写真太宰治の初めての長編小説は、あのシェイクスピアの『ハムレット』の翻案だった。戯曲形式で書かれたその作品に以前から惹かれていたのが、第30回読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞したばかりの五戸真理枝である。その思いが叶い、自身の上演台本と演出で『新ハムレット〜太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?〜』が上演される。ハムレットを演じるのは、ミュージカルからストレートプレイまで自在に活躍する木村達成。演出家と俳優が、“太宰版ハムレット”の魅力を語る。
太宰の小説「新ハムレット」を読んだとき、「太宰治といえば暗くて内向的なイメージがありましたが、シェイクスピアの『ハムレット』という有名な戯曲を自分で語り直そうと闘う強さを感じた」と五戸は言う。その闘いの結果できたものに、「笑えるところもいっぱいある、パロディとしての強烈さ」も感じ取った。「その従来のイメージとは違う太宰治の息遣いが、実際に立ち上げることで聞こえてくるのではないかという興味があって」、いつか上演したいと、長すぎるセリフを削るなどした上演台本を自身で作っていたそうだ。
その台本を読んで、ハムレットを演じる木村はまず、「太宰治さんは僕に当て書きしたんじゃないかと思うくらい(笑)、ハムレットのセリフが僕が普段口にしていることと同じでびっくりした」のだそう。この大役のオファーについても、「僕は、作品が決まった瞬間が喜びのピークで、その後それがどんどん苦しみに変わっていくタイプなので、そこも悩み苦しむハムレットに似ている」と語る。まさしくハムレットに適任だ。そんな木村を、「ハムレットにも太宰にも似ている」と評し、「木村さんの、繊細で正直でストレートで、弱みも出せるところは、太宰版ハムレットを演じていただくうえで一番重要かもしれません」という五戸。木村が演じるハムレットに期待が募る。
それと同時に、現代の日本で生きる俳優がそれほどシンクロするという太宰版ハムレットへの興味も尽きない。五戸は、「今回の上演は、シェイクスピアというビッグネームの、なかでもビッグネームな『ハムレット』を、いかに日本人感覚、お茶の間感覚に引きずり下ろせるかが最大のテーマ」と話す。ハムレットや彼を取り巻く登場人物たちが、今の私たちと変わらず悩んでいる。それも目の前で。劇場にはきっと、演劇ならではの共感が広がっていくだろう。
取材・文:大内弓子