小林都央(とお)さん ギフテッドという言葉を聞いたことがあるだろうか。「飛び級で進学」「教科書は一度読めばほとんど理解」など、天才少年少女というイメージをもつ人も多いだろう。しかし本人は、「授業が全く面白くない」「同級生と話が合わない」「学校に行くのが辛い」といった負の側面を感じていることも少なくない。表からは見えづらい「心のうち」はいかなるものなのか。今回は、IQ154、小学4年生で英検準1級に合格したという小林都央さん(11)のケースを紹介する。<阿部朋美・伊藤和行著『ギフテッドの光と影 知能が高すぎて生きづらい人たち』(朝日新聞出版)より一部を抜粋・再編集>
【写真】3歳で難解な専門書を読む都央さん* * *
■小2で高IQ集団「MENSA」に認定
パソコンの画面に映る少年は、大きく口を開けて笑顔を見せてくれるとてもあどけない小学生だった。東京都に住む小林都央さん(11)とオンラインツールの「Zoom」で初めて会ったのは2021年12月のことだった。ヘアドネーション(髪の毛の寄付)のために伸ばした長い髪を束ね、くるくると変わる表情で語ってくれたのは、学校に通うことのつらさだった。
「学校に行かないといけない必要性や義務は理解しています。でもぼくにとって学校は、ありのままでいられない場所で、本音を言うと好きじゃない」
都央さんのIQ(知能指数)は154。平均とされる100を大きく上回る。特別な才能を持つとされる「ギフテッド」だ。
小学4年で英検準1級(大学中級程度)、小学5年で漢字検定2級(高校卒業程度)に合格し、英語と日本語を操るバイリンガル。人口の上位2%のIQを持つ人たちが参加する「JAPAN MENSA」に小学2年生で認定された。複数のプログラミング大会で、特別賞などを受賞。住んでいる地元の教育委員会からは、映像コンテストやギフテッド向けのプログラムで優秀な成績を収めたとして、2年連続で表彰を受けた。世界屈指の医学部を有し、最難関大のひとつであるアメリカのジョンズ・ホプキンス大学のギフテッド向けプログラムでは最優秀の成績を収めた。
都央さんの経歴には、こうした数々のきらびやかなものが並ぶ。一方で、幼いころから集団での生活にストレスを感じ、適応に苦しんできた。現在は週に2日ほど学校に行く「選択的登校」をとっている。
都央さんとの出会いのきっかけとなったのは、コロナ禍の一斉休校を機に不登校になった子どもたちを紹介した連載だった。連載が朝日新聞に掲載された21年11月、一通のメールが届いた。
「『不登校は問題』『学校には行かなくてはならない』という考えに疑問を持ちます。 僕は、勉強は好きです。友達と遊ぶのも好きです。でも、ずっと学校に行くのは好きではありません。今日は、午前中は勉強をして、午後から美術館に行く予定です。こんなスケジュールを考えるとワクワクしてきます」
大人びた文面に書かれた自己紹介には、小学4年生と書いてあった。学校に行かないといけない現状を憂う文章と書かれた学年が一致しなかった。
メールの差出人が都央さんだった。ちょうどメールをもらう前からギフテッドに関する取材を始めていた折。もしかして、都央さんはギフテッドではないだろうか。母親の純子さんとすぐに連絡を取り、やりとりをするうちに、都央さんが生まれつき飛び抜けた才能を持っていることが判明した。
Zoom取材での第一印象は、多彩な語彙(ごい)を操り、目を輝かせながらはきはきと答えてくれる小学生だった。だが学校生活に話題が及ぶと、次第に表情は硬くなっていった。都央さんの口から紡ぎ出される言葉は、学校という場がいかにつらいのかを物語っていた。
■「行っても何も学ばない」
取材の前に都央さんがまとめてくれた「なぜ学校に行きたくないか」というチャート図がある。
「時間の無駄→行っても何も学ばない→つらいだけ」
「知っている→楽しくない→つまらない→つらいだけ」
だから、やりたいことを家でやりたい、そのほうが有意義と書かれている。都央さんにとって学校は「ありのままでいられない場所」となった。毎日登校することが負担になり、泣いて帰宅する日もあった。
どんな時に学校がつらいと思うのか。
授業で、海の生き物を描いて色を塗りましょうと先生が言った時、都央さんは、白いチンアナゴを描いて提出した。すると、先生からは「色を塗っていない」と言われてしまった。「白という色ですよ」と言ってもなかなか理解してもらえず、そこで諦めた。「自由に描いていいよ、と言われても理不尽な枠を決められているようだった」と感じた。
算数の時間に、指定された解き方以外のやり方を見つけても、言われた解き方の通りにしないといけない。
黒板は先生が書いた通りに書き写さないといけない。
「それが当たり前なんだから」。「言われたこと以外はしてはいけない」。そんなことを言われ、自分のアイデアを諦めることもある。がやがやと様々な音がする教室にいるだけで疲れてしまう。好奇心を抱くものを学びたいと思っても、それが叶わない。
ヘアドネーションのために髪を伸ばしていると、「なんで女子が入ってくるんだよ」と言われた。左右違う色の靴下をはいていくと「おかしい」と揶揄(やゆ)される。都央さんは「じゃあなんで左右同じ色をはいているのか、逆に聞き返したりします。たいてい答えられないです」と振り返る。
■学校に行くことが解決法ではない
登校する時も、下校した時もつらそうな表情をしていた。「普通」の枠に押し込められ、そこから外れると指摘される。そんな学校生活を過ごす都央さんを見て、純子さんは「『自分らしさ』や『自分が好きなこと』を見つける機会が少なくなってしまうのは悲しいこと」と感じるようになった。
そうして、毎日登校するのではなく、疲れた時には「リフレッシュ休み」をとる。週に何日か学校に行く「選択的登校」という方法をとった。純子さんは悩みながら都央さんの思いを尊重したという。
「学校に行くのが当たり前で、なんとかして学校へ行かせようという風潮がある中で、息子にとって学校があんまり勉強できる場所じゃないようで。息子はすごく勉強したいのに、教室はザワザワしていたり、自分の学びたいことができなかったり。息子を見ていると、学校に行くことが解決法ではないと気づきました。自分の思い込みや世間体を気にして学校になんとしても行かせようと思わないようにしました」
二人でどうしたらいいのかと対話を重ねながら、選択的登校というスタイルにたどり着いたという。
(年齢は2023年3月時点のものです)
【後編】小学1年で息子が「IQ154」と発覚したときに母親は何を思ったのか 「ギフテッド」の子ども持つ親の“本音”に続く