【最新】がん薬物療法「抗がん剤を使用しない選択・軽い副作用」医師が解説する“がんとの共存”

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2023年05月05日 11:10  週刊女性PRIME

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※画像はイメージです

「抗がん剤の治療が以前に比べて軽くなった気がする」

──がんの再発を経験した患者さんから、そのような話を耳にすることも。

個別化が進む抗がん剤治療

 がんの薬物治療はどう変わってきているのか、がん研有明病院院長補佐であり腫瘍内科医でもある高野利実医師は次のように話す。

「抗がん剤は世の中に存在する薬剤の中でも副作用が強い薬であるのは間違いありません。ただし、副作用の出方や程度は、使用する抗がん剤によって異なりますし、同じ抗がん剤を使っても、患者さん一人ひとりで違ってきます」

 がんの治療では、「手術」、「放射線療法」、「薬物療法」が三大治療と呼ばれ、抗がん剤治療は薬物療法に属する。

「手術と放射線療法は身体の一部分にだけ効果が及ぶ局所治療です。対して薬物療法は、身体全体に効果が及ぶため、全身治療ともいわれています。

 早期がんでは、局所治療と全身治療を組み合わせて体内のがんをゼロにすることを目指して治療を行うこともあります。

 がんが身体中に転移している進行がんでは、局所治療でがんを抑えることはできず、治療の中心は薬物療法となります」(高野先生、以下同)

 医学や薬の進歩はめざましく、現在の薬物療法では従来の抗がん剤のほかに次のような薬剤も用いられる。

「20世紀の薬物療法では、ほとんどの患者さんに細胞を無差別に攻撃するような従来型の抗がん剤が使われていました。しかし、21世紀になってからは、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬といった治療が主流になっています。

 がんを抑えるための薬という意味で、これらの薬の総称として“抗がん剤”という言葉が使われることもあります」

 分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬のそれぞれの働きとは?

「分子標的治療薬は、がん細胞の特色をターゲットにして、がん細胞だけに作用することを意図した薬です。

 がん細胞には免疫による攻撃を逃れるような仕組みがありますが、その仕組みが機能しなくなるように働きかけてがん細胞を攻撃する免疫の力を復活させるのが免疫チェックポイント阻害薬です。

 私の患者さんには“ノーベル賞を受賞した本庶佑先生の研究によってできた薬です”と説明しています。

 また、乳がんや前立腺がんなど、ホルモンが関係するがんには昔から使われている薬物療法であるホルモン療法を用います」

がんの三大治療
・手術
・放射線療法
・薬物療法

以前よりも副作用が軽くなっている側面も

 近年、主流になっている分子標的治療薬をはじめとする薬物療法は、従来型の抗がん剤よりも副作用は比較的軽めだという。

「分子標的治療薬は、正常な細胞も攻撃してしまう抗がん剤よりも副作用は軽いといわれています。また、身体全体の免疫に作用する免疫チェックポイント阻害薬や、体内のホルモン環境に作用するホルモン療法も、比較的、副作用は軽めです。

 ただし、先ほどもお話ししたとおり、副作用の出方や程度は患者さんによって異なるため、つらい副作用を起こすこともあります。ですから私たち医療者には、どの薬剤を使う時でも慎重な対応が求められます」

 近年は、薬物療法による副作用を和らげる方法も進歩している。

「私が腫瘍内科医となった25年前は、抗がん剤治療はつらさに耐えて行うことが当然とする空気がありました。

 がんと薬物療法による症状を和らげるための、鎮痛剤や制吐剤などを使っての治療を“支持療法”といいますが、最近は医療者側の認識が変わり、この支持療法の重要度が増しています。

 “日本がんサポーティブケア学会”という支持療法のための学会もできており、関心が高まっていることは間違いありません。

 実際、吐き気に関してはかなり支持療法が進化しており、同じ抗がん剤を使っているならば、25年前よりも今の患者さんのほうがラクに抗がん剤治療を受けられていると思います」

抗がん剤治療をしないという選択

「薬は単なる道具ですから、患者さんにとってプラスになるなら使う、そうでないなら使わないのが原則です。抗がん剤を使うことでラクになるのなら使い、抗がん剤を休むほうがラクな状態になるのであれば治療をお休みするほうがいいんです」

 しかし、患者の多くは“つらくてもやらなくてはならない”と思い込んでいると高野医師は語る。

「医者がやるように言っているから、つらくてもやり遂げないといけない、という発想です。“いい状態で長生きする”という目標に逆行するような治療は、やらないほうがいいにきまっています」

 だが、がんと向き合いながら何も治療を受けないという選択をするのは不安だ。

「それは、がんに対して誤ったイメージが浸透しているからです。例えば、日本人において、心筋梗塞や脳疾患を引き起こす動脈硬化はがんと同程度の死因です。

 罹患すると治らない点も、それによって亡くなる確率が高いのも同じですが、健康診断で動脈硬化を指摘されてもショックを受ける人はそれほど多くないんです。でも、がんを告げられるとひどくショックを受け、何か治療を受けなければと思ってしまう。

 多くの人は、がんは死に至る可能性が高く、つらい治療をしなければならないと思い込んでいるんです。がんになっても、自分らしく生きていくことが重要で、そのためにうまく使う道具が、抗がん剤です」

 高野先生のもとで治療を受ける患者さんの中には、がんを患ったことを周囲に隠している人が少なくないという。

「年をとれば誰もががんになる可能性があります。薬物療法は、副作用というデメリットもありますが、治療によって元気になったり、仕事が続けられたりするなどのメリットが上回ることが期待できるのなら、試してみる価値があります。

 患者さんが自分にとって最適な治療を受けるためにも、みなさんにがんに対する正しい認識を持っていただきたいと思っています」

がん薬物療法で使われる主な薬剤

抗がん剤

 がん細胞の細胞増殖過程に働いてがん細胞の増殖を妨げ死滅を促す目的で作られた薬。正常細胞にも影響が及ぶ。

分子標的治療薬

 がん細胞が特異的に発現している分子を標的に設計された薬でがんの増殖や転移を抑える。正常細胞への影響は少ない。

免疫チェックポイント阻害薬

 がん細胞が持つ、免疫にブレーキをかける仕組みに働きかけ、本来持っている免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ薬。

ホルモン剤

 ホルモン受容体陽性乳がんなど、特定のホルモンの影響を受けて増殖するがん細胞を抑えるために使用される。

お話を伺ったのは……がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長 高野利実先生●東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し同大附属病院などで経験を積み、都内病院で3つの腫瘍内科を立ち上げ2020年に現在の病院に赴任。近著は読売新聞の医療系サイト「ヨミドクター」の連載『Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう』をまとめた『気持ちがラクになる がんとの向き合い方』。

(取材・文/熊谷あづさ)

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