限定公開( 2 )
2023年シーズンにリーグ3連覇、2年連続の日本一を目指すオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを、「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。
第76回は、中嶋聡監督が「無敵の中川」と命名した5年目の中川圭太選手（27）です。
1年目の交流戦で首位打者に輝くなど、巧みなバットコントロールと勝負強い打撃でチームの勝利に貢献してきました。打撃好調の秘密は、横や距離を変えた斜め、後方などからのボールを打つ“全方位”トス打撃です。
◆ “全方位”トス打撃を行う理由
「中川圭太さんほど、いろんな方向からボールを投げてほしい、という打者はいらっしゃいませんね。最初は、こんないっぱいの方向からトスバッティングをする人がおるんや、と驚きました」
こう話してくれたのは今季、独立リーグ、大阪ゼロロクブルズ（06BULLS）からアシスタントスタッフと呼ばれる打撃投手として入団した井阪功大さん（25）（大阪学芸高校-桃山学院大学）。
アシスタントスタッフは、試合前の打撃練習で投げるのはもちろんのこと、練習前の早出特打に投げたりボール拾いに全員で参加したりするほか、打撃練習前のトス打撃のボールも上げる。
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「真後ろからは、バットの軌道に投げればいいのですが、右斜め前からの長いトスは、山なりになってしまったり、食い込んでしまったりするので難しいですね。いつも緊張しています」と井阪さん。
中川はその意図や狙いについて「いろんな方向からを打っていますが、身体のバランスやボールの見方、身体の使い方など、ここさえ押さえていればいいというポイントは全部一緒で、それを確かめているのです」という。
様々な角度からのトス打撃は今年から始めた。「キャンプではまずバットを振る、3月に入ってからはゲームのため、オープン戦はシーズンのためというように、いろいろ考えてやってきました」
シーズンに入ってからは、前日の試合での修正などその日の試合に合わせた調整になるのだろう。「身体のバランスなど、その日によってやらない方向もあります」やらないメニューもあるというから、単なるルーティーンではないということだ。
◆ 中嶋監督から絶大な信頼を得る「無敵の中川」
大阪府阪南市出身。PL学園-東洋大から2018年のドラフト7位で入団。巧みなバットコントロールには定評があり、19年には新人として史上初めて交流戦首位打者に輝き、111試合に出場した。
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22年10月15日のソフトバンクとのクライマックス・ファイナルステージ第4戦（同）の9回にサヨナラ打を放って2年連続の日本シリーズ進出を果たし、ベンチ前で中嶋監督と抱き合ったシーンはファンの記憶に新しい。
「気にいってますね。いい場面で打てるバッター、チャンスに打てる打者になりたいので。それを監督さんにつけてもらったんですから。ファンの方もそう言ってくださるのはうれしいですね」
ただ、その称号を知ったのは中嶋監督が命名してから約1年後。「あまりそういった情報には接しない方なので、全く知りませんでした。タオルが販売される少し前に教えてもらって知りました」という。
登録は内野手だが、スタメンでは「中堅」や「左翼」に就くことが多い。それでも22年のヤクルトとの日本シリーズ第6戦（神宮）で、サンタナの大飛球をフェンスに背中をぶつけながらジャンプして捕球する超美技。今月16日のロッテ戦（ZOZOマリン）でも、1-1の7回、岡大海の左中間方向への打球をフェンス手前でスライディングキャッチする美技で先発の宮城大弥を盛り立てるなど、守備でも貢献している。
外野守備には東洋大の先輩、小田裕也のアドバイスが生かされている。「1歩目のスタートの切り方や、どちらの脚でタイミングを取るのか、中堅と左翼ではどういう感じで一歩目のスタートを切っているのかなどを教えてもらっています。練習で試してみると『なるほど』と思うことばかり。本当に勉強になります。勝負勘や野球の知識が凄いと、尊敬します」と感謝する。
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中川のトレードマークになりつつあるのが、本塁打を放った時などのベンチ前でのハイタッチで、親指と中指、薬指を丸め人差し指と小指を立てるポーズ。
キツネのように見えるが、実はネズミだという。ある時、「お前はビッグマウスだから、ネズミだ」と若月健矢が“命名”し、あのポーズも授かったという。
中川はどちらかといえば、寡黙な選手。「ビッグマウスはケンヤさん（若月）の方なんですが」と首をかしげるが、場を盛り上げて選手の緊張を和らげるなど気配りが出来る若月ならではのコミュニケーションの取り方から生まれたものだ。
ファンにも浸透し始めている。5月7日の西武戦（同）での「Bsオリっこデー2023」のスタメン選手とファンがベンチ前でのハイタッチする「スタメンハイタッチ」では、5歳の女児が指を立てるポーズで待っていてくれた。
「グラウンドに飛び出したら、あのポーズをやってくれていたので驚きましたが、うれしかったですね」と中川。「ありがとう」と声を掛け、ネズミポーズでハイタッチを交わしたという。
3番に座ることが多いが、四球を選んで好機を広げ得点に結びつけるケースも多い。
開幕2戦目（4月1日）の西武戦（ベルーナD）では、2死からファウル6球で粘って11球目で四球を選び、次打者杉本裕太郎の先制2ランを引き出した。
「後ろにつなぐのが僕の仕事なんで、打順に関係なく自分の仕事をするだけです」
コースに逆らわず左右に打ち分け、一発長打も秘める。4連敗中だった21日の日本ハム戦（京セラD大阪）では、3点差に迫られた直後の4回に、5号3ランを放ち、連敗ストップに貢献した。
「気持ちで打ちました」。クールに見えるが、静かに燃える。チャンスに強い「無敵の中川」が、3連覇には欠かせない。
取材・文＝北野正樹（きたの・まさき）
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