2023年シーズンにリーグ3連覇、2年連続の日本一を目指すオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを、「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。
第75回は、9年目の小田裕也外野手（33）です。
代走や守備のスペシャリストとして欠かせない存在ですが、今季は4割以上の打率を挙げ、打撃でもチームの勝利に貢献しています。
◆ 指揮官が惜しみない賛辞を送る守備力
「素晴らしい守備であり、盗塁でした。あとから出ていく選手がしっかりと準備をしてくれ、本当にいい仕事をしてくれている。そういう選手がいないと本当に困るんです」
中嶋聡監督が惜しみない賛辞を送ったのは、今年4月19日の楽天戦（京セラD大阪）の試合後だった。
1点リードの9回の守備。二死一・二塁から山��剛の打球は一、二塁間を抜けて右翼へ。前進守備の小田は、二塁走者の代走西川遥輝をワンバウンドの返球で刺しゲームセット。同点のピンチを救うビッグプレーだった。
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大きな仕事を成し遂げた直後にも関わらず、いつも通り静かな口調で振り返ったが、「日頃から送球は心掛けてしっかりと準備をしていますので、いつも通りに出来たと思います。そこでご飯を食べていますので」と続けた言葉に、守備のスペシャリストとしての自負を感じさせた。
この日は、脚でも魅せた。7回に同点打を放った頓宮裕真の代走として出場し、次打者太田椋のカウント1-1からの3球目に、二盗に成功しチャンスを広げた。得点にはつながらなかったが、追撃ムードに沸くチームを鼓舞する価値あるプレーだった。
◆ 「イメージ通りにバットがでているという感覚があります」
九州学院高校−東洋大−日本生命を経て、俊足好打の左打者として2014年のドラフト8位でオリックス入り。
東洋大学では鈴木大地（楽天）と同期で、東都大学リーグでは4年時に首位打者（.360）と2季連続のベストナインを獲得した。
1年目の終盤から頭角を現し、2016年4月13日の日本ハム戦（京セラD大阪）で延長10回にサヨナラ打、7月28日のロッテ戦（ほっともっと神戸）ではサヨナラ犠飛を放つなど、勝負強い打撃を印象付けてきた。
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失敗が許されない守備固めなどの途中出場で、いつも通りのプレーをやってのけることが出来るのは、不断の努力があるからに他ならない。
それでも小田は「スタメンで出ている選手の方が、難しさはあると思います。チームを背負って戦っているのですから。それに比べたら（途中出場の難しさは）全然ないと思います」という。
スタメンを張る選手とはチームから託された重みが違うということなのだろう。
しかし、東洋大の後輩で今季3番を任されることの多い中川圭太は「途中から行く方が、だいぶきついと思います。僕自身、両方を経験しているから分かるのですが、1点差など一発勝負のミスが許されないところで出て行って結果を出すのは難しいことだと思います」と、途中出場する選手の難しさを代弁する。
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5月3日のソフトバンク戦（ペイペイD）で、脚を痛めた杉本裕太郎に代わり「8番・左翼」で出場し、5打数3安打、1打点。7日の西武戦（京セラD大阪）では「7番・中堅」で4打数2安打。12日のソフトバンク戦（同）では「8番・左翼」で4打数2安打と、マルチ安打を3度も記録。14日のソフトバンク戦（同）でも通算10号となる先制の2ランを放つなど、スタメン5試合で19打数9安打、3打点で.474の高打率を残している。
今季、通算では21試合に出場し、28打数12安打、5打点、1本塁打、打率.429。好調の要因を「たまたま、うまくいっているだけです」と謙遜するが、今年の自主トレから「イメージ通りにバットがでているという感覚があります」と明かす。
スタメンで結果を残し続けていることについては「試合を左右するという意味で、違う大変さがありますが、1打席目の反省を踏まえて2、3打席目に立てる楽しみはありますね」。
