レクサス初のEV専用車「RZ」は輸入車勢とも勝負できる?

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2023年05月19日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
レクサスからついに電気自動車(EV)専用モデルの「RZ」が登場した。基本的な部分はトヨタ自動車のEV「bZ4X」との共用だが、レクサスならではの上質さ、乗り心地は実現できているのか。メルセデス・ベンツなどの輸入車勢とも勝負できる仕上がりなのか。試乗して確かめた。


○ヘーゼルの内装が上品



レクサス初のEV専用車となるRZが2023年3月に発売となった。レクサスは「UX300e」というEVを販売してきたが、こちらはハイブリッド車(HV)も選べるコンバートEVであり、EV専用ではなかった。



RZはトヨタが2022年5月に発売したbZ4Xと基本的な部分を共用している。車体寸法はRZのほうが若干大柄で、全長4,805mm(bZ4X比115mm増)、全幅1,895mm(同35mm増)、全高1,635mm(同15mm減)となっている。車高だけがやや低くなっており、精悍さが増した印象だ。ホイールベースは同じ2,850mmなので、骨格となるプラットフォームはbZ4Xの流れをくむといって間違いない。


RZは前後に計2つのモーターを積む4輪駆動(4WD)のEVだ。前輪側モーターの性能はbZ4Xの前輪駆動車(FWD)用と同じ150kWの出力を持つ。後輪側は80kWで4WDのbZ4Xと同じだ。bZ4Xの4WDは前輪が80kWのモーターなので、試乗した際、加速性能に物足りなさを覚えた記憶がある。基本的な潜在性能の高いモーターを前輪に用いるRZでは、bZ4Xとは違った運転感覚が味わえるのではないかとの期待があった。



今回試乗したのは「RZ450e」の「“version L”」で価格は880万円。車体色の「ソニックイリジウム」は金属的な色合いで、EVを見据えたレクサスの新しい造形手法である「スピンドルボディ」によく似合っていた。


コンバートEVのUX300eはHVと共通性があるため、ラジエターグリルが残されている。RZはEV専用ということで、いわゆる格子状のラジエターグリルはなく、陰影をいかした顔つきが新たなレクサスの存在感を示している。



内装は「ヘーゼル」と呼ぶタン色に近い色合いだった。焦げ茶色の縁取りがあり、伝統的な英国の高級車のような上質で上品な雰囲気を感じる。「ウルトラスエード」という座席の表皮はバイオ素材を約30%使った持続可能性のある仕立てとなっている。座り心地はしなやかで、かつ体を的確に支えてくれる。スウェード的な風合いの表皮なので、着座姿勢がずれないところもいい。


運転席に座ると、目の前のダッシュボードはbZ4Xほど先進的ではないものの、現代のEVとして不満のない造形といえるだろう。エンジン車やHVから乗り換えても違和感はないはずだ。


シフト操作は円盤状のスイッチを回転させて行う。縁のリングを押しながら右へ回せば「D」(前進)、左へ回せば「R」(後退)、そして中央位置が「N」(ニュートラル)だ。EVなのでこうした簡単なスイッチ操作で十分なのだが、リングを押しながら回すという操作方法はやりやすいとはいえない。


英国のジャガーは、エンジン車の時代から同様のシフト切り替えを採用しているが、円盤状のダイヤルをただ回せばいいだけで、クリック感をもたせることで確実な操作を促していた。RZが縁のリングを押しながら操作させる理由は確実性と安全性を考慮したためだと思うが、前後へクルマを移動させながら向きを変えるような場面では不便だ。駐車用の「P」(パーキング)に入れるボタンがシフト用のダイヤルとは別の位置にあることも、2代目「プリウス」から変わらない不便さのひとつだ。

○電気の走りは上質?



イグニッションスイッチを入れてDへシフトし、アクセルペダルを踏む。滑らかに静々と、そして的確な速度でゆっくりと走り出す様子は、高級車と呼ぶにふさわしい。この時点で、RZが相当つくり込まれたEVであることが伝わってきた。レクサスの各車種のなかで、最も高級車と呼ぶにふさわしいクルマといえるのではないかとも思った。



