スマホに入ってる「LiDAR」はクルマでも役に立つ? 日産に聞く

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2023年06月05日 11:42  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
一部のスマートフォンが搭載している「LiDAR」という技術が、そのうちクルマにも広がるかもしれない。「LiDAR」はレーザーを反射させて対象物までの距離や形状を計測する技術だが、これをクルマの安全装備に活用できるらしい。日産に話を聞いた。


○スマホの「LiDAR」とは?



「LiDAR」は「Light Detection And Ranging」の略で「ライダー」と読む。レーザーの光を対象物などに反射させ、その反射によって得られた情報をもとに対象物までの距離や形状を計測する技術だ。身近なところでは一部の高級スマホが採用し、カメラの機能向上に役立てている。このLiDARをクルマに実装できればさまざまなメリットがあるという。「人とくるまのテクノロジー展 2023」の会場で日産自動車の担当者に話を聞いた。


LiDARを活用したスマホの機能には「LiDARスキャナ」がある。例えば、友人や家族の身長を測りたい場合、計測したい人にカメラを向ければすぐに身長が計測できる。測定値には1センチから数センチ程度のズレが生じるので決して精度が高いとはいえないが、大体の数値を把握するにはとても重宝する。



計測したい対象物の幅や奥行きなどを立体的に捉えられる点がLiDAR搭載カメラの利点だ。立体的な計測を活用すれば、複数枚の写真を立体的な3Dモデルに変換することもできる。VRが作成できるアプリケーションや3Dプリンターなどと併用すれば、誰でも気軽に3Dモデルを作成したり、3Dモデルを印刷できたりするなど、活用の場は広がっている。



現時点でLiDARは、Apple(アップル)の「iPhone 13 Pro」や「iPad Pro」など、比較的高価格帯のスマホが搭載している機能となる。



LiDARはガラスや透明な物体などではレーザーが反射しにくいため、スキャンしにくいというデメリットもある。その一方で、人や家具、部屋全体の空間などは認識しやすい。

○「LiDAR」で緊急回避を自動化

スマートフォンでも採用され身近な存在になりつつあるLiDARは、クルマに搭載すれば運転支援技術の機能が飛躍的に向上するという。日産が「人とくるまのテクノロジー展 2023」で展示していたのは、LiDARを活用した高度な緊急回避制御技術「グラウンド・トゥルース・パーセプション技術」だ。



グラウンド・トゥルース・パーセプション技術は、次世代LiDARと独自のアルゴリズムにより道路上の状況を瞬時に分析し、自動で緊急回避操作などを行うものだ。具体的には、クルマのルーフ部分にLiDARを1つ、車体を取り囲むように10台のカメラと7つのレーダーを搭載。クルマ周辺の物体の形状や距離を高い精度で認識しつつ、カメラとレーダーから得た情報を組み合わせ、周囲の空間と物体の形状をリアルタイムに把握する。緊急回避を自動で行えるようにすると同時に、走行中に遠くから迫ってくる障害物なども検知可能となる。



さらに、地図情報には掲載されていない路面の詳細な状況を把握できるため、自動運転の安全性や精度を高めるためにも同技術を活用できる可能性がある。


○現状の課題はコスト



メリットの多いLiDARだがクルマへの導入には課題がある。コストだ。現時点で日産は、同社の「スカイライン」を用いてグラウンド・トゥルース・パーセプション技術を試用している段階。これと同等の技術を、例えば市販のミニバン「セレナ」に搭載しようとすると、車両本体価格がかなり高額になってしまうため、現実的ではないらしい。


価格とのバランスを考えると、こうした先進の安全技術はどうしても高級車から採用せざるを得ない現状がある。徐々に普及していけば、比較的安価なモデルにも搭載できるようになっていくはずだ。メリットが多いLiDARを活用しない手はないと日産は考えており、精度を高めつつ、あらゆる車種にLiDARをはじめとする運転支援技術を実装していきたいと考えているそうだ。そのために、部材調達の段階から精査している最中だという。


日産の担当者は「現時点では確約できない」としながらも、2026年から2030年までの間にはLiDARを活用したグラウンド・トゥルース・パーセプション技術を実装したミニバンを市場に投入したいと話してくれた。近い将来、コンパクトカー「ノート」や軽の電気自動車(EV)「サクラ」などがLiDARを採用する日がやってくるかもしれない。そうなれば、交通事故の減少に大きな役割を果たすことは間違いないだろう。



室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら(室井大和)
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