スタメンにはその日のうちに修正して挽回するチャンスがあるが、「（途中出場でも）原因が分かっていたら次の打席の日までに修正は出来ますし、（原因が分からなければ）スタメンでも修正が出来ないところは出来ません。日があいた方が打撃練習で修正が出来たりしますが、（スタメンでは）ヒットが出なくて『おかしいな』と思ってもすぐに打席が回って来る難しさがありますね」
◆ 「ただ（チームに）いるだけという時期もありました」
4月26日に国内フリーエージェント（FA）権の取得条件を満たした。
「目標ではありませんが、一つの区切り。取れてよかったと思います。まずは、チームの3連覇に貢献することです」
9年目のFA取得は、1軍で戦力としてチームに貢献してきた証。それでも、眠れない夜を過ごしたこともある。
「ただ（チームに）いるだけという時期もありました。自分でもパーツとして必要とされていて、そういう役目があるのは分かっているのですが、レギュラーを獲りたいし試合にも出たいし」
「くさった時もあります。自分では干されているように思っても、周りから見ればそうではないということなのでしょうが、それが分かるのは現役を引退してからなんでしょうね。『ああいうポジションがあって、こういう選手はこういう起用をされるんだな』っていうのは。ほんとに、割り切れる人ってあまりいないと思います。（代走のスペシャリストと呼ばれた）巨人の鈴木（尚広）さん（現巨人外野守備兼走塁コーチ）は割り切ってやっていたと思いますが、何かきっかけがあったのでしょうね。やっている以上、バットを振りたいですし、試合に出たいという思いはみんなあると思うので」と吐露する。
解消法は、練習。「練習やトレーニングをガンガンやって、身体を疲れさせて頭をリセットさせるんです」
逆に、バットを振らないこともあった。3年前のオフの練習で、バットを封印した。契約更改後の記者会見では「トレーニングや身体の使い方などを見直したい」と説明したが、打撃が分からなくなってしまっていたという。
「打撃が課題だとずっと考えてやってきて、パンクした感じですね。『もう、わからん！ 一回、止めてしまおう』と。いろんな知識が増えて来て、原因は分かっているけど直せないとか。リフレッシュして元に戻した方がフラットになるんじゃないかなと思って」
「打たないと試合に出られないし、30歳前で『そろそろヤバい』と思いながら、そっちばかりを考えて楽しくなくなってしまって。贅沢な悩みなんですが、しんどくなってやめちゃったんです」
正解のない世界。しかも投手という相手があっての勝負。迷路に迷い込んでしまったのだろう。
◆ 「振り返るのは引退してから」
小田が最も注目を集めたのは、2021年11月12日のロッテとのファイナルステージ第3戦で、バスターで25年ぶりの日本シリーズ進出を決めた場面だ。
8回の守備から出場し、1点を追う9回無死一・二塁でバントの構えから強打するバスターで同点打を放った。規定により同点で日本シリーズ出場が決まり、ゲームセットとなる珍しい“サヨナラ同点打”は野球ファンの記憶に残るシーンになった。
今も「印象に残っているプレー」と声を掛けられるが、「過去のワンプレーの一つですね。やったという感覚も覚えていなくて。一喜一憂はしますが、引きずらないというか。成功と失敗の繰り返しなので、胸を張って言うものでもないという感じですね。まだ現役なので、振り返るのは引退してからですね」と冷静に話す。
端正な顔立ちで、口数の少ないクールなイケメン。
「基本的に、ワチャワチャはしないですね。テンションもあまり高い方ではありません。一喜一憂もするし、悔しい時は悔しがりますが、周りからはそうは見えないのでしょうね。それを表に出すのが下手くそなんです。小さい時からこんな性格ですね」
「（動物に例えると？）猫ですかね。ツンデレで、媚びないというか」
静かな口調の奥に秘めた熱いハート、目標に一直線に向かう情熱を感じさせるあたり、やはり九州男児なのだろう。
19年オフに結婚。ミラクル好返球でチームを救った4月19日の前日には二男も誕生した。2歳半の長男は、球場に向かう小田を「パパ、やきゅう、カキーン」と送り出す。
新しい家族のためにも、前を向き続ける。
取材・文＝北野正樹（きたの・まさき）
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