「赤ちゃんの泣き声に不安になる」「子どもが憎らしい…」。子育ての「苦しさ」の正体とは?

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2023年06月07日 07:41  マイナビニュース

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「赤ちゃんの泣き声を聞くと、不安感に襲われる」「甘えてくる子どもの手を振り払いたくなる」など、かわいいはずの我が子に対してネガティブな感情を抱いてしまい、そんな自分にびっくりしてしまった経験はないでしょうか?


苦しい子育ての背景には、なにがあるのでしょうか? 臨床心理士の杉野珠理さんと、精神科医の荒田智史さんにお伺いします。

○■赤ちゃん部屋のおばけ



「子どもをかわいがれない」「子育てするのがつらい」「子どもの笑顔を憎らしく思ってしまう」など、楽しく幸せなはずの子育てで思いもよらぬ感情に襲われ、罪悪感を覚えてしまうという親御さんは、実は少なくありません。



このような苦しい子育ての正体を紐解いていくときに役立つのが、「赤ちゃん部屋のおばけ」(フライバーグによる)です(参考文献1)。



これは、特にママが、自分の子育てを通して、かつて自分がどんなふうに自分の母親から子育てをされてきたかを思い出すことです。



幸せな記憶を思い出す一方、不幸せな記憶を思い出すこともあります。

自分の赤ちゃんの泣き声などによって、得体の知れない不安が湧いてきて、赤ちゃんを抱っこしながら、その気持ちを抑えられなくなってしまうことも。



それは、まるで遠い記憶の彼方にあったかつての亡霊が急に現れるような感覚だといわれています。

○■子育てを通して自分の心の傷と対面する



ある相談事例では、かわいいはずの我が子を前に、「なぜこんなにも恵まれているのだろう。私のときは違ったのに…」と、うらやましさやいら立ちを覚えてしまったというケースがありました。



中には、自分の子ども時代の「心の傷」が再体験され、子育てがつらくなってしまう人や、自分の「心の穴」を埋めるために、無意識に同じような子育てを再演してしまう(生き直しをしてしまう)というケースもあります。



このように苦しさの正体を自覚することは、それ自体が自分自身への癒しとなります。

このときまず大切なのは、自分の生い立ちを冷静に振り返り、自分の生き方を客観視することです。そして、その「心の傷」や「心の穴」に対して、自分自身をいたわり、ねぎらってあげることです。

心理学では、これを「セルフコンパッション」と呼びます。自分一人で直面するのが難しい場合は、臨床心理士や精神科医のカウンセリングが役立つでしょう。



他人をケアするには、まず自分自身がケアされている必要があります。

まずママやパパの幸せが第一です。その大前提があってこそ、子どもの幸せがあるといえるでしょう。

○■子育ては本能なのか?

また一方で、世の中では「子育ては本能だから、子どもは産んだらかわいいと思うのが普通」という意見もよく聞かれ、「かわいがれない私はおかしいの?」と苦しむ親御さんもいます。



果たして、子育ては本能的なものなのでしょうか? 

結論から言うと、子育てに限らず、食事やセックスを含めて、人間の行動のほぼ全ては、本能だけでできるものではありません。



もう1つ必要なものがあります。それが、経験です。



たとえば、赤ちゃんは、生まれた瞬間、実際に見たり聞いたり触れたりしても、脳では見えず聞こえず、痛みも感じていません。これらの五感は、実際の刺激をくり返し受ける経験によって、ちょっとずつ発達していきます。愛着の心理も、特定の養育者との触れ合いの刺激をくり返し受ける経験によって、ちょっとずつ発達していきます。

同じように、子育て(子どもへの愛情)も、赤ちゃんとの触れ合いの刺激をくり返し受ける経験によって、ちょっとずつ育まれていくのです。



このメカニズムには、オキシトシンというホルモンが働いています。オキシトシンは、授乳中にママと赤ちゃんの脳内で同じように分泌され、「愛情ホルモン」とも呼ばれています。おっぱいだけでなく、抱っこしたり、微笑んだり、優しく声がけしたり、おむつ替えしたりすることなどでも、オキシトシンが高まることがわかっています。また、ママに限らず、パパやおばあちゃんが赤ちゃんのお世話をしても、オキシトシンは高まります。



つまり、子育ての心理は、養育者がママであってもパパであっても、本能をもとにして、経験によって高まっていくといえます。



以上から、子どもを産んだからといって、本能的にかわいく思えたり、泣いている赤ちゃんの要求を本能的にキャッチできる、ということは必ずしもないということです。オキシトシンは男女問わず分泌されることから、「母性本能」を持つ女性は子育てが得意であるはずだ、と決めつけることはできません。



経験を重ねながら、だんだん親らしくなっていく。そんな心構えも、時には大切でしょう。



なお、ワンオペや仕事との兼業のストレスによって、オキシトシンがうまく働かなくなることで、一時的に、「子どもがかわいく思えない」ということもあります。



これが続くと、育児疲れ(燃え尽き)や産後うつ(うつ病)に発展してしまうことも。だからこそ、子育てにはサポート体制が重要なのです。



参考文献/『母子臨床と世代間伝達』渡辺久子(金剛出版)2000


※本記事は書籍『臨床心理士と精神科医の夫婦が子育てで大事なこと全部まとめてみました』をベースに構成しています。



文/杉野珠理、荒田智史



杉野珠理・荒田智史 すぎのじゅり・あらたともふみ 杉野珠理(すぎのじゅり) 臨床心理士、公認心理師、心理学講師。 心療内科でのカウンセリングのほか、企業や自治体で親御さん向けの子育てセミナー講師、自治体で中高生向けの心理学講座の講師を務める。一男一女の母。 荒田智史(あらたともふみ) 精神科医、精神保健指定医、精神科専門医。 東京都立梅ヶ丘病院(現・東京都立小児総合医療センター)、関東医療少年院などを経て、現在は医療機関の精神科・心療内科で診療にあたる。定期的に自治体で就学前相談や思春期相談も受けている。一男一女の父。二人は夫婦で、初の共著本『臨床心理士と精神科医の夫婦が子育てで大事なこと全部まとめてみました』(発行:集英社クリエイティブ/発売:集英社)が好評発売中。
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この著者の記事一覧はこちら(杉野珠理・荒田智史)

このニュースに関するつぶやき

  • 日本人の子育てはとくにべったりだからな。欧米だと子どもは別の部屋に寝かせている=親と距離があって、親と子は別の人間って認識があるが、日本の子育てはべったりで常に可愛がる必要があるからね。
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