶりの「世界一」に輝きましたが、結局、一度もブルペンで肩を作ることすら叶いませんでした。
悔しさだけが残った大会中、「投げたいオーラ」を出し続けていた宇田川優希投手（24）に「ブルペンで名前を呼ばれる幸せを感じて」と声を掛け、心を静めさせました。チームのムードを悪くしないようにとの配慮。同級生で切磋琢磨する関係があるからこその進言でした。
◆ 「悔しいのは悔しいのですが……」
日本中を沸かせたWBCから1カ月。宇田川には、忘れられない言葉がある。
米国での準決勝、決勝でのブルペンでのことだった。序盤からピンチが来ては肩を作ること数度。マウンドの投手が併殺などで切り抜け、出番はなかった。
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「世界一になったWBCの映像を見ると、あの舞台で投げられなかったことはすごく悔しいのですが、あの一言で冷静になることが出来ました」と宇田川は振り返る。
「そんなことも言うたかもしらんすね。確かに（宇田川は）ブルペンでいっぱい投げていたんですが、『僕よりましや』と冗談っぽく言いました」
山��が自らを嘆いている言葉でないことは、次の説明でよく分かる。
「僕も悔しいのは悔しいのですが、チームが戦っている時に、個人の気持ちだけでチームの雰囲気を悪くしたくないという思いがありました。『自分が投げたいんだ』という感情はすごく大事なんですが、それを周りに見せてしまい、ちょっとしたことで雰囲気を悪くすることも困るので。それを見せるもんじゃないと、僕は思っていて。一番近いところにいるチームメートでしたし」
この言葉が、宇田川になぜ響いたのかは、山��の置かれた立場を考えるとよく分かる。
侍ジャパンの投手登録は15名。代替選手と呼ばれる予備の選手は、オリックスの平野佳寿投手ら8名だったとみられる。その予備選手の中で、山��は一番手だった。
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「予備の投手全員に、キャンプやオープン戦で、メジャー球で準備をしてもらうわけにはいかないんです。（各球団に）呼ばれるかどうかも分からない投手に準備させるリスクを負ってもらうわけにはいきません」。
160キロ超のストレートという実力もさることながら、普段の指導を通して気心も知れ、キャンプで直接会話が出来ることから、代役の一番手は山��以外にいなかったというわけだ。いざとなれば、4人目の投手を供出するというオリックス球団や中嶋聡監督の英断も、厚澤コーチの決断を後押ししてくれた。
◆ 出番はなくとも欠かせないピース
ただ、現実は甘くない。
「言い方が悪くなってしまうのですが、颯一郎は15人の枠に入らなかった選手です。16人目（の出番）は、緊急の緊急の、緊急でしかありません」と厚澤コーチ。
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準々決勝のイタリア戦直前に招集されたが、準決勝・決勝に向けての各投手の役割はほぼ決まっており、出番が回ってくる可能性は極めて低いのが実情だった。
「颯一郎には、勝ちパターンの後ろの投手が故障した時にすぐに入る役目をお願いしました。故障した選手も、急いで調整をしたら米国の試合に間に合ったかもしれません。でも各球団のクローザーやセットアッパーを、駆け足で調整させることは僕の中では絶対にやってはいけない作業だったのです。本人が『行ける』と言ってもストップさせます」と明かす厚澤コーチ。
さらに「それをストップさせることが出来たのは、キャンプからキャッチボールでWBC球を使うなど、準備をしてくれている颯一郎がいたからなのです」と、山��が侍ジャパンの投手陣に欠かせないピースの一つだったと説明した。
◆ 「見ることによる財産」を糧に
リーグ開幕直後は、「WBC球からNPB球に変えて、ボールが浮いたり落ちなかったりする場面もあったのですが、落ちない理由も分かっています。ストレートもよくなって来ました」と語っていた山��は、4月20日の楽天戦（京セラドーム大阪）で2点リードの8回に2番手として登板し、打者3人を6球で仕留める好投。21日の西武戦（同）でも、7回の1イニングを無失点で抑えた。
「自分に実力がないとは思っていません。自分もいける、投げて抑えることは出来るという思いがあったので、すごく悔しい思いをしました。プロである以上、（メジャーに）興味がないわけではありません。結果がすべてなので、結果を出し続けていくしかないと思います」と3年後のWBCに思いをはせる。
宇田川も「厚澤コーチにも『ブルペンにお前がいるからマウンドのピッチャーも安心して投げることが出来るんだ』と言ってもらえました。正直に言って米国で投げられなかったことは悔しいのですが、少しは（世界一に）貢献できたのかと思います。本当に投げることが出来ただけでも幸せなんで、次は凄くいい場面で投げられるように、3年後を狙います」と先を見据える。
「颯一郎には、呼ぶだけでプラスになると思い、宇田川と一緒に『ダルビッシュや（大谷）翔平の投げる前の準備やどんなエクササイズをしているのか、何を思って投げているのかを、よく見ておくように』と伝えました。これほどいい教材はありませんからね。自分でプレーをするだけが財産ではありません。見ることによる財産もあるのです。あの子たちもそこは理解してくれたと思います」と厚澤コーチ。
山��が宇田川に声を掛けたことは知らなかったそうで「ありがたいですね。（颯一郎は）優しすぎますね（笑）。あの2人がいることでWBCチームがいい流れになってくれると思っていたんです。これからも切磋琢磨してほしいですね」
世界の大舞台で光り輝くことは出来なかった2人だが、悔しさと有形無形の財産を胸に、一つになってリーグ3連覇に突き進む。
取材・文＝北野正樹（きたの・まさき）
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やっぱ「吹田の主婦」は言うこと違いますね…
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