沈黙を破ったのはマサエでした。
「ユウゴ、どうなの?」
「タカシに聞いたのか?」
「そんなことはどうでもいい。聞かれたことに答えて」
「……本当だよ」
「なんで? なんで黙っていたの?」
「昔の話だし、言う必要がないと思ったから」
「言う必要がない? あるでしょう? だって元カノだよ? あなたの元カノが、ずっと家に遊びに来ていたんだよ?」
「確かに俺の元カノかもしれないけれど、マサエにとっては大事なママ友だろ? メグと会ってから楽しそうにしていたし……その関係を壊したくなかったんだよ」
「“メグ”ってなに? “別れてからも、ずっとどうしているか気になっていたから近くで見守れて安心”みたいなこと言っていたらしいじゃない。私に隠れてコソコソ2人で会っていたんでしょ?」
「2人で会ったことはないよ。そこは誓って言える。あいつ、つき合っていた頃から親とうまくいっていなかったみたいなんだ。ちゃんと幸せになっているかなって、そういう意味で気になっていただけだよ。男女の関係の話じゃない」
「2人で会ったことはなくても、連絡はとっていたんじゃないの?」
「それは、なんていうか……。父親がいないからLINEで男親目線での相談に乗っていたけど、それだけだ」
「シングルマザーの元カノからの相談に乗る既婚者。それだけで怪しいよ。ユウゴはそれをただの“親切”で片づけるんだね」
「だから怪しくないって!」
ユウゴがイライラしたように声を荒らげます。
(怒鳴りたいのはこっち……)
そうマサエは思いました。
「だいたいメグちゃんもメグちゃんよ。ママ友の旦那が元カレだって分かった時点で、身を引かない? それを図々しく相談までして……どういうつもり」
「そんな言い方するなよ! アイツは俺がお前の旦那だってわかったとき、お前ともう会わない方がいいって言った。でも俺がそうするとお前のママ友がいなくなるって思って、それはやめようって提案したんだ。アイツは悪くない」
「ナニソレ……。メグちゃんを庇うんだね。なにが“はじめまして”よ! 2人して、どこまで私をバカにすれば気がすむのよ!」
マサエは吐き捨てるとリビングから飛び出しました。大きな音を立てて扉を締めます。
|
|
マサエはプライドをズタズタにされたように感じ、寝室へ逃げベッドにもぐりこんで泣きました。時計の音とマサエの押し殺した泣き声だけが暗い部屋に響きました。
【編集部のあとがき】
学生時代につき合っていたことを黙っていたのは夫のユウゴです。挙句の果てにマサエに黙ってこれまでもLINEで連絡を取っていたというのです。信頼していた2人からの裏切り。状況が読み込めずマサエは混乱するばかり、やるせない状況に追い込まれたようです。
【第9話】に続く。
文・編集部 編集・ここのえ イラスト・Ponko