通りの道に出て、さらにアクセルペダルを踏み込むと、ペダルの踏み込み具合の通りに速度を増していく。操作に対して遅れのない的確な加速は、EVならではのクルマとの一体感を覚えさせる瞬間だ。

bZ4Xでは採用されていなかったが、RZはハンドル裏側のパドルで減速時の回生の強さを調節できる。標準は弱い側から2番目の効き目となっており、エンジン車やHVから乗り換えても違和感のない減速感になっている。そこから「-」(マイナス)側のパドルを操作することで、2段階回生を強めていくことができる。もっとも強くした状態では、EVになじんでいる人にちょうどいい回生の効き目となる。それでも私は、もう1段強いモードがあってもいいと感じた。そうすることで、アクセルペダルだけでのワンペダル操作により近づけた運転ができるようになるだろう。



それでも、もっとも強い回生に設定すれば通常走行での速度調節はアクセルペダルだけでほぼできる。これにより、アクセルとブレーキのペダル踏み変えが減り、運転がいっそう楽になるはずだ。高速道路では、もっとも弱い回生となるよう「+」(プラス)側のパドルを操作した。これにより高速での巡行で滑走感が出て、EVならではの滑らかさを実感できる。それでもまったく回生が働かないのではなく、アクセルペダルを戻したままにしておくと徐々に速度を落としていった。


「EV通」といわれるような消費者には、RZの回生は若干の物足りなさがあるかもしれない。だが、全体的には調和のとれた出力と回生の制御がなされたEVであることを確認できた。満足度は高い。



乗り心地は引き締まった手ごたえでありながら、路面の凹凸をしなやかに吸収し、減衰し、不快な印象はない。操縦安定性が的確でありながら、快い走りを続ける様は一流の乗り味といえるだろう。そこにEVならではの静粛性や滑らかさが加わる。このあたりが、RZがレクサスで最も高級な乗り味のクルマだと感じるゆえんだ。



走りのよさとは、単に速いかどうかではない。素早い動きに的確でありながら、乗り心地もしなやかであることが大切だ。そのすべてを満たしているのがRZといえる。



また速さの点でも、前輪側に150kWのモーターを装備し、後輪にも駆動力を持つRZに不足はない。アクセル全開を試すと瞬く間に時速100kmを超えそうになる。この走りは爽快で、乗っていて嬉しくなる。

○気になる点は…



一方、改善を望みたい点もある。



ひとつは、EVとして必要不可欠なバッテリーの充電残量を知るための「SOC」(ステート・オブ・チャージ)のパーセンテージ表示がないことだ。RZには燃料タンクの残量計と同じように、「F」と「E」の表記によるグラフ表示しかない。



EVでは充電残量が何パーセントかを知ることによって、走行可能距離の目安にすることができる。FとEによるグラフ表示に関してはbZ4Xでも不評で、トヨタは改善策を実施しようとしており、RZにも適用されるとのことだが、試乗車はまだ修正されていなかった。


次に、ハンドルのスポーク部分にACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の操作やメーター表示の変更を行うためのタッチ式スイッチがあるのだが、この反応が敏感過ぎて、少し指や手が触れただけで応答し、表示が変わってしまうところを指摘したい。運転中に操作するには不向きだ。



ほかには、交差点などに近づき減速すると、カーナビゲーション画面が周辺のカメラ映像に自動的に切り替わるのだが、地図が隠れてしまうので、右左折や進路変更が必要なときに、どの方向へ進路をとればよいか確認ができなくなってしまうところにも不便を感じた。最近はドイツ車も採用している表示の仕方だが、ナビゲーションの意味をなさなくなっている。見知らぬ土地で運転する運転者の心理を理解したうえでの新機能採用であるべきではないだろうか。



上記の通り細かな要望はあるが、RZは全体的に満足度の高いEVに仕上がっていると思う。



近年は人気の高いSUVタイプのEVが増えており、国産車ではトヨタのbZ4X、これとほぼ同じスバル「ソルテラ」、日産自動車「アリア」があるし、輸入車ではメルセデス・ベンツ「EQC」、BMW「iX」、テスラ「モデルY」、アウディ「e-tron」、ヒョンデ「IONIQ5」など枚挙にいとまがない。



そんな中でもRZは、日本で乗るうえで交通環境に合っていて、使い勝手のいいEVだと思う。自宅に普通充電を用意できる人には、一充電走行距離494km(WLTCモード)という性能は十分なはずだ。150kmほどを往復する週末のドライブなら途中で充電する必要はないし、それ以上の遠出をする際も1回の急速充電で目的地まで到達できるのではないだろうか。一充電走行距離をむやみに伸ばしても、価格に対する距離の延長分として、必ずしも費用対効果は高くない。



RZは素性のいい上質なEVだ。ライバルとなりうるSUV型EV、特に輸入車勢と比べても、RZの価値は十分にあると感じた。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)
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