花沢健吾『アンダーニンジャ』が共感と興奮を誘う理由……“普通の人”が”普通”の技を極めたバトル描写

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2023年06月06日 07:01  リアルサウンド

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 人間は格闘技や武術にこだわらずに、どこまで強くなれるのか──。『週刊ヤングマガジン』に連載中の人気漫画『アンダーニンジャ』が示しているのは、そんな“一般人の戦い”を極限まで突き詰めた境地だ。


(参考:【写真】『アンダーニンジャ』最新10巻のやばい内容とアニメ化のキャンペーンを見る


 なぜ同作が読者の共感と興奮を誘ってやまないのか、その理由を忍者たちのバトル描写から読み解いてみたい。


 『アンダーニンジャ』は2018年から連載が始まった漫画で、今年10月からTVアニメ化されることも決定している。累計800万部を突破した大ヒット漫画『アイアムアヒーロー』の作者・花沢健吾による最新作だ。


 作品の舞台となるのは、およそ20万人の忍者が潜伏している世界線の現代日本。太平洋戦争後、忍者組織はGHQによって解体されたはずだったが、時代と共に変貌を遂げていたという。


彼らは配達ドライバーや区役所の職員、コンビニ店員といった姿で世を忍んでおり、主人公となる雲隠九郎もいわゆる「ニート」にしか見えない。『アイアムアヒーロー』ではゾンビアクションと現代社会が並列に描かれていたが、今作でもフィクションとリアリティが交差する世界観は健在と言える。


 忍者たちは平凡な人間のように見えるが、各々が高度な“忍術”の使い手。しかしそれはファンタジーのような力ではなく、日常の延長線上にあるような技能だ。


 たとえば第1話から、印象的なシーンが描かれている。職にあぶれた末端の忍者である九郎は、紙巻たばこと爪楊枝を組み合わせた吹き矢をストローから飛ばし、暇つぶしがてらに腕を磨いていた。


ほかにも、パルクールのような壁歩きによってトイレットペーパーを取りに行くなど、現代人の日常に密着した忍術のあり方が描かれている。


■“達人”ではない一般人たちのバトル描写


 『アンダーニンジャ』のさらなる魅力は、忍者たちのバトル描写に隠されている。忍者の身のこなしは一般人とは比べ物にならないが、かといって特別な技能に依存しているわけではない。


 機転を利かせ、相手の裏をかいたりだまし討ちを仕掛けたりすることで、勝利を収めようとする。忍術もそうした手段の1つであり、コンビニのおでんを使った身代わりの術など、一般人が想像できる戦い方ばかりなのだ。


 いわば同作の忍者たちは、一般的な技能を極限まで磨き上げた“どこにでもいる人間”のレベル100のような存在だと言える。だからこそ読者が「自分ならこうする」と想像する余地があり、共感を誘うのだろう。


 一般人が共感できるバトル漫画という意味では、『アンダーニンジャ』から木多康昭の『喧嘩稼業』『喧嘩商売』を連想することも難しくない。


 同作の主人公・佐藤十兵衛は、“知略”を最大の強みとしているのが特徴。格闘技の達人ならではのテクニックではなく、その場にあるものを凶器としたり、相手を心理的に翻弄したりすることで勝利を収めていく。


 ただ、『アンダーニンジャ』の場合にはSF設定というスパイスが加わっていることにも触れるべきだろう。忍者たちは、科学技術を活かした“忍具”によってバトルを行うのが当たり前。光学迷彩による隠れ身の術や、小型ドローンの手裏剣などが飛び交っており、今まで見たことがない現代的忍者ワールドが構築されている。


 現代社会を地盤として、新たな形の忍者像を提示する『アンダーニンジャ』。今後いかにして読者の想像力を刺激してくれるのか、期待が高まるばかりだ。


文=キットゥン希美